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自衛隊空母『あまぎ』戦記  作者: 高本五十六
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第六話 戦いの前(2)

番外編的な話です。

8月1日 21時30分


『あまぎ』衛生科に所属する女性衛生士の久保詩織海士長は、一人『あまぎ』の甲板に立って空を見ていた。

「その姿、写真の良いモデルになれるよ」

声をかけられ振り返ると、飛行隊のパイロット高本旭三等空尉が立っていた。

「何時からいたんですか?」

「今来たところだよ。お邪魔だったかな?」

「いえ、大丈夫です」

高本が詩織の隣に並ぶ。

「いい星空だ。詩織の住んでた所でもこんな星空が見れたのか?」

「はい。宮城の中でもすこし田舎の所でしたから」

「そうか」

「高本三尉の住んでた青森では見れたのですか」

「そんな田舎じゃなかったからね。あ、そういえば小学校の頃に彗星を見たことがあったな。親父が写真を撮っていたよ」

「それはすごいですね。今もその写真はありますか?」

「実家にあると思うよ」

「見てみたいです。その写真」

「分かった。今度帰った時にでも探してみるよ」

「ありがとうございます」

二人は『あまぎ』に配属されてから知った仲だったが、お互いが東北の出身という共通点を知ってからは、よく会って話すようになった。そして高本は、詩織が2011年3月11日に起きた東日本大震災を経験して、最愛の祖母を失ったこと、そして自分のように災害で困った人達を助けるために自衛隊に入ったことを聞いていた。

「・・・艦長からの艦内放送で防衛出動が発令されたことを聞いて、心の中では覚悟していたはずだったのに、本当はそんなことになってほしくなかったって思っているんです。人を助けたくて自衛隊に入ったのに、私は人を殺したくない」

「それは誰だって同じだ。誰も好き好んで人を殺したいって思って自衛隊に入っているんじゃない。皆それぞれの守りたいものがあるんだ」

高本は視線を前に向けたまま言う。

「防衛出動が発令されたからって人を殺すことが許される訳じゃない。君はこの『あまぎ』の衛生士として、戦闘で仲間達が負傷したら、その仲間達を救うために君は君自身の戦いをすればいい。人を殺す戦いじゃなく、誰かを守り、そして人を救う戦いを」

「高本三尉・・・、ありがとうございます」

「魚釣島で散ったパイロットたちは無念だったが、これ以上の犠牲は防がないといけない。だから俺はそのために戦う。詩織も守りたいから」

「・・・え?」

さりげなく名前が呼ばれたことに驚く。

「この戦いが終わったら、・・・その、詩織が生まれ育った所に案内してくれないか?そこで一緒に星空が見たい」

「それって、デートのお誘いですか?」

「まあ、そういうことになるかな」

「・・・いいですよ。この戦いが終われば喜んで」

「本当に?」

「はい。そして私にも見せてください。高本三尉が生まれ育った所を。そしてそこから見る星空を」

「分かった」

必ず詩織のことを守ってみせると心に誓って、高本は詩織としばらくの間星空を見ていた。


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