第二十七話 オペレーション『獅子』
『あまぎ』CIC
「艦長、横須賀司令部より入電です。『艦隊は宮古との距離200キロを維持せよ』以上です」
「そうか」
「国連安保理の結果が出るまで島に近づくな。という意味ですね。」
「そしてこの海域を遊弋して東亜国軍にプレッシャーをかけろ。ということだろう」
できることならこれ以上の戦闘は避けたい、と佐々木は内心思った。結果次第では国連安保理の力で戦闘が終わるかもしれないと期待できるが、そうもいかないだろう。
「艦長、東亜国軍のパイロットですが、近くに那覇へ移送することが決まりました」
「分かった。それまで看護を続けよう。それと、彼に温かい食事を与えてやってくれ」
「分かりました」
東亜国軍のパイロットを救助したことが相手にもうまく伝わってくれたら、相互理解に向けての第一歩になるかもしれない。それがどんなに小さな希望でも、佐々木は諦めたくはなかった。
8月3日 13時30分
東京 首相官邸
国連安保理の結果は、残念なことに佐藤が期待していた結果にはならなかった。
「引き続き外交交渉は行っていきますが、すでに防衛出動命令は発令されています。解決に希望がないのであれば、私は自衛隊の最高指揮官として躊躇なく、石垣島・与那国島両島、そして魚釣島の武力奪還を決定します」
佐藤の言葉に、国家安全保障会議の閣僚たちは反対することなく頷く。
「井之上防衛大臣、しかるべき措置をお願いします」
「分かりました!」
14時30分、防衛省において関係者全員参加の幹部会議が開かれ、その後直ちに、中原統合幕僚長からの命令が統合任務部隊「JTF」に伝達された。
「総理、陸海空各部隊一丸となって、作戦に対処します。作戦のDデイは本日3日」
健軍にいる統合任務部隊「JTF」司令官の村井からのテレビ電話が、東京の首相官邸の、国家安全保障会議のモニター画面に映し出される。
「なお、本作戦名を『獅子』と命名します」
「『獅子』・・・」
本来はライオンを表す言葉だが、沖縄地方では災厄をもたらす悪霊を追い払う魔除けの意味を持つ「シーサー」として伝えられている。
「村井司令官、初の実戦部隊の統合運用は大変だと思いますが、先にも述べた通り私佐藤久正は、いかなる状況でも陸海空自衛隊と共にあり、日本国国民の生命と財産、そして領土を全力で守ります。そのことを改めて伝え、統合運用部隊各部隊の奮闘を期待しています」
「はっ!全力を尽くします!!」
作戦開始に向けて、統合運用部隊各部隊が一斉に動き出した。
海上自衛隊の輸送艦、航空自衛隊の大型輸送機に陸上自衛隊の隊員、車両、物資が積み込まれ、北海道の東千歳に駐屯する陸自唯一の機甲部隊である第7師団も九州方面への移動を開始した。
村井からのテレビ電話が終わった後、佐藤は国民に向けて再び会見を行った。
「政府は平和的解決の希望を捨てておらず、引き続き外交交渉を粘り強く行っていきますが、その上で自衛隊に適切な対応を指示しました。国民の皆様には重ねてお伝えしますが、不確かな情報に惑わされることなく、冷静な行動をお願いいたします」
佐藤の会見に対しての反応は様々だった。国会と首相官邸前に大勢の国民が集まり、「戦争反対」「自衛隊頑張れ」とそれぞれの立場でのデモを行い、警視庁機動隊に所属するDJポリスもデモ隊に呼び掛けた。
「ここに集まった皆さんがそれぞれの立場で日本を憂いていることは大変よーくわかります。ですが、皆さんどうか、冷静な行動を心掛けるよう、よろしくお願いします」
8月3日 16時
宮古島より南東200キロ洋上
『あまぎ』の飛行甲板に陸自の多用途ヘリコプター『UH60JA』が着艦し、中から香織が甲板に降り立つ。
佐々木が出迎え、香織が敬礼する。
「防衛省情報本部所属、倉木一等陸尉です」
「『あまぎ』副長、佐々木二佐です」
佐々木は香織の顔をじっと見てしまう。西島と同じく最年少での昇進と聞いてはいたが、かなり若く見えた。
「あの、何か?」
「いや、こんなことを言うのは女性に失礼かと思ったが、いくつ位の若さかと」
香織はクスっと笑い、「今年で25です」と答えた。
佐々木に案内され、香織は『あまぎ』の艦内に入っていく。
「艦長、倉木一尉が到着しました」
「分かった。入れ」
艦長室に佐々木と香織が入る。香織が敬礼し、「倉木一尉です」と西島に挨拶する。
「艦長の西島です。我が『あまぎ』にようこそ」
「今後、統合運用作戦での調整を兼ね、防衛省からの連絡を西島艦長にお伝えするように言われています」
「分かった。よろしく頼む」
「西島艦長にお会いできることを楽しみにしていました。防衛大から西島一佐のことは聞いていましたから」
「私も君のことは聞いている。防衛大を首席で卒業し、前川原の陸自幹部候補生学校での渡米研修が評価され、最年少での一尉への昇進と情報本部統合情報部への配属。優秀な情報官としての将来が期待されていることをね」
香織は「光栄です」と答えた。
「『あまぎ』のことはどこまで知っているかな」
「聞いてはいましたが、実際に入るのははじめてです」
「ならば丁度いい。副長、艦内を案内してやれ」
「分かりました」
佐々木に連れられて、香織は艦長室を出ていく。
17時
「西島艦長より飛行隊の全搭乗員に告ぐ!!搭乗員は全員、搭乗員待機室へ集合せよ!!」
艦内放送で桐生や明日奈達パイロットが集められ、香織も同席した。
「先程、健軍の村井JTF司令官より我が『あまぎ』に命令が下った。『あまぎ』護衛隊群は佐世保の第2護衛隊群と連携して先島諸島海域における海上優勢の確保が命じられているが、君たち飛行隊には、那覇の第9航空団と連携して航空優勢を確保することとなる。当然、東亜国空母『ガウルン』からの攻撃が予想される。今度は先の空戦のように10機では済まない。20、いや30機以上は覚悟せねばならない。我々には厳しい戦闘となるだろう。だが、ここでもし負けたら、我々だけでなく、日本そのものが負けることを意味する。そのことを心得てもらいたい」
(日本が負ける)
その言葉にパイロットたちに緊張が走る。
「全作戦の成否は『あまぎ』、そして君たち飛行隊が負っている。私は君たちの腕を信じ、奮戦を期待している。そのことを忘れないでくれ」
西島が全てのパイロットの顔を見て言う。
「繰り返し言うが、迷ったら撃て。そして、絶対に一機も失うな!!」
「了解!!」
(一機も失うな)
高本のことでその言葉の意味を知っている明日奈は、他のパイロットに負けないくらいの力で答えた。
「各自、機体の整備にかかれ!」
飛行群群司令の石丸の言葉にパイロット達が解散し、明日奈も機体の整備に向かおうとすると、香織が近づいてくる。
「あなたが坂ノ上三尉ね。話しは聞いていたわ」
「はあ、・・・えっと、あの」
突然話しかけられて一瞬戸惑ってしまう明日奈だったが、香織は微笑む。
「私は倉木香織、防衛省情報本部の一等陸尉。よろしくね」
握手をしようと明日奈に手を差し伸べる。明日奈は香織の手を握り「明日奈です。よろしくお願いします」と答えた。




