第78話 15歳のイングリス・カイラル王立騎士アカデミー28
「おいどうすんだイングリス!? さっきの光の弾で船本体もぶっ飛ばすのか!?」
「ううん、それはちょっと難しそうかな――」
ラティの言葉にイングリスは首を横に振る。
今霊素弾を撃ってはっきりしたが、積み荷の機甲親鳥くらいならまだしも、船本体を完全に覆いつくして消滅させるにはさすがに出力不足だ。
恐らく船本体に霊素弾を撃っても、船体を貫通するだけで大量の残骸が残る。
それらが王都に降り注ぐと、状況がより悪化してしまう。
ましてや、今日は既に霊素弾を二発も撃っており、三発目を撃てるかどうかも怪しい。
撃てたとしても、先程の二発目より確実に威力は低下するだろう。
「じゃ、じゃあどうすんだ!?」
「地面の近くまで下りて。どのあたりに落ちそうかを見て考えたいから」
もし人のいない空き地や広場に墜落するならば、そのままでも構わないだろう。
反対に商店街や住宅街に落ちそうならば、受け止めるなり落下地点を逸らすなりしなければならない。
「落ちても大丈夫な場所ならそのままでもいいって事よね?」
「うんラニ。少しずれて湖に落ちてくれる可能性もあるし」
「イングリス、本当に街中に落ちるようならどうするの?」
「受け止めるか、落下地点を逸らすかかな。空中だと踏ん張りが効かないし、どのみち下には降りないと」
「そうね、分かったわ」
「早く避難を呼びかければ、避難も間に合うかも知れません!」
普段おっとりした雰囲気のプラムも、流石に真剣な顔つきをしていた。
「よしじゃあ全速力で降りるぞ!」
ラティの駆る機甲鳥は猛スピードで地上へと舞い降りて行く。
彼の天性の空中感覚で、落下地点を予想して先回りした先は――
「……このあたりに落ちそうだぞ!」
「まずい所だね」
「うん、最悪よね!」
「絶対に何とかしないと!」
目の前にあるのは、王都の中心中の中心――王城だった。
ちょうどそのど真ん中に、空飛ぶ船が直撃しそうな軌道である。
煙を吹くその姿が、だんだんと大きくなって行く。
「おい早く逃げろ! 上からデカいのが落ちて来るぞ!」
ラティが城の門番達に大声で呼びかけている。
慌てふためいた兵士達がそれぞれに駆け出し始める。
あっという間に混乱が城中に広まっていく。
「そのまま呼びかけをお願い、わたしたちは降りるから。行こうラニ、レオーネ」
イングリスはそう言い残して、王城の門前に飛び降りる。
「うん、クリス!」
「ええ、行きましょう!」
ラフィニアとレオーネもそれに続いた。
「私も――!」
「お前はやめとけ!」
イングリス達に続こうとしたプラムはラティに止められていた。
「どうして止めるんですか、私だって支援なら――」
「だったら降りなくても出来るだろ! いいから乗ってろ!」
「でもみんなは危険を承知で降りて……」
「いいんだよ。ラティはプラムの事が心配みたいだから、そこにいてあげて」
「わ! 本当ですかラティ!?」
「うるせー! 言ってる場合かっ!」
丁度イングリス達に続いて、他の機甲鳥も何台か集まって来ていた。
ラティたちは置いておいて、イングリスはそちらに呼び掛ける。
「皆さんも、避難の手助けをお願いします!」
「ああ、分った!」
集まった機甲鳥が散開して行く。
あとはこちらが、落ちて来る船を何とかするだけだ。
「あの二人、ちょっといいわよね――あーあ、あたしも彼氏欲しいなあ……」
「絶対ダメ。ラニにはまだ早いから、ダメだよ?」
「二人ともそんな事言ってる場合!? どうするのよあれ!?」
「まあ、クリスが言う事だし何とかなるんじゃないかなぁって――ね、クリス?」
「うん。レオーネがいるしね?」
「私?」
「うん。あれを受け止められたとしても、手の届く所まで待ってるともうお城に突っ込んじゃうでしょ? だから、もう少し上で叩いてあっちに落とせば――」
イングリスが指差したのは、王城の敷地の端に設けられた桟橋だった。
湖から水路を引いて、城から直接湖に出られるようにしてあるのだ。
王城やその手前の住宅などの上に落とすよりは、水路に落とした方が被害は少なくて済む。
「叩く? そうか、私の剣を伸ばして……!?」
「うんそう。限界まで剣を大きくしてね? その方が弾き飛ばしやすいから」
「それをあたし達で力を合わせて振るのね――」
「私一人じゃとても無理だけど――」
「三人なら出来るかもしれないわね。何せクリスは怪力だしね!」
「ふたりだって魔印武具を持てば十分怪力だよ?」
「――とにかく、やるわね!」
レオーネが剣の魔印武具を強く握り締めると、その幅と長さがグングンと増して行く。
「――これで限界よ! もっと大きくしたい所だけど……!」
幅は手を広げた大人の数人分。長さは城の屋根に届く程になったが――
あの大きさの船を弾き飛ばすには、もっと獲物の大きさが欲しいのは確かだ。
「私に任せて下さい!」
ラティの機甲鳥に乗っているプラムが携えている魔印武具は、武器の形状をしていなかった。
キラキラとした銀色をした竪琴である。
プラムがそれを奏でると、流れる美しく済んだ旋律と共に、レオーネとラフィニアの魔印武具が薄い光の膜に包み込まれた。
プラムの魔印武具が放つ音色は、周りの魔印武具の性能を強化する効果があるらしい。
味方を支援するための魔印武具なのだそうだ。
同じ騎士科のラフィニアから話には聞いていたが、イングリスも直接見るのは初めてだった。
「ありがとう――! これでもっとできるわ!」
レオーネの剣の長さと幅が、更に倍近くに膨れ上がる。
剣を振る力自体も強くなっているだろう。
ラフィニアも同じく、力が増しているはずだ。
魔印武具を持っていないイングリスに効果は無いが、ラフィニアとレオーネの力を強化してくれるのは有り難い。
「もう来る――ラニ、レオーネ準備はいい?」
もう船の姿はすぐ近くまで迫っていた。
「うん、いいわ!」
「ええ、行くわよ!」
イングリス達は三人で、巨大になったレオーネの剣の柄を握り締めた。
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