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自衛隊空母『あまぎ』戦記  作者: 高本五十六
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第七話 開戦

8月2日 00時30分


小笠原諸島から先島諸島へ向かっていた『あまぎ』護衛隊群へ燃料を補給するため、佐世保からはるばる駆けつけた補給艦『おうみ』が、『あまぎ』護衛隊群への給油作業を行っていた。給油にかかる時間は一隻につき約1時間。6隻全てに給油が完了するのにおよそ6時間はかかる。夜通しで明け方までの作業となる。

「こういう時は補給がいらない原子力空母が羨ましいな」

『あまぎ』への給油作業を、『あまぎ』の艦橋から見ていた隊員が呟く。艦内に原子炉を搭載し原子力を動力源とする原子力空母は、全速での航行が燃料消費を気にすることなく行え、無給油での長距離航海が可能であった。

「俺達だって腹が減ったら飯を食う。こういう時こそ艦が生きてる実感があっていいじゃないか」

他の隊員達と一緒に給油作業を見ていた佐々木が言う。そしてこういう補給中の時が相手側にとっては格好の標的となる。

「引き続き、対空・対潜警戒を厳となせ。各艦の動きから瞬時も目を離すな!」

「はっ!!」


首相官邸の総理執務室に佐藤はいた。そこへ渡辺が入ってくる。

「総理、渥美局長がお見えになりました」

「分かりました。通してください」

外務省アジア大洋州局局長の渥美浩市が入ってくる。佐藤が本音で話すことができる数少ない官僚の一人だ。

「ご無沙汰してます。総理」

「渥美君も元気そうで何よりです」

二人が挨拶を交わす。

「渡辺君。すみませんが、二人きりにさせてもらえますか?」

「かしこまりました」

渡辺が出て行くのを確認してから、佐藤が単刀直入に渥美に聞く。

「渥美君。今回の件は『あまぎ』が引き金になっていると思いますか?」

「それが全ての原因とは言えませんが、東亜国の国内事情が非常に不安定になっているのが最大の原因でしょう」

「と言うと?」

「東亜国内の各自治区において分離独立の動きがあります。世界金融危機による世界的な不況の影響で、東亜国でも失業者が増え続けています。経済不況の悪化に対して有効な解決策もなく、東亜国人民の不満は溜まる一方です」

「では、今回の件は東亜国人民の目を国外へ逸らすことが目的だと?」

「内政の矛盾を外征へと振り向けることで人民の不満を解消しようとしているのでしょうが、『あまぎ』の就役が東亜国とその背後にいる国を刺激したことも間違いありません」

「背後の国?」

「ソ連が崩壊して冷戦が終わってからも、東亜国は軍の近代化を進めてきましたが、その急激な軍備拡大は東亜国だけでは到底できません」

「東亜国を裏で操っている国があるということは・・・、ロシアあたりでしょうか?」

「全く違うとは言い切れませんが、裏で操っている、と気づかせないほどの巧みな奴らです」

佐藤の表情が一瞬歪む。

「総理、事態は思っている以上に非常に複雑です。ここで対応を間違えてしまえば、火はアジアに、いや、下手をすれば世界中に広がってしまいます。そのような全面戦争だけは何としても避けなければなりません」

「分かりました。ありがとうございます」

この先に何が起こるかは誰にも予想がつかない。だが、渥美の言うとおり「全面戦争」という最悪の事態だけは何としても避けなければならないと佐藤は思った。


05時10分


東亜国海軍北方艦隊機動部隊の空母『ガウルン』より、対艦ミサイルを装備した『Su30』が五機発進した。

その動きは空自の早期警戒機『ホーク・アイ』も捉えていた。機内のレーダーディスプレイには、東亜国海軍の北方艦隊を示すマーカーが浮かんでいたが、艦隊のマーカーから五つの点が離れていく。ディスプレイを見つめていた通信員は、それが空母から戦闘機が発進したことを表しているとすぐに分かった。

「『ホーク・アイ』より『あまぎ』へ!東亜国海軍空母『ガウルン』に動きあり!!戦闘機と思われる五機が発艦、要警戒せよ!!」

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