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自衛隊空母『あまぎ』戦記  作者: 高本五十六
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第二十九話 オペレーション「獅子」発動

タイトルを「東亜戦記20XX 自衛隊空母かく戦えり」より変えました。

8月3日 18時


「バルチャー、ファルコン、各隊は発艦準備を急げ」

作戦発動に合わせるよう、『あまぎ』飛行隊は発艦の準備で慌ただしかった。先の空戦で、ガルーダ隊の機体はまだ整備中で、今空に上がれるのはバルチャー隊とファルコン隊だけだ。

「管制よりバルチャー1へ。いいか、吉報しか待たんぞ」

「了解」

石丸の言葉にバルチャー隊隊長の石動が応える。

「バルチャー1、オールクリア。発進!!」

エンジンの出力を上げ、石動が操縦する『F35BJ』が勢い良く発進した。


バルチャー1発進のしばらく前。

「我が『あまぎ』護衛隊群は間もなく合流する第2護衛隊群と共同で先島諸島海域での海上優勢確保、そして君たち飛行隊は航空優勢を確保する事は先に説明した通りだ」

搭乗員待機室で西島は飛行隊搭乗員達にブリーフィングを行っていた。

「同時に我々は上陸作戦の支援も行わなければならない。作戦の詳しい説明は情報本部の倉木一尉にしてもらう。倉木一尉、説明を頼む」

西島に促され、香織が前に立つ。

「オペレーション『獅子』の第2段階における上陸作戦は、同時進行で行われますが、それぞれが独立した作戦になります。陸自の空挺団、水陸機動団、即応機動連隊が主力となり石垣島と与那国島を奪還し、魚釣島で拘束されている海上保安官を特殊作戦群が救出することとなっています。ですが、石垣島と与那国島を占領している東亜国軍は対空・対艦ミサイルを搬入していて、実効支配を強めつつあります。これをそのままにしておけば、我が方の部隊に少なからずの損害が出てしまいます」

「つまり上陸部隊に損害が出る前に、東亜国側のミサイルを排除しなければならないということか?」

飛行隊からの質問に香織が応える。

「そうです。『あまぎ』飛行隊には第8航空団と共同でミサイルを空爆して排除していただきたいのです。西島艦長と協議した結果、対空ミサイルを『あまぎ』飛行隊、対艦ミサイルを第8航空団の『F2』飛行隊がそれぞれ破壊することが決まりました。空爆目標の特定は、先行している特殊作戦群がしてくれます」

再び西島に代わる。

「知っての通り、先の空戦でガルーダ隊の機体はまだ整備中であり、今上がれるのはバルチャー隊とファルコン隊だけだ。そこで、バルチャー隊が陽動を兼ねて敵戦闘機部隊と交戦、その隙にファルコン隊が先行して対空ミサイルを破壊し、第8航空団の『F2』飛行隊が対艦ミサイルを空爆し、味方部隊を安全に上陸させる」

桐生が手を挙げる。

「艦長、我々バルチャー隊が敵を引き付けるとしても、ファルコン隊だけで対空ミサイルを破壊するというのは、目標に近づく前に探知されてしまう可能性もあってリスクが高いと思うのですが?」

「ステルス性能を持つ『F35BJ』で低空飛行での侵入ならば可能だと思っている。君達パイロットの技量を私は信じる」

続けてファルコン隊の隊長の神尾が手を挙げる。

「倉木一尉、ひとつ聞きたいのだが」

「何でしょう?」

「この作戦における部隊全体の損耗率はどれくらいと考えられているのか?」

「5%から10%、それ以上かも知れません」

「その5%から10%に我々も含まれているということなのだな」

「はい」

皆が「5%から10%」にざわつく。どう言うべきかと迷っている香織に代わって西島が言う。

「皆が不安になる気持ちはよく分かる。我々『あまぎ』護衛隊群も先の戦闘で死傷者を出してしまい、ガルーダ隊の高本三尉も撃墜されてからまだ見つかっていない。今後の戦闘でさらなる損害が予想される。だが、我々も統合任務部隊の一員である以上、5%から10%の損耗のリスクを負って戦わねばならない。この『あまぎ』にも幸い、陸海空それぞれの自衛隊が揃っている。用意周到、伝統墨守、勇猛果敢、この三者が互いに力を合わせれば、この難局を必ず乗り越えられるはずだ。各員の奮闘を心から期待している。皆、よろしく頼む」

西島が頭を下げる。突然のことに一瞬戸惑ったが、艦長が自分達を信頼していると思い、任務の完遂に全員が気持ちを一つにした。


搭乗員待機室からCICへ向かう途中、「艦長」と香織に呼び止められた。

「先程はありがとうございました。艦長でなければあの言葉は出せませんでした」

西島が振り返る。

「皆をまとめるのが私の仕事だ。だが、君の力も私には必要だ」

西島が再び歩き出して、香織は西島の後ろ姿に向かって敬礼した。


『あまぎ』格納庫。

「バルチャー隊、全機発艦完了!!ファルコン隊は対地兵装の準備が出来次第、すぐに発艦せよ!!」

ファルコン隊の『F35BJ』に対地ミサイルの『AGM65(マーベリック)』が積み込まれる。対空ミサイルは装備されないので、空爆が終わり次第、すぐに離脱して帰艦しなければならない。

明日奈も自分の乗る機体のチェックを整備員と共にしていた。

「坂ノ上三尉」

ガルーダ隊隊長の西村が声をかけた。西村率いるガルーダ隊は整備が終わり次第、発進の待機をして命令が出ればすぐに発艦する事となっていた。

「君と高本は防衛大での同期だったと聞いているが」

「はい。卒業後は別々の基地へ配属されていましたが、互いに良いライバルでした」

「そうか。高本のことは今でもすまなかったと思っている。自分が言うのはおかしいかも知れないが、戦闘中に高本のことは」

「西村三佐、私は仇討ちをしようとは思っていません。高本は絶対に生きて戻ってくると信じています」

力強く言う明日奈に西村は頷き、明日奈の肩に手を置く。

「坂ノ上三尉、必ず戻ってこい!」

「はい!!」

明日奈が機体に乗り込み、航空機用エレベーターで上げられていくのを、西村は敬礼して見送った。


18時30分


沖縄・宮古島から水陸機動団と即応機動連隊を載せた輸送艦、空挺団を載せた輸送機が飛び立ち、奪還作戦に向けて各部隊が本格的に動き出した。


『あまぎ』の飛行甲板では、明日奈の機体が待機していた。明日奈以外のファルコン隊はすでに上がっている。

「ファルコン5、準備が出来次第発艦せよ」

「了解」

明日奈は深呼吸する。はじめての実戦に緊張していることもあるが、高本のことを西村には仇討ちは思っていないと言ったものの、頭に浮かびそうになるがすぐに振り払う。

(大丈夫。あいつは絶対に生きている。信じているから)

「ファルコン5、オールクリア。発進!!」

明日奈が身体中に衝撃を受けながら機体を発進させ、空へと上がっていく。


今日で東日本大震災から10年が経ちました。


被災地の完全な復興を心から祈ります。


自然災害を含めたいかなる脅威から国民を全力で守る自衛隊に心から感謝します。

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