第九話 ミサイル迎撃
『あまぎ』CIC内では、耳障りな警報音が鳴り響いていた。
「敵機、レーダー波照射!ロックオンされました!!」
「位置は?」
「方位2-2-0(フタ-フタ-マル)、距離70マイル、高度30000フィート、速度マッハ1.8変わらず。接近してきます!」
「・・・撃ってくる」
西島が呟いた直後に、敵機からそれぞれ二つのマーカーが放たれるように出現した。
「敵機ミサイル発射!10発が本艦に向かってきます!!」
「『あやなみ』、『あすか』へ。ミサイルの迎撃用意を」
指示を出す西島は冷静だった。
艦橋に着いた佐々木はヘッドセットを装着して、その上から「テッパチ」と呼ばれている88式鉄帽を被る。自衛隊での戦闘用ヘルメットの制式名称は「鉄帽」であるが、旧大日本帝国軍(旧日本軍)からの伝統で、隊員にはヘルメット全般の通称として「テッパチ(鉄鉢)」と呼ばれている。
双眼鏡を構えていてもミサイルは見えてこない。しかし、確実に近づいて来ることは感じていた。
「頼むぞ。『あやなみ』、『あすか』!」
イージス護衛艦『あやなみ』のCICでは、艦長の金田が隊員たちに檄を飛ばしていた。
「いいか、これまでの訓練は、このためにあったと思え!」
「了解!!」
隊員全員が返事する。
「対空戦闘用意!」
金田の命令に砲雷長が応える。
「対空戦闘用意!前甲板VLS(Vertical Launching System:垂直発射システム)、対空ミサイル発射用意!!」
「砲雷長、『あすか』と共同で各目標5撃ち落とす。一発も撃ち漏らすな」
「任せてください、艦長。今こそ盾の役割を果たしますよ」
「その意気だ」
金田は部下達を信頼していた。敵ミサイルのデータを入力していたミサイル長が告げる。
「目標データ、入力完了!1番から5番、発射用意よし!!」
「(射)てぇーっ!!」
『あやなみ』砲雷長の命令を合図にVLSのハッチが開き、すさまじい爆音と共に5発のミサイルが放たれた。
『あやなみ』と『あすか』から発射された10発のミサイルは入力されたデータの誘導に従って、空中で方向を変え目標の敵ミサイルへと向かっていった。
「『あやなみ』と『あすか』、ミサイル発射!」
『あまぎ』CICのディスプレイには敵ミサイルと、それに向かう『あやなみ』と『あすか』の、それぞれのミサイルのマーカーが示されていた。
「10発とも迎撃コースに入りました!目標との接触まであと十秒!!」
それぞれのミサイルの距離が縮まっていく。
「9、8、7、6、5、4、3、2、1、ミサイルに命中します!」
空中で次々と爆発が起こり、撃墜されたミサイルの破片が海面へと落ちていく。
「全ミサイル、撃墜しました!」
『あやなみ』のCICでも、ディスプレイに示されたミサイルのマーカーがすべて消えた。
「よし、皆よくやった」
隊員達から歓喜が上がる。金田は隣に座る砲雷長に握手を求めた。
「砲雷長、よくやった」
砲雷長が笑顔で応える。
「ありがとうございます。艦長」
「敵ミサイル、全て撃墜!敵機は五機全て、反転し離脱していきます!!」
『あまぎ』のCICでも隊員達は歓喜を上げていた。離れていく敵機を見て「攻撃に失敗して怖気づいて逃げていく」と隊員達には見えていたが、西島だけは違った。
「砲雷長、レーダー、ソナー共に何か反応はないか?」
「は?いえ、特にありませんが・・・」
「艦長、何かおかしなことでも?」
梅津が聞く。
「はっ、あの距離でミサイルを撃っても、高度な迎撃能力を持ったイージス艦に迎撃されることは敵も予想してたはず。なのに躊躇なく撃って、撃墜されたらすぐに引き返す。あっけなさすぎます」
「何か他に狙いがあるとでも?」
「おそらくは。自分の考えが正しければ・・・、(あの戦闘機五機が陽動だとしたら)!!」
西島が何かに気付くと同時に無線が入ってきた。
「『エコー1』から『あまぎ』CIC」
艦隊の先を飛んでいた哨戒ヘリコプター『SH60K』からだった。
「スクリュー音探知!艦隊前方15マイル、10時の方向、潜水艦です!!」
「潜水艦だって!?」
さっきまで歓喜で満ちていたCIC内がざわつき始める。『あまぎ』を攻撃する真の敵は潜水艦で、戦闘機5機は注意を引くための囮だったのだ。
「総員、対潜警戒!全艦、対潜戦闘用意!!」
西島が指示を出す。『エコー1』からの無線が続けて入ってきた。
「『あまぎ』CICへ!敵潜水艦より発射音探知、ミサイル来ます!!」
敵潜水艦が発射した対艦ミサイルが海面から水柱を上げて次々と飛び出してくる。
その数12発。その全てが『あまぎ』へ向かっていた。