第96話 15歳のイングリス・天恵武姫護衛指令4
「おおおぉぉっ!? あの娘、従騎士科なのにとんでもない力だぞ……!?」
「やっぱここに呼ばれてるだけの事はあるんだな!」
「ゆ、ユアと同じだ……! ユアを見てるみたいだぞ……!?」
上級生達が口々に驚いていた。
「「「そして、めっちゃくちゃ可愛い……!」」」
別にどうでもいいが、そこは綺麗に揃っていた。
「そんな事を言っている場合か! 三回生はすぐに応戦しろ! いくら物理的に打撃を与えても、魔石獣には通じないんだっ!」
シルヴァは号令しながら、自らの魔印武具を構える。
彼の持つ魔印武具の形状は、独特の長い筒状をした武器――銃だった。
元々は天上領で開発された対人武装らしい。
地上で見る機会は少ないが、イングリス達の故郷ユミルでも見た事はある。
ビルフォード侯爵が所有していたのだ。
銃型の魔印武具とはなかなか珍しい。
地上ではあまり普及していない武器だ。
それを下賜しても、授かる側の人間が慣れておらず敬遠される要因になる。
虹色の特級印を持つシルヴァは、どんな魔印武具でも扱う事が出来るはず。だがそれをあえて使っているというのは、よほど奇蹟が優れているのだろうか。
銃身には真っ赤な文様が浮き上がっており、炎属性の代物であることが分かる。
ここは少しお手並み拝見。と行く前に――
バシュウウウゥゥッ!
シルヴァの顔横を、純白の光の矢が通り過ぎて行った。
ラフィニアが光の弓の魔印武具を放ったのだ。
それが、イングリスが壁に埋めた魔石獣達を貫いた。
一射ではなく、二射、三射と連射。完全に魔石獣達は沈黙した。
「ラニ? 怒られても知らないよ?」
「え? あたしだって手を出すんじゃなくて、弓をうっただけだけよ?」
「なら何の問題も無いね」
「そうよ?」
「そんな屁理屈があるかっ! 君が聖騎士ラファエル様の妹だろうと、勝手は――!」
「勝手なのはどっちですか!」
と、ラフィニアも負けていなかった。
「リップルさんは、この中の誰が傷ついても辛いんです! だからあたし達もできるだけ無事でいなきゃいけない! そのためには面子なんていらない、みんなで協力するべきです! シルヴァ先輩は聖騎士になるんでしょう? だったらあなたが一番、リップルさんの気持ちに寄り添ってあげるべきです! 天恵武姫と一緒に戦う事になるんだから!」
「……!? 何だと……!? 特級印も持たないくせに――!」
「特級印は無くても、持っている人を間近で見てきました!」
ぴしゃりと言い放つ。それは、無論ラファエルの事だ。
ラファエルとシルヴァを比べてしまうと、シルヴァが未熟に見えてしまうのは仕方ないだろう。
ラファエルの方が現在の年齢は上だし、彼は幼い頃から人間が出来ていた。
あくまで現時点の話なので、シルヴァの将来の可能性を否定はしないが。
特級印を持つ素質は折り紙付きなのだ。心がけ次第でいくらでも化ける。
だが一つ言えるのは――自らの信念と正義感を貫こうとする時のラフィニアは好きだ。
普段はそんな顔をしないのに、精一杯きりっと表情を引き締めているのが、可愛らしくてとてもいい。
「ああっ!? わたくしも槍を振ったら当たってしまいましたわ!」
「私も剣がぶつかりました! ごめんなさい!」
リーゼロッテもレオーネも、新たに現れる魔石獣達に攻撃を仕掛けていた。
一緒に怒られてくれるつもりらしい。
「ユア先輩! 話聞いてましたか!? 先輩も嫌がらずにちゃんとやって下さい! リップルさんのためなんです!」
「は、はい……! ごめんなさい――!」
ラフィニアの迫力に押されて、ユア先輩はビクッとしていた。
イングリスは新たに出現する魔石獣に突進しつつ、横目でそれを見ていた。
その様子は小動物のようで、とても強そうには見えないのだが――
ふうっ、とその姿が掻き消えるように動き出す。
そして、イングリスが突進していた魔石獣の前に。
――割り込まれた! 見えてはいたが、恐ろしいスピードである。
ぺし。
としか表現できないような軽い感じの手刀で、魔石獣を叩いた。
だがそれで――
メキメキメギイィィィッ!
そんな音を立てて、魔石獣の体にめり込んだような跡が残った。
「おおぉぉ……! すごい――!」
あの軽い撫でるような動きでこの威力。
しかも魔石獣に接近したスピードは、いくらこちらが超重力の重りをつけているとはいえ、イングリスを出し抜いたのだ。
もっとも魔石獣に純粋な物理攻撃は効果が無いので、意味は無い。
無いのだが――手合わせをしてもらう分には、それは関係ない。
これは申し分のない実力者である。是非とも手合わせをお願いしてみよう。
「とう」
ユアが後ろ足に踵で魔石獣を蹴った。
ゴウウゥッ!
弾丸のような勢いで、魔石獣がイングリスの目の前に飛んで来た。
「あ、ごめん」
「大丈夫です! はあぁっ!」
ドガアアァァンッ!
直接蹴り上げる。魔石獣は更に勢いを増して、天井に頭から突き刺さった。
「お。やるね」
ユアがちょっとだけ感心したような顔をする。
「ありがとうございます。では是非今度手合わせをお願いします!」
「それは、嫌。力比べとかしたくない」
言いながら、ユアは魔石獣をどんどん殴り飛ばして行く。
「そう言わずにお願いします!」
イングリスも同じスピードで魔石獣を蹴り飛ばして行く。
「やだ」
「そこを何とか!」
交渉を続けながら、イングリスとユアが打撃で魔石獣の動きを封じて行く。
「「「すっげえな二人とも――! こりゃあ楽だぜ!」」」
他の生徒達は、とどめを刺して回るだけで良かった。
「くっ……言う事を聞かない奴等が……!」
「まーまーまーまー! シルヴァさん! じゃあ校長命令という事で、ここは全員で対応という事に変更しまーす! だから誰も悪くありませーん! 皆さんこの調子で頑張ってくださいねっ!」
慌ててミリエラ校長が号令していた。
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