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自衛隊空母『あまぎ』戦記  作者: 高本五十六
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第十五話 防戦(戦いの後)

魚雷が命中した『やまぎり』。

艦橋にいた副長が被害状況の確認をしていた。

「機関長、損害を報告せよ!」

「左舷居住区に魚雷が命中!浸水と火災が発生していて、負傷者が出ている可能性があります!至急、衛生士を含めた応急処理班を現場へ向かわせます!!」

「消火に全力を尽くせ!弾薬庫には絶対に火を回すな!!機関にダメージはあるか?!」

「はっ!いえ、機関部に損傷はありません。ただ、舷側破損のため全速は無理でしょう!」

「そうか、航行は可能だな。引き続き、艦のダメージコントロールに努めよ!」

「了解!この『やまぎり』を絶対に沈めさせません!!」

CICにいる艦長達も心配だったが、今は『やまぎり』を沈めないようにすることが大事だった。


「急げ!ダメコンの手際が艦の運命を左右するぞ!!」

浸水と火災が起こっている現場についた応急処理班の隊員達が目にしたのは、燃える炎と勢いよく流れてくる海水、そして頭から血を流して海水に浮く数名の隊員達だった。

(・・・この中でいったい何人が助かったんだ?!)

地獄絵図ともいえる状況に一瞬怯んでしまったが、すぐに負傷している隊員の救護と消火、浸水を防ぐ作業に取り掛かった。


イージス護衛艦『いかり』の艦長、沢村一等海佐は『あまぎ』の盾となった『やまぎり』の行動を見て、目頭が熱くなる思いだった。

「瀬戸内艦長・・・!!」

沢村はマイクを取った。

「『いかり』艦長より『あまぎ』へ、『やまぎり』乗員救助の許可を願う」

『あまぎ』の西島からの返信はすぐに返ってきた。

「『あまぎ』より沢村艦長、直ちに『やまぎり』乗員の救助に当たれ」

「了解!!」

艦内放送に切り替える。

「いいか、『やまぎり』は自らが盾となって『あまぎ』を守った。その行動に最大の敬意を払い、全力で『やまぎり』を助けるぞ!!」

「了解!!」

(今度は俺達が『やまぎり』を助ける番だ!)


「『やまぎり』より報告。軽傷多数、重傷者15名。そして、・・・死者2名」

『あまぎ』で『やまぎり』の状況が報告され、他の隊員達は「死者2名」の言葉に動揺した。

(この『あまぎ』を守るために『やまぎり』で死者が出た)

がっくりと肩を落として、言葉が出なくなる。艦橋にいる佐々木も同じ思いだった。

報告を聞いていた西島はしばらく黙っていたが、静かに口を開く。

「瀬戸内艦長には艦の修復と乗員の治療にあたるように伝えろ」

「それが、瀬戸内艦長は重傷を負われ、今は副長が艦の指揮を執っています」

「そうか。『やまぎり』の機関は無事なのか?」

「機関部に損傷はなく、航行には問題ないそうです。しかし、長くは無理でしょう」

「ならば、『やまぎり』副長には『せとゆき』と共に宮古島へ戻るように指示を」

「了解しました」

西島は再びレーダーディスプレイに目を向けた。


『せとゆき』と『やまぎり』、合わせて5名の死者を出した。瀬戸内艦長を含めた重傷者の後送と治療のため、宮古島への帰還が決定し、『やまぎり』乗員の救助にあたっていた『いかり』も2隻に付き添うこととなった。

『あまぎ』乗員達は、自らが盾となって守ってくれた『やまぎり』に対して、感謝と敬意を込めて甲板から見送り、敬礼した。

その様子を見ていた西島に、『せとゆき』の高嶋から無線が入る。

「西島一佐」

「何だ?」

「・・・あんたの声が聞けて、安心したよ」

「自分もだ。高嶋一佐」

「・・・男同士だと気持ち悪いな」

無線越しに高嶋の笑い声が聞こえる。

「2倍も3倍も艦と共に頑丈になって、必ず戻ってくる・・・!」

『あまぎ』から離れていく『せとゆき』と『やまぎり』に、西島は姿が見えなくなるまで敬礼していた。

その隣には、西島と同じく敬礼して見送る佐々木もいた。


『せとゆき』と『やまぎり』の被弾、そして東亜国海軍潜水艦の撃沈の知らせは首相官邸の危機管理センターにも届いていた。

死者が出たことに衝撃を受け、閣僚の誰もが言葉を失っていたが、佐藤だけはモニターに映る『あまぎ』護衛隊群の姿を直立不動の姿勢で見ていた。

自衛官出身の佐藤には、自らを顧みず『あまぎ』の盾となり被弾した『やまぎり』の思いが痛いほど理解できた。

そしてモニターに向かって、敬礼した。


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