キャラメイクの次は
結論から言うと、生徒たちはセルシウス王の依頼を受けることとなる。
もし、断るような展開になるなら「大召喚」自体を否定していたのだから、その結果は自明の理であった。
生徒たちからの依頼受諾の回答を聞いたセルシウス王は嬉しそうに頷き、感謝の言葉を述べた。
「我が国は諸君らに出来うる限りの支援を行う事を約束する。
マーリン、それにニコラウスよ。
余は職務に戻る故、後は任せられるか?」
セルシウス王はすぐ近くで傅く魔導士二人に声をかけると、二人は「「ははっ」」と頭を深く下げた。
その言葉を聞いて、王は踵を返す。
「王よ。一つだけ確認がございます」
そんな王に間林教諭が声をかける。
「どうした? マーリンよ」
背を向けたまま言葉を返す。
「私が『転移の秘術』にてあちらの世界に行く時の約束ですが」
「うむ。覚えているとも。好きにするがよい」
「ありがたき幸せ」
王の言葉を聞いて、間林教諭は再度深々と頭を下げた。
「では、任せたぞ」
そう言葉を残して王様がこの場から去った。
扉が閉まる音の余韻が過ぎると、独特のピリピリとした緊張感が走っていた雰囲気が緩まった。
「さてと、まずはみんなに色々と話さなくてはいけないな」
間林教諭が立ち上がり、生徒たちにいつもと変わらぬ表情を見せた。
「儂はみんながいた世界の人間ではなかったのだ。
マーリン=イヴァン。それが、儂の本当の名前じゃ」
間林教諭が生徒たちに自分の正体を告白する。
「てか、話の流れから何となく察してたけど、マジでウィズ先生は魔法使いだったんだな……」
「ねぇ、先生。本当に魔法、使えるの?」
間林教諭、いやマーリンの告白に、生徒たちは驚くでもなく興奮気味に答える。
その反応に呆気に取られるマーリン。
「おい、貴様ら、マーリン様になんて口の利き方を!」
無礼な態度に魔導士が抗議の声を上げるが、それをマーリンが制した。
「構わんよ。こやつらは儂の生徒。いわば弟子みたいなものじゃ。無礼でも何でもない。
お主らも今まで通り儂に接してもらって構わぬぞ」
マーリンは生徒に笑みを見せる。
そして、魔法を使ってと言われた生徒のために、てのひらに魔法の光を生み出して見せ
「おおー、すごい。本物の魔法だ」
「映画の○リー・○ッターみたい!」
生徒が口々に感想を漏らす。
「それにしても、今時の若い者は凄いの……
いきなり知らない世界に飛ばされてきたのに、慌てたりするものはいないとは……」
マーリンが魔法で生み出した光を霧散させながら感嘆の声を漏らした。
「先生、それで俺たちはどうしたらいいんですか?」
まとまりがなくそれぞれ勝手なことを言い始めた生徒の言葉を制して、真面目人間の海斗が質問する。
「うむ。そうじゃな。まずは場所を変えるか。こんな雑風景な場所じゃ楽しくなかろう」
そう言うと、マーリンは儀式用の部屋を出て別の部屋へと生徒を案内した。
移動中、生徒たちは廊下の装飾の珍しさや、大きな窓から覗く中世ヨーロッパを彷彿させる街並みを目の当たりにして目を輝かせていた。
そして、案内されたのは晩餐会ができるかのような大広間。
そこには高級そうなテーブルクロスが敷かれたテーブルと細かな細工が施された椅子が並んでいた。
「では、儂が名を呼ぶ順に座ってくれ」
他の魔導士から渡された石板に目を落とし、マーリンが生徒の名を呼んで行く。それは少し前に学校で点呼を取った時のようであった。
マーリンが生徒の名前を呼び終えると、クラス35名すべてが高級そうな椅子に着いた。
席の並びは右に男子18名、左に女子17名と別れ、さらにテーブルの上座から戦士系、射撃系、魔導士系と分けられている様であった。
「ほほほ、皆の者、この世界の為に協力してくれた事に、改めて感謝する。皆には魔王復活阻止を目標に戦ってもらう事となるのだが、いきなり魔族領へ進軍、なんてことはできないのは理解しておるだろうな」
マーリンの言葉に生徒全員が頷く。
「うむ。流石じゃな。
儂もどうしたら良いかあちらの世界で考えたのじゃが、夏休みに体験したゲームがわかりやすくて良かった。
ゲームの世界でまずやることと、皆にまずやってもらうことがほぼ一致していたからな」
にこりと笑ってマーリンが語る。
こうやって生徒の身近なことを例えに出して説明する間林教諭の授業は非常に分かりやすかったのだ。異世界に来てマーリンとなってもそれは変わらないようである。
「ます今の状況じゃが、簡単に言えば最初のキャラメイクが終わっておる状況じゃな。
なので、その次、武装を整えることをこれからやってもらう」
マーリンがパンパンと手を叩くと、部屋に数名の使用人、砕けた言葉で言うとメイドさんが入って来て等間隔に生徒たちのそばに控えた。そして、さらに騎士と射撃士、魔術士が入って来てその横に着いた。
「この部屋の隣には各種装備が揃う試着部屋がある。
同系統のスキルを持つ者で固まる様に席を配置したので、後ろに立つ同系統の王宮兵と相談して装備を整えるのじゃ。
装備の着付けや採寸などば、横に控える使用人を頼るといい。
昼までに自らの装備をきめるのじゃ。
では、皆の者、行動を開始せよ」
こうして、生徒たちは自らの装備を選ぶ事となった。
元の世界では手にすることのない、武器や防具という言葉に、生徒たちは舞い上がっていた。
これから、過酷な戦いが待っているとは、この時誰も考えもせずに……




