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自衛隊空母『あまぎ』戦記  作者: 高本五十六
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第二十二話 敵艦接近

東京の危機管理センターにも空戦の状況は逐一報告されていた。

「井之上大臣、脱出した高本三尉は?」

「全力で捜索していますが、まだ発見の報告は入っていません」

自衛の範囲内での戦闘とはいえ、刻一刻と戦闘が深刻化していることに佐藤は危機感を募らせていた。

「失礼します」

渥美が部屋に飛び込んできた。

「国連安保理に召集がかかりました。今から2、3時間後には緊急会合が開かれます」

「そうですか」

渥美が告げた朗報を聞き、佐藤は大きく息をついた。

現場の自衛官たちは、防衛出動が出てもなお、戦争への拡大を極力避け、専守防衛の範囲内で頑張ってくれている。国連安保理の会議では、東亜国側の不当な行為に対して間違いなく日本側の主張が通るはずだ。

「井之上大臣、厳しい状況ですが、高本三尉の捜索を、引き続き全力であたるように伝えてください」

「分かりました。必ず発見させます」

脱出した高本が無事であることを、佐藤はただ祈るしかなかった。


「哨戒飛行中の哨戒機『トリトン1』が、接近する敵艦を捉えました!」

『あまぎ』護衛隊群の前方を哨戒飛行中だった哨戒機『P1』からの報告だった。

「前方よりフリゲート艦『シャンハイ』とミサイル駆逐艦『ムスダン』が接近してきます!先島諸島への針路上で、距離50マイル!」

「あくまでも我々を阻止するつもりか」

佐々木が眉をひそめてつぶやく。

「二隻とも、東亜国海軍北方艦隊の所属で、この中でも厄介なのが『ムスダン』には長距離射程の対艦巡航ミサイル『サルバーン』が搭載されています」

「いずれにせよ、この二艦を無力化しなければならない」

西島と佐々木との会話に、隊員の一人が意見を具申してきた。

「ハープーンで撃沈するのが確実かと思われます」

「ハープーン」、その言葉に佐々木は目を剥いた。「捕鯨のもり」を意味する対艦ミサイルで、射程距離が長く威力もすさまじい。これならば敵艦を撃沈するには十分だが、

「ハープーンを使ってしまえば、艦は確実に沈む。合わせて600名もの乗員の命を、奪えというのか?」

「それは・・・」

「もしそうなれば、敵はそれを理由に、間違いなく戦闘を拡大させてくる。それは『今後の外交交渉に影響する戦闘は極力回避せよ』という司令部からの通達にも反する」

隊員は黙るしかなかった。今度は西島に顔を向ける。

「艦長、東亜国には核弾頭搭載型のICBM(InterContinental Ballistic Missile:大陸間弾道ミサイル)をも保有する『戦略ミサイル軍』があります。ここでもし彼らを刺激して、万が一国民にまで被害が及ぶようなこととなれば、あなたが言った『戦争』が起きてしまう。我々自衛隊は、その戦争を避けるために存在している。我々の判断次第では戦争への引き金にもなりかねない。それだけは国民を守る自衛官として認めることはできない!違いますか?艦長」

「・・・」

西島は黙ったままで、CICの中は静寂が続いたが、長くはなかった。

「敵艦、なお向かってきます!!」

時間はあまり残されていない。

しばらくして西島は何かに気づいたような表情をして、佐々木に目を向けた。

「副長。『あすか』の主砲による射撃ならどうか?」

「主砲?」

「そうだ。主砲による射撃で攻撃力のみを無力化する。それなら敵艦は沈まず、被害も最小限に抑えられるはずだ」

「主砲・・・、『あすか』・・・」

そこまで言うと、ある男の顔が浮かんだ。あの人ならやってくれるはずだと思った。

「・・・やってみよう!」

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