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自衛隊空母『あまぎ』戦記  作者: 高本五十六
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第三話 撃墜

8月1日 午前10時50分


航空自衛隊南西航空方面隊の第9航空団に所属する戦闘機『F15J』二機が那覇基地を飛び立ち、魚釣島上空に到達しようとしていた。与えられた任務は魚釣島上空の警戒と島の状況を確認することだった。

「『ヴァイパー1』より那覇基地へ。まもなく魚釣島上空に到着する」

「那覇基地より『ヴァイパー1』へ。了解。到着後は『ヴァイパー2』と警戒と情報収集にあたれ」

「了解」

『ヴァイパー1』の松島一等空尉は海上に目を向ける。雲の切れ目から魚釣島が見えた。

「島の情報収集なんて、本来なら偵察機の任務じゃないですか。全く、ファイターパイロットの仕事かよ」

『ヴァイパー2』の小松二等空尉が悪態をつく。

「そうボヤくな、小松。気持ちは分かるが、これも大事な任務だ。給料分の仕事をしろ」

「了解です。松島一尉」

小松が魚釣島に目を向ける。

「遠目からですが、占領されているとは思えませんね」

「そうだな。だが、警戒を怠るな。『ヴァイパー2』」

「了解。『ヴァイパー1』」

まもなく警察と海保の合同の特殊部隊による魚釣島の奪還と人質の救出が開始される。このまま何事も問題なく終わることを松島は心の中で思った。


『あまぎ』の格納庫。『F35BJ』が騒然と並んでいるのを見ると、『あまぎ』が空母であることが実感できる。

それでも『あまぎ』を「空母」とは呼ばず「航空機搭載型護衛艦」と呼ぶのは、国防のための必要最小限の戦力として「空母」のような攻撃型兵器は持たないという憲法上の理由からだった。

一番手前の戦闘機のコクピットに、西島はヘルメットを被り座っていた。時々戦闘機のコクピットに籠ることがあり、一人きりになり思考を巡らすのには最適の場所らしい。それともかつては空自のパイロットだったことを思い出させるのに最適の場所なのか。ヘルメットを被りバイザーを下せば、かつて自分もキャノピー越しに見えた青空が広がって見える気がした。

「空自始まって以来のエースファイター」と言われるほどの優秀なパイロットだった西島は、航空自衛隊の中でも選ばれた者しか属せない「ブルーインパルス」への転属が決まっていたが、訓練中の不慮の事故が原因で戦闘機を降りることとなる。幸い日常生活に支障をきたさないくらいにまで回復したが、彼に言い渡されたのは「P免(パイロット罷免)」、つまりパイロットの証であるウィングマークの剥奪だった。そんな西島に当時の上官が勧めたのは米海軍ノーウォーク基地での研修だった。まもなく就役する航空機搭載型護衛艦の艦長の候補として西島が選ばれていた。米海軍では空母の艦長にパイロット出身者が選ばれるという伝統があり、その伝統を自衛隊が習い、その艦長の候補として西島の上官が薦めたのだった。戦闘機パイロットの道が閉ざされても「日本を守りたい」という気持ちが消えなかった西島は上官の申し出を受け、ノーウォークでの研修を経て海自に転属し、『あまぎ』の艦長となったのだった。

「誰だ!勝手に機体に乗っているのは!!」

怒鳴り声が格納庫内に響く。キャノピーを開け、ヘルメットを脱ぐと飛行隊に所属するパイロット、桐生貴丈三等空尉が立っていた。

「艦長!?」

口元をほころばせ、西島が戦闘機から降りる。桐生は慌てて敬礼した。

「失礼しました!艦長とは知らずに」

「いや、こっちこそ勝手に乗ってすまなかった」

「あの、機体に何か不備なところでも?」

「きちんと整備されている。問題ない」

「そうですか」

西島が元空自のパイロットだったことは桐生も知っていたが、コクピットに一人で籠ることまでは知らなかったようだった。

「CICより艦長へ。至急お戻りください」

艦内放送で呼ばれた西島は桐生の肩を軽く叩き、格納庫を後にする。その西島の後ろ姿に向かって、桐生は再び敬礼した。


「レーダーコンタクト!二時の方向、距離25キロ、高度2500、こっちに向かってきます!!」

魚釣島上空で警戒飛行していた小松の『F15J』のレーダーが激しく反応した。松島も同じだった。

「『ヴァイパー2』、高度と速度、このまま維持。相手を確認する」

「了解」

レーダーが探知した方向に目を向ける。キャノピー越しに相手が見え、右前方から急速に距離を縮めてくる。

「目標視認!」

すれ違いざまに見えた戦闘機に驚愕した。

「『Su30』?!東亜国軍のマークを確認!!」

「馬鹿な・・・、」

東亜国の戦闘機が何故こんなところに・・・!?

松島は状況が理解できずにいたが、東亜国軍の戦闘機から無線が入ってきた。

「(警告する。この空域での飛行は許可できない。直ちに当空域から退去せよ!)」

「ふざけるな!ここは日本の空だぞ。領空侵犯しているのはお前らじゃないか!!」

小松が怒りの言葉を放つ。その直後、『Su30』より機関砲が放たれ、ダララララ、という発砲音が響いた。

「撃ってきやがった!?」

「(もう一度言う。直ちにこの空域から退去しろ!!)」

「次は警告じゃ済まない、て意味か」

東亜国軍の『Su30』はそのまま遠ざかっていった。

「那覇基地へ、こちら『ヴァイパー1』。東亜国軍戦闘機より警告射撃を受けた」

「『ヴァイパー1』、こちら那覇基地。直ちに帰投せよ。繰り返す、直ちに帰投せよ」

「了解。直ちに帰投する」

「待ってください!このまま黙って引き返すのですか?!」

小松の問いかけに松島は冷静に返した。

「落ち着け、『ヴァイパー2』。今の我々に交戦権はない。すぐに帰投するぞ。命令に従え」

「・・・了解。直ちに帰投しま、!!?」

小松が帰投命令に従おうとしたとき、耳鳴りな警報音が突如鳴り響いた。

「レーダー波照射!ロックオンされた!!」

敵のミサイルに標的にされたという意味だ。後ろを振り返ると、遠ざかっていたはずの東亜国軍の『Su30』が後ろについていた。その距離はわずか3キロ。次の瞬間に敵機からミサイルが放たれた。

「ミサイルだ!『ヴァイパー2』、ブレイクライト!!」

松島が右方向への回避を命じたが、ミサイルはすぐそこまで迫っていた。もう間に合わない。

「間に合わない!!」

小松が叫んだ途端に、彼の乗った『F15J』にミサイルが命中して爆散した。

「小松ーーー!!!」

松島が叫ぶが、パラシュートは確認できなかった。

「どうした、『ヴァイパー1』、何が起きた?!」

「那覇基地、『ヴァイパー2』が撃墜された!これより交戦する!!」

「撃墜!?待て、『ヴァイパー1』、交戦は認められない!全力で回避し、速やかに帰投しろ!!」

「何が全力で回避しろだ、ふざけるな!!」

小松が墜とされたのに黙って引き返せるか!、と怒りに震える松島が最後に目にしたのは、目の前に迫る敵のミサイルだった。


爆発音が響いた。

「『ヴァイパー1』、応答せよ!こちら那覇基地、『ヴァイパー1』、応答せよ!!」

松島からの応答は二度となかった。


「総理、緊急事態です!」

佐藤の首席秘書官を務める渡辺一慶が総理執務室に慌てて入ってくる。

「渡辺君、どうしました?」

「魚釣島上空で航空自衛隊の『F15J』二機が撃墜されました!」

「撃墜!?」

佐藤は驚いて目を見開く。

「はい。それも、東亜国の戦闘機に、とのことです」

「東亜国・・・、渡辺君、パイロットについては?」

「まだ詳しいことは分かっていませんが、脱出しなかったようです」

「なんということだ・・・、直ぐに危機管理センターへ向かいます。閣僚達は?」

「もう既に集まっています」

東亜国による武力攻撃・・・

恐れていたことが現実となってしまった。

佐藤は渡辺とともに危機管理センターへと向かった。


小説のタイトル「東亜戦争 領土防衛作戦」を変更しました。

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