残り【14日】〜思惑②〜
庭にはあの花が咲いていた。幼い私は庭に出て、その花をじっと見ていた。
「リータはこのお花が好きなの?」
「うん! 見てると、なんだか元気をもらえるの!」
「そうね、リータもこのお花に負けないように元気でいようね」
ガーベラというらしい。その花は太陽のように輝いて咲いていた。太陽に負けないくらい明るく、美しく。私はその輝きを失ったけど、あの庭に咲いた花は今でも輝いているだろうか。
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「リータ、起きてください」
呼びかける声に私はゆっくりと浮上するように目を覚ました。声の主はエリナさんだった。
「な、なんですか……?」
寝ぼけ半分の私は間抜けな声でそう尋ねた。多分、身分を考えれば即斬首でもおかしくない態度だっただろう。でも、エリナさんはそんな事はしない。
変わりに厳しい声で、
「旦那様から聞きましたが、料理が全く出来ないそうですね。今朝から特訓するので、早く着替えなさい」
と仰せになった。少し頭の上から角が出てた気がする。そのくらい怖い雰囲気だったので、直ぐに着替えて部屋を出た。
台所に来ても、エリナさんは少し不機嫌そうだった。流石に私の不躾な態度が癪に触ったのだろうか。ここ数日で気が緩みすぎた弊害だった。
「全く……。私は気にしませんが、他の人が見れば、なんて言われるか分かりません。外では立場を弁えた行動をとるようにね」
「……すみません」
エリナさんは私の心配をしてくれていたようだ。世間では、奴隷に対する風当たりは強い。それこそ、モノとして扱われるくらいだから、さっきのようなボロを外で出せば、殴られても仕方のないことだった。
「さて、お説教はここまでにして。今日からは料理を覚えてもらいます。最終的には全部一人で出来る様になること。いい?」
そして、エリナさんの熱血指導が始まった。まずは、簡単な物を切る作業だったが、
「危ない! 指を切らないように添える手は猫の手にしたままで!」
「材料を力任せに切らない! 肩の力を抜いて!」
等と早速色んな怒号が飛んできた。切り方の説明も注意点も全て説明してくれたのに、出来ない私が悪いのだが、ちょっと口うるさい。
普段は冷静な雰囲気なのに、熱いところは熱い人なんだなぁと感じた。
そのほかにも、調味料の配合や材料の焼き方なども教わったが、内容が多すぎて終わった後には頭がクラクラだった。とても短期間で覚える量じゃない。
ご主人様から何かお褒めを頂いた気がするが、そのことさえ、もはや覚えが無かった。
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それから、私は花壇の様子を見に行った。最近晴れが続き、土の渇きも早い。手入れは欠かさずやらないと、病気になったりするらしい。
植物も病気に悩まされるなんて、辛い世の中だなぁ。水のやり過ぎも良くないので、適度に水撒きをした。
ガーデニング用の花壇は、背の高い緑の葉とカラフルな花のコントラストが良く映えていた。エリナさんが上手く配置してくれたおかげだ。
特にガーベラは真ん中に植えられ、より明るく見える。
私の好きな花。昔のままだ。
菜園用の花壇は(もう花壇ではないけど)昨日と比べ、様子が違っていた。野菜の苗が目に見えてよく育っている。人差し指くらいの背丈だったのが、二倍ほど高くなっていた。
後からエリナさんから聞いたが、
「旦那様が早く食べたいと、【促進】の魔法をかけられたのでしょう。成長が早いと栄養もその分必要なので、こまめに手入れしてあげてください」
とのことだった。やはりご主人様はせっかちだった。
他にも、庭の見栄えを良くしようと余った土を入れ替えたり、石を取り除いたり苦心した。何とか見られるくらい良くなった気がする。
芝とか敷いたら、また良くなるかな。今度ご主人様に言ってみようっと。
庭もきれいになり、ルンルン気分で家に戻った私だったけど、
「リータ。夕食の準備です。来なさい」
一転、心の折れる音が聞こえた。それから、夕食の買い物から夕食の調理までみっちりと指導された。覚えることが多すぎてやっぱり、ご主人様に褒められてもそれどころではない私だった。