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考察ーー倉戸春人の場合

予約投稿の設定をしくじって、同タイミングで2話投稿されています。

ストック少ないのに、やってもうた…

ってことで、本日は2話分アップされているので、よろしくお願いします。

「だは〜、疲れた」


 ニコラウス大司教が本日の訓練を終えると宣言するとともに、春人はその場にへたり込んで天を仰いだ。


 周りを見ると、他の生徒も同じ様にへたり込んでいる者が多かった。


 みんな、向こうの世界では経験することのなかった未知の能力に、飽きずにニコラウスが終了の宣言をするまで、夢中になって練習したのだ。


 しかし、慣れない魔法やスキルを制御することは想像以上に体力的にも精神的にも疲労を募らせた。


 みんな一様に表情に疲労の色を滲ませていた。


 春人も類に漏れず、疲労感が全身を覆っているが、他の生徒とは違った意味で疲労であった。


 くっそ、魔力を()()()()使()()()()がここまで難しいとは思わなかった。


 春人は自分のステータスを見て、()()()魔法を使うのはマズイと直感していた。


 クラスメイトが「パラメータ100を超えているステータス幾つある?」などとやり取りしているのを横目で見ている中、全てのステータスが3桁を超えており、むしろいくつかは4桁をも超えている自分のステータスを思い出し苦笑した。


 ステータスは皆と一緒である選抜組ですら、こちらの世界の者からすると度肝を抜く威力だったのに、その10倍はあろう魔王のステータスで魔法を使ったら大惨事になるであろうことは火を見るよりも明らかだ。

 因みに5割程度に加減して試した魔法ーー影の位置と形を把握する[影探知(シャドウサーチ)]ーーだが、瞬時にして城全体だけでなく半径10キロ圏内の街の影情報まで把握できてしまった。

 想定以上の広範囲・大魔法になってしまったことに慌てて魔法をキャンセルし、次回からは1割以下に魔力をセーブして使うように心がけた。

 攻撃魔法を試さなくて良かったと心から思ったのであった。


 争いをしたいわけじゃないんだよな……


 明らかに『魔王』という自分の存在は『争いの種』となるのだ。


「あ、その復活するって魔王。俺だわ。

 あんたらの召喚でこっちの世界に来ちゃったけど、世界征服とかする気ないので元の世界に戻してくんね?

 そしたらこっちの世界の脅威が去るし、俺の望みも叶うし、win-winじゃね?」

「そっかー、呼び出しちゃってごめんねー、元の世界に送りかえすわー」


 みたいなギャクマンガ的展開は期待できなそうだからな……


 っていうか、復活したくて復活したワケじゃないんだよな。

『大召喚』の可否選択時に「NO!」と即答したのに、多数決という数の暴力でこちらの世界に来ることになったんだし、間林先生の復活のために組み込まれていた上位命令の巻き添えで魔王として完全復活(一部スキルは取得失敗したけど)してしまったのだ。


 てか、俺、何も悪くなくね?


 でもうまく立ち回らないと、ラスボスとしてクラスメイトに討伐されるなんて最悪の未来もあり得るんだよな……


「はぁ〜……」


 春人が盛大にため息を吐き出していると、不意に頰に冷たいなにかが触れる。


「うわっ!」

 慌てて跳びのいて振り返ると、飲み物のパックを手に持った七海の姿がそこにあった。


「ふふふ、そんなにビックリした?

なんか辛気臭い顔してたから……はい。飲み物とタオル。このドリンク、水分補給と一緒に魔力も少し回復するみたいよ」

 春人の驚いた顔が面白かったのか、七海がにこやかに微笑んでドリンクを春人に渡す。


「そんなに変な顔してたか?

 あ、これ、サンキューな」


 七海の笑顔にドキリとしながらも、春人は軽口を言って渡されたドリンクを口に含んだ。

 疲れた身体にそのドリンクが染み渡っていく。


 そう。今の俺には世界征服より、七海と元の世界に戻って、あの平凡な生活を取り戻すことの方が優先されるんだよな。と、再認識させられる。


「訓練してみて分ったけど、藤堂くんと、緋屋根くん凄かったね」

 タオルで首筋の汗を拭いながら七海が話を続ける。


 登下校時はともかく、クラス内でこうやって近くで話すのは珍しいなと思ったが、話の内容を聞いて納得する。


 いつも一緒につるんでいた剣壱と海斗が選抜チームに行ってしまい1人で居た自分を心配して声をかけてくれたのだ。


 つり目がちで粗暴そうな印象の七海だが、周りに気を配る優しい心を持っているのを春人が一番知っていた。


「あいつらは規格外なんだよな。

 夕飯にはあいつらも戻って来るみたいだから、そん時に向こう側の訓練の様子を聞こうと思ってる」


「それがいいかもね。

 なんとなく何かに悩んでるのかな、と思ったんだけど、私の思い違いで良かった。

 そろそろ祭理ちゃんの所に戻るね」


 いつも通りに言葉を返すと、七海は安堵の表情を浮かべて、友人の所に戻ろうと踵を返した。


 七海の背を見た瞬間、脳裏にとある場面が浮かぶ。


 最愛の人が凶弾に倒れる姿――


 絶叫――


 ユニークスキル【憤怒ノ大罪】獲得を知らせる世界の言葉――


そして、場面が暗転し、血に塗れた両手と、目の前に広がる死体の山――


「うっ……」

 春人は頭を抑えて呻き声を上げた。


 記憶にない場面。


 だが、春人は直感していた。


 これは自分が魔王としてこの世界にいた時の記憶の断片であることを。


 そして、激しい憤怒の中、魂に刻みつけた言葉を思い出す。


「もう、二度と、最愛の人を奪わせない……」


 春人の唇から、誰にも聞こえないくらいの小さな声として、思い出した言葉が溢れた。


「春人。大丈夫?」

 七海が、春人の異変に気付いて振り返り戻ってきた。

 慌てていたようで、クラスメイトの前では「倉戸くん」と呼んでいるのが、2人でいる時の呼び方になっていた。


「ごめん。大丈夫。ちょっと目眩がしただけだから」

 春人は無理やり笑顔を作って答えるが、その笑顔がぎこちないものになっているようで、七海の心配そうな表情は変わらない。


「熱、は無いみたいね。ホント、大丈夫?」

 春人の額に手を当てて、心配そうに春人の顔を覗き込む。

 その間近に見る七海の顔に、心臓がドキリと跳ね、抱きしめたいという衝動をぐっと堪えた。


「本当に大丈夫だから」

 もう一度言うと、七海は渋々と手を引いた。


「ありがとう。

 あ、そうだ。ちょっと手、出してもらっていい?」

 優しさに礼を言い、手を出すようにお願いする。

「うん」

 七海は頷くと、先程に春人の額から引いた手を差し出す。

 春人は差し出された手の手首あたりに両手を翳した。


「ーー……」

 春人が小声で呪文を唱えると、七海の手首に落ちていた春人の影が形を変え具現化して黒いミサンガの形になった。


「え、何これ、すごい。具現化系の魔法?」

 出来上がった黒い願い紐(ミサンガ)を見て七海は驚きの声を上げた。


「幸運を上げるアイテムを作り出す魔法。あまり戦闘向きの魔法じゃないから、需要はなさそうだけど、こうすればお揃いみたいで良いかなって」

 春人も自分の腕に同じ物を作り出して、七海に見せる。


「これ、お互いのミサンガの形状がリンクしてるんだ。ミサンガを引っ張れば、相手のミサンガも引っ張られる。どちらかがこれを切れば、相手のミサンガも切れて危険を知らせることもできるんだ」

 春人は説明しながら自分のミサンガを引っ張ってみせる。

 すると、七海のミサンガも同じように引っ張られる。


「もし寂しくなったら、そのミサンガを引っ張ってくれ。その時は、俺はいつでも応える。

 そして万が一、身の危険が迫ったなら、それを千切ってくれ。その時はどこにいても俺が駆けつけるから」

 力強く言う。


「うん。分かった」

 いつになく真面目な春人の言葉に、七海は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに柔らかな笑顔を浮かべ嬉しそうに頷いた。


 ちょうどそのタイミングで、この訓練部屋からの退出の指示と扇動が始まり、女子友達に呼ばれた七海はそちらに行ってしまった。


「おっと、置いていかれないように、俺も行かなくちゃな」

 ぞろぞろと訓練部屋を出て行くクラスメイトを追って、春人も訓練部屋を出て行くのであった。

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