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自衛隊空母『あまぎ』戦記  作者: 高本五十六
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第二十三話 海戦(前編)

8月2日 20時


護衛艦『あすか』 CIC

「本艦レーダー探知コンタクト!東亜国艦2!!」

CIC内ではこれまでにない緊張感がみなぎっていた。『あすか』艦長の辻本一等海佐はディスプレイに表示されている二つの標的を険しい表情で見ていた。

(撃沈するのではなく、攻撃力のみを奪い無力化する。そのために主砲を使いたい)

『あまぎ』の佐々木からの無線では、最後にこう付け加えられた。

「舞鶴での『みょうこう』砲雷長時代に、術科競技で何度も優秀な成績を誇ったその腕を、是非拝見させていただきたい」

そんなおだてには乗らないが、とまんざらなでもなさそうな様子で「了解した」と応えた。

「・・・やれと言われたら、やるしかないよなぁ」

辻本が呟く。

「目標、速度15ノット、距離45キロ!!」

「本艦主砲、射程圏内到達まで約30分!!」

『あすか』の主砲「62口径5インチ単装速射砲」の射程はおよそ25キロ。相手側の主砲射程に10キロは優っている。この差を生かす。

「艦長」

辻本の左側に座る砲雷長の西川が呼びかける。

「主砲のみの射撃だと、相手のレーダー圏に入らなければならず、かなり危険です。確かに、主砲なら被害は最小限に抑えられますが、防衛出動が発令されているのに、なぜ敵側に配慮する必要があるのか」

「どんな命令でも従うのが我々自衛官の任務だろうが」

「しかし」

「まあ、やってみせようじゃないですか」

航海長の清水が言葉を挟んできたが、西川はまだ不満げだ。

「艦長、砲撃には射程延長弾ヴォルカノを使用してはどうでしょうか?」

射程延長弾ヴォルカノなら射程は100キロ。長射程のアドバンテージを生かせ、安全な距離で射撃ができる。

「アホンダラァ!!」

辻本の関西弁での怒鳴り声に、西川だけでなくCICにいた全員が顔を向ける。

「延長弾やとピンポイントでの破壊はしんどい。敵艦の艦橋にでも当たってみい。『攻撃力のみを奪って無力化する』の命令に反することになるやろが!やれと言われたらやらなアカンねん!!」

「あー、出ちゃいましたね。辻本艦長の関西弁が」

辻本が本気モードになった証拠だ。

「砲雷長、やってやりましょうよ」

清水の言葉にようやく西川が頷く。

「艦長、口答えしてしまい、すみませんでした。やってやりましょう」

CICの隊員たちが皆頷き、ここで気持ちが一つとなった。

「よっしゃ、皆頼むで!」

辻本は満足げな表情で檄を飛ばした。


『あまぎ』CICにて、ディスプレイ上の『あすか』、『シャンハイ』、『ムスダン』の動きを、西島と佐々木は注視していた。

「頼むぞ。『あすか』」

佐々木が呟く。西島は黙ったままだった。


「東亜国艦よりレーダー波照射!!」

『あすか』CIC内では、警報音が鳴り響いていた。

「来るで、対艦ミサイルが!」

辻本が呟く。

「敵艦、ミサイル発射!!計8基、向かってきます!!」

「西川!!」

辻本に呼ばれて、西川は答える。

「はっ!ミサイル防衛システム始動!!短SAM、ESSMシースパロー、前甲板VLSより発射!!」

『あすか』から発射されたミサイルは、敵のミサイルに向かって飛んでいき、爆発音と同時に夜空を真っ赤な炎で照らした。

「短SAM、目標に命中!・・・残ったミサイル1基、本艦に向かってきます!!」

短SAMでは間に合わないと西川は判断する。

「20mm機関砲(CIWS)、迎撃開始コントロールオープン!!」

『あすか』の甲板で20mm機関砲が爆音を響かせ火を噴く。『あすか』より数百メートル先の上空で、砲弾が命中したミサイルが爆発した。

「敵のミサイル、全て撃墜!!」

「よっしゃ、防げたやないか!」

辻本が歓喜の声をあげる。だが、安心するのはまだ早い。

「敵さんの動きはどうや?!」

「針路、速度変わらず。両艦ともに接近してきます!!」

レーダー員の平山が即座に答える。

「艦長、間もなく主砲射程圏内に入ります」

西川が続ける。

「ほなら、今度はこっちの番や。砲撃の射線を確保するで。『ムスダン』の右へ回り込め!面舵いっぱい、最大戦速!!」

「面舵いっぱい、最大戦速!!」

清水が復唱する。


「敵ミサイル、全て撃墜しました」

『あまぎ』CICでも、戦闘の様子は注視されていた。

「敵艦、両艦ともに『あすか』へ向かっています」

「2対1、大丈夫か?」

隊員達の言葉に、西島は呟く。

「辻本艦長なら必ずやる」


「目標に対し90度の位置に達しました。射線確保!!」

『あすか』CICで西川が報告する。

「ここからは時間との勝負や。敵さんに反撃の隙を与えたらアカンで!!」

りょう!全照準、射撃管制、手動にて行う!!」

『あすか』の甲板で主砲の速射砲が目標の『ムスダン』に向かって旋回していた。

「第一目標、敵駆逐艦『ムスダン』、対艦ミサイル発射筒!」

「第一目標、照準よし!!」

「ええか、必ず一発で仕留めるんや。2、3発撃ち込んだら火災、誘爆の恐れがある!」

「了!主砲、っ!!」

『あすか』の主砲の砲門が火を噴いた。発射された砲弾が『ムスダン』のミサイル発射筒に命中した。

「第一目標、命中確認!!」

「よっしゃ!続けて第二目標、前甲板対空ミサイル発射筒。第三目標、後甲板魚雷発射管。そして最終目標、主砲!!」

「了!主砲、っ!!」

第二目標に向かって砲弾が放たれる。

「艦長、10時の方向より、『シャンハイ』が向かってきます!距離15マイル!!」

「来たか」

覚悟はしていた。だが、二艦同時には狙えない。『ムスダン』を無力化するのが先だ。


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