第2話 ファルター一族誕生秘話
セペリウス歴5551年、フィリップが魔法を生み出してから200年余りがたった。
この時代になると、魔法技術研究もかなり進み、魔法使いたちも増えその力も初級魔法から中級魔法を扱えるものまで増えてきた。そして、研究の末、魔法技術に必要な魔力は遺伝でより強く出現することが分かった。
その技術向上のために友好国間などで異種族交配、つまり国際結婚を推奨したことで、この時代になると人種というものはなくなり、混血種たる様々な色の肌、さまざまな色の髪色をした者たちが世界を闊歩するようになった。
しかし、人々は争わなければならない生物のようで、つい昨日まで友好的だった国同士でも次の瞬間には戦争に発展し、争い続けているという現状だ。
もちろんその際には魔法技術が兵器として扱われた。そのために各地で急激な魔法技術開発が行われることとなった。その際、先進国などは人工授精により人工的に魔法使いを製造するということが行われた。しかし、後進国となると、その技術と資金がないということから、魔法使いを拉致し、強制的に交配させるというとんでもないことも行われることとなったのだ。
もちろんそれらに反発した者たちもいた。人権を無視した魔法使い開発、容認できないというぐらいだ。
しかし、その理念でもって戦ったのはほんの一部の正義感あふれる者たちだけで、ほとんどが自身が使えない夢の魔法を使う者たちへの嫉妬や、相手国の力をそごうと考えた敵国の策略だったこともあった。
とはいえ、そこまでやっても、中級以上の魔法を扱えるものが現れることがなかったのは皮肉だろう。
そんななか、ガラナという小さな国に国から委託された民間の研究施設にマーベルという研究者がいた。
ガラナは先進国だったために、魔法使い開発には人工授精を用いていた。
そして、マーベルはその人工授精を用いて中級以上の魔法使い、つまり上級魔法使い開発を担っていた。
「うーん、あと少しなんだけどな、なかなかうまくいかない」
マーベルはうまく研究が進まず悩んでいた。
「博士、少し休憩名さてはいかがですか?」
するとそこに助手のケニーが声をかけてきた。
「ああ、すまない、そうさせてもらうよ」
「どうぞ、このお菓子、おいしいですよ」
ケニーはマーベルに自分の近くにあったお菓子を進めた。
「そうだね、もらおうかな、それにしても、なんで、うまくいかないんだろうな」
「うふふ、博士、それじゃ、休憩になりませんよ」
休憩といっても研究のことばかり考えているマーベルを見て、ケニーは仕方ないという感じに笑った。
「あははっ、そうだな。すまない」
マーベルはいつもこんな感じで助手のケニーと和気あいあいと研究をしていた。
一方、マーベルと同じく別の研究施設では同じような研究を進めている者たちがいた。
そのものの名はガリバン、実はマーベルと同じ大学の同期でいつも自分の上に行くマーベルのことをライバル視していた。
といっても、マーベル自身はその意識は全くなく、友人だと思っていたが……
そして、ガリバンもまた、一向に研究が進まなかった。
「くそっ、これもダメか」
ガリバンは受精卵の入った試験管を床にたたきつけた。
「博士、いくら何でもそれは……」
「なんだ、文句があるなら、やめちまえ」
ガリバンは焦っていた、このまま成果が出なければ、またマーベルにもっていかれると思ったからだ。
そんな研究の末に、ついにマーベルの方に結果が出た。
「こ、これは、す、すごい、すごいぞ、ケニー見てくれ」
「は、はい、これは、すごい魔力です、これなら、今よりずっと強い魔法が使えるはずです」
そう、マーベルはついに上級魔法を使えるほどの魔法使いを作り上げることができた。
「しかし、まさか、君の卵子と、ボクの精子でこれほどの魔力が出るようになるなんて思わなかったよ」
それはマーベルが行き詰ったところで突如ケニーが提案してきたことだった。
もちろん、それはケニーがひそかにマーベルを好いていたが、マーベルは妻帯者、その思いを告げられずいた。それでも2人の間に確かなものが欲しかったというのが本音だ。しかし、それとは別に、実はマーベルは魔法使いであり、ケニーの先祖の中には世界的な超能力者がいたという事実があったから、もしかしたらと思ったのもあった。
「はい、私もいくら先祖が有名な超能力者だったからってこうなるとは思えませんでした」
「そうだね、まぁ、それを見越して遺伝子操作をしたわけだけど、それでも思っていた以上だよ」
「はい、おめでとうございます。博士」
ケニーは本当に嬉しそうに祝福をした。
「ありがとう、君もおめでとう」
「はい」
この時生まれた魔法使いは、ファマルと名付けられた。
一方で、その知らせを人づてに聞いたガリバンはたいへん悔しがって、その時の血球室をすべて破壊し、どこへともなく消えたという。
「ファマル、いい子に育ってね」
ファマルは人工子宮で育ち、ケニーが直接産んだわけではないが、その卵子はケニーの物ということで、ケニーはとにかくファマルを大切に育てかわいがった。
そのかいあってか、ファマルはすくすくととても優しい男となった。
「父さん、母さん、そろそろ行くよ、俺の魔法を必要としている人たちがいるからね」
ファマルが17歳となったある日、世界各地で困っている人たちを救うべく旅立とうとしていた。
「そうか、気をつけてな」
「風邪、引かないようにね」
「ああ、わかっているって」
こうして、ファマルは旅立った。
その後、ファマルは、世界を回り、困っている人たちを見つけては助け、その強い魔力で紛争地帯を駆け巡った。
そして、いつしか上級だけではなく超級魔法も扱えるようになったのである。
また、世界を回る際に出会った世界のあらゆる武術をその身に付け、ファルターが現在使っている強化魔法などを開発した。
余談だが、実はこのファマル、のちにターナという女性と出会い、子孫を残すことになる。そして、その末裔こそ、ファルターだったのである。
そう、ファルターの一族がなぜ、あそこまで魔力値が高いのかというと、この世界唯一の上級魔法開発成功例であるファマルの末裔だからであった。
また、ファマルはその数奇な人生を全うしたあと、ファルターと同じく前世の記憶を持った状態で転生した。その転生先は、今から約4000年前の地球、日本だった。そこで、魔法の力はなかったが、前世で身に付けた武術は使えた。そこで、原始時代だった周囲にその戦い方を指導、そして、そこでもファマルは子孫を残し、その子孫がのちに天皇陛下から神守の名を与えられたという話がある。
そこから導かれることは、ファマルこそファルター一族の先祖であり、上森一族の先祖でもあるというとんでもないことだった。
また、さらに余談だか、このファマルとファルターは魂の上では同一人物でもあったりする。とはいえ、これはファルターの魂にとって幾度となく繰り返してきた転生の1つの人生に過ぎない。よって、ファルター自身は全くといっていいほど覚えていないが……