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自衛隊空母『あまぎ』戦記  作者: 高本五十六
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第十一話 責任と覚悟

「東亜国海軍潜水艦の攻撃を受け、『あまぎ』が被弾、群司令の梅津海将補を含め多数の負傷者を出しましたが、航行に支障はなく先島諸島へ向かっています」

首相官邸の地下、危機管理センターで統幕長の中原の報告を佐藤を含めた各閣僚が聞いていた。

『あまぎ』が被弾した上に多数の負傷者が出た。死者が出なかったことが幸いだったが、佐藤の表情は険しかった。

「こんな時に米軍は何をやっているんだ!この時のための日米安保じゃなかったのか?!」

閣僚の一人の問いかけに中原は答えた。

「現在、空母『ロナルド・レーガン』を主力とする米海軍第7艦隊はインド洋に展開中であり、沖縄の海兵隊の主力部隊もオーストラリアでの軍事演習に参加しているため不在であり、急いで向かっても、早くて五日ほどかかるとのことです」

中原の報告に「五日もかかるなんて」と落胆する閣僚もいた。

「つまり米軍は当てにできない、ということか。まったく肝心な時に役に立たない連中だ」

篠塚が悪態をつく。

「皆さん、事態はこの国で起こっています。まずは我々の手で解決しなければなりません」

佐藤が言う。すでに国連に提訴はしてあるので、あとは国連安保理が動いてくれれば事態は収拾されるはずだ。

「統幕長。梅津群司令が負傷したとのことですが、現在『あまぎ』護衛隊群を指揮しているのは誰ですか?」

佐藤が聞く。

「『あまぎ』艦長、西島一佐に指揮権が移っています」

「西島・・・」

その名前は佐藤にとっても忘れられない名前だった。


数年前、『あまぎ』艦内で行われた壮行会。

壮行会には内閣総理大臣の佐藤と防衛大臣の井之上を含めた政府関係者、防衛省・在日米軍高官、各国大使、そして主要なマスコミが出席していた。

「日本近海における領土・主権を巡る緊張は益々高まってきています。日本近海における危機に対応する新たな抑止力として、この『あまぎ』が遺憾なくその存在力を示すことができれば、安泰を願う国民の期待に必ず応え得るものと信じます」

スピーチを終え、『あまぎ』乗員の面々に声をかけていく佐藤。その中には女性パイロットの明日奈の姿もあった。

「数少ない女性の戦闘機パイロットの中で、『あまぎ』での任務は大変だと思いますが、期待していますよ。坂ノ上三尉」

「はい、ありがとうございます!」

佐藤と握手を交わす明日奈。

「総理、『あまぎ』艦長の西島一佐を紹介したします」

井之上に言われて西島に歩み寄る。

「大任を拝命いたしました西島です」

佐藤の前へ一歩出て、礼する。

最年少の一佐への昇格という話は佐藤も聞いていた。

「お話は伺っていますよ。ノーウォークでの研修や空自から海自への転属は大変だったでしょうが、もう慣れましたか?」

「はっ、人間は新しい玩具を手にすると、それを使いたくなるのが性です」

「玩具」という言葉に周りが静まりかえる。

「我々軍人も同じです。ですから、それを手にする者の人間性、そして強い抑制の心構えが問われるものだと思っております」

その場にいた佐々木も「何を言い出すんだ」と呟いたが、佐藤は西島の言葉をうんうんと頷きながら聞いていた。

「西島一佐、私も陸上自衛隊の出身ですが、ある教育隊の区隊長は銃授与式の時に、新入隊員達に向かってこう言いました。『君達が今授与した89式自動小銃は指一本で人を殺せるものである。どんなに過酷な状況でも人が人を殺すことは決して許されることではないが、その罪を犯してでも守らねばならないものが我々自衛隊にはある。銃など使わずに済むのが一番いい。そのためにも我々は強くなければならない』と」

「銃が人殺しの道具だと認識させた上で、『手にした武器を使わないでいいように強くなれ』と、この国の抑止力となることを訓示した訳ですね」

「その通りです。西島一佐。陸海空、自衛隊に共通していることが『この国の国民を守り尽くす』という自衛隊の本質です。私も一国の首相、そして自衛隊の最高指揮官として『この国の国民を守り尽くす』という責任と覚悟を肝に銘じますので、貴官もそうあってほしいと願っています」

「謹んで、肝に銘じます」

「『あまぎ』でのご活躍を期待していますよ。西島一佐」

「はっ!!」

佐藤から差し出された手を握り、握手を交わす西島。


西島竜太。

国民からの血税3千億を投じて造られた『あまぎ』を「玩具」、そして自衛官を「軍人」と言い切ることに、佐藤も苦笑してしまったが、西島と話すうちに彼の中にはこの日本に対する強烈な愛国心を秘めていると感じ、それゆえの言動だと思っている。

(今まさに「この国の国民を守り尽くす」という自衛隊の本質が問われる時。頼みますよ、西島一佐)

声に出さずに、心の中で呟いた。


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