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自衛隊空母『あまぎ』戦記  作者: 高本五十六
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第三十話 上陸開始前

「『ホーク・アイ』からバルチャー隊へ。『ガウルン』より発進した戦闘機、数15。先島諸島上空へ向かっている模様。あと40分程で会敵の予定。警戒されたし!」

「15機か」

ガルーダ隊の時は5対10だったが、今回は5対15。つまり3対1の状況は避けなければならない。

石動はバルチャー隊全機に指示を出す。

「『バルチャー1』より全機へ、ミサイル射程距離を保ちつつ3対1の状況を回避する。いいか、我々の任務はファルコン隊のための陽動だ。敵機全てを相手にするな!」

「了解!!」

「万丈、特にお前は直ぐに血走って冷静さを失いやすい。高本達の仇を取ろうとは考えるなよ」

「分かってますよ隊長」

「どうだかな。お前は脳みそまで筋肉で出来たバカだからな」

「んだと貴丈!てめえ!!」

「ほらな。言って直ぐにこれだよ」

苦笑する石動。

(あと40分でこちらの射程距離に入る。だが、)

「ここは日本の空だ。これ以上の好き勝手はさせん。来るなら来い!!」


「バルチャー隊、あと15分程で敵編隊と会敵します!」

『あまぎ』CICではバルチャー隊とファルコン隊の状況がモニターに映し出されていた。

「5対15か。厳しい状況ですね」

佐々木が呟く。

「石動三佐なら冷静に対応できる。深追いも決してさせないだろう」

西島は応えた。

「艦長、間もなく上陸部隊が目標近海に到着します」

「分かった」

香織からの報告を受けて西島はヘッドセットでファルコン隊の神尾に呼び掛ける。

「CICよりファルコン隊へ。間もなくバルチャー隊が敵編隊と会敵する。ファルコン隊はこれより敵レーダー波を回避するための低空飛行を開始せよ」

「『ファルコン1』、了解」

「神尾三佐、東亜国軍のミサイルを確実に破壊して、必ず戻ってきてくれ」

「はっ、必ず!!」

レーダー波を回避するための低空飛行に入り、『あまぎ』のレーダー波からも回避され、ファルコン隊の反応がモニターから消えた。


『あまぎ』飛行隊が作戦行動に入った頃、陸自の奪還部隊を載せた輸送艦部隊が護衛艦と一緒に石垣島に向かって洋上を進んでいた。

水陸機動団を載せた『ワスプ』は米海軍の強襲揚陸艦だが、東亜国軍の軍事侵攻が始まる以前から日本の自衛隊にレンタルされていたもので、今回の作戦で自衛隊が使うことを米軍も了承し、そればかりか海兵隊の輸送ヘリ『CH53E』を3機とLCM(機動揚陸艇)を数隻提供してくれた。ワスプ級強襲揚陸艦にはおよそ2000名の上陸部隊(+180名の予備部隊)を収容することができ、教育部隊を除いた水陸機動団の部隊が収容されていた。上陸作戦には2個の水陸機動連隊と水陸両用強襲車『AAV7』を装備する戦闘上陸大隊が主力として投入される。

輸送艦『おおすみ』と『しもきた』には第42即応機動連隊、輸送艦『くにさき』と『はくおう』『ナッチャンworld』を含めた民間フェリー数隻による臨時輸送隊には第12普通科連隊の戦闘団がそれぞれ収容されている。この二つの部隊は共に南九州の防衛警備を担当する第8師団の所属であり、同師団に所属する隊員の多くが九州出身者で、そのうちの大半が地元南九州出身者という典型的な郷土部隊である。冷戦終結後は台湾問題、南西諸島有事が懸念され、天草諸島や奄美諸島などの数多くの離島を抱える地域的特性から島嶼(離島)防衛の重要性を認識し、米海兵隊との水陸両用戦の共同訓練を重ねていた。

第42即応機動連隊は「統合機動防衛力」における機動師団・旅団構想に基づいて、これまでの第42普通科連隊から展開機動力向上のために改編された部隊で、戦車大隊、特科連隊、高射特科大隊の一部を編合し、装輪式車両を装備した連隊本部と本部管理中隊及び普通科3個中隊、機動戦闘車隊(機甲科)、火力支援中隊(野戦特科)からなる諸職種混成部隊である。『おおすみ』と『しもきた』には連隊本部、本部管理中隊、1個普通科中隊、機動戦闘車隊が乗り込み、残りの部隊は輸送機で随時投入されることとなっている。

鹿児島県霧島市の国分駐屯地に駐屯する第12普通科連隊は、防衛警備区域に大隅諸島と甑島列島があることから、米海兵隊と共同での離島潜入や奪還の訓練を行ってきていた。今回の上陸作戦では『くにさき』に連隊戦闘団の先遣上陸部隊、『はくおう』『ナッチャンworld』を含めた民間フェリー数隻による臨時輸送隊に連隊戦闘団主力が乗り込んでいた。

おおすみ型輸送艦1隻には約330名の陸自隊員、トラック65台、戦車18台しか積載できず、おおすみ型3隻をもっても輸送能力には限りがあり、防衛省とチャーター契約を交わした民間会社のフェリーを使う必要があった。この背景には「日本(自衛隊)が必要以上の輸送能力を持つと侵略戦争に繋がる」という懸念を日本国内のみならず、東亜国を含めた周辺諸国へ与えないという政治的配慮が過去にあった。


第8師団の師団長は、上陸作戦開始前にモニター回線を通じて第42即応機動連隊と第12普通科連隊の全隊員に訓示をしていた。

「島を占領している東亜国軍による抵抗も予想され、住民の安全確保を最優先で行動しなければならず、作戦遂行にはかなりの困難を極めなければならないと思う。だが、東亜国軍に占領されている石垣島、与那国島、魚釣島、この三島の早期奪還と人質解放はその後の戦局に大きな影響を与え、この事態の早期終結にも期待が持てる。隊員諸君らは日本国民全員からの、その期待を背負っていることを忘れずに任務を遂行してもらいたい」

訓示の最後に言った「諸君らの薩摩隼人の意気地を見せてくれい!」という師団長の言葉に、隊員達は「ちぇすとぉ!!」と応えた。

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