第74話 15歳のイングリス・カイラル王立騎士アカデミー24
「何だよそりゃ……この空間の影響がないのか……!」
「ありますよ? ですが、それだけが全てでもない。他の力もあるという事です」
霊素の戦技であれば通常通り使う事が可能だった。
流石の異空間も霊素の動きにまでは干渉できないようだ。
「くっ……デタラメだろ、他に何が――」
「さぁ元の空間に戻しなさい。さもなくばこのまま倒します。ラニやレオーネも大変ですからね」
ラフィニアとレオーネは、迫って来る魔石獣を相手に何とかアールシア宰相を守っていた。魔印武具の機能が失われている分、苦戦している。
このままではそう長くは持たないだろう。早く手を打つ必要がある。
と、その時――ラフィニア達を囲む魔石獣の群れの一部が、一斉に吹き飛んだ。
何かがその下から立ち上がったのだ。
「な、何――!?」
「新手? 勘弁してよね!」
ラフィニアとレオーネが声を上げる。
「ほひょ! ほひょひょひょひょ!」
人型をした魔石獣だった。
魔印喰いの魔印だらけの体が、ずんぐりとした形に肥大化し、魔石獣の硬質の外皮やそこに埋め込まれた宝石が出現。
更には胸部にあの天上人の特使ミュンテーの顔が生えていた。
それが大きな笑い声を上げたのである。
「魔石獣――! あんな形で……!」
魔印喰いはミュンテーを喰らったが、吸収したミュンテーが魔石獣と化しあんな形に変異したのか。
しかも、それだけではなく――
「ほひょひょひょひょひょーーーー!」
ミュンテーの笑い声を上げながら、巨大になった両手の指の全てに一本ずつ氷の刃を生み出した。
「魔素を使っている……!」
この空間は天上人には効果がない。あれはミュンテーが聖痕を持っているためなのだろう。
そして、その刃を周囲の蜘蛛型の魔石獣に振りかざし、いくつもの魔石獣の串刺しを作り出す。そうすると魔印喰いがミュンテーを喰らった時のように、黒い炭となって吸収されて行った。
魔石獣と化したが故に、魔石獣を吸収する事まで出来るようになったのか。
「……共食い!?」
「凄い勢いよ……!」
あっという間に大量の蜘蛛型の魔石獣を吸収すると、その体に変化が現れる。
下半身から蜘蛛の脚が生えて来たのだ。大量の魔石獣を喰らった結果だろう。
そしてそうなると、他の蜘蛛型魔石獣も我先にと集って行くようになった。
多数を吸収し、女王蜂や女王蟻のような支配力を得たか。
「合体していく――」
いつの間にかその下半身が、完全な蜘蛛型魔石獣のものになっていた。
魔印喰いの体と魔印。
ミュンテーの顔面と聖痕。
蜘蛛型魔石獣の脚となった下半身――
もう単なる魔印喰いでも魔石獣でも天上人でもない。それらをグチャグチャに混ぜ合わせた合成獣だ。
一つだけ言える事は――これは強そうだ。
「凄い合成獣です――こんなものを隠しているなんて流石ですね。見直しましたよ」
敵が纏まってくれたため、自分だけで相手にする事も出来る。
正直この異空間だけでは、少々物足りない所ではあったのだ。
「お、俺じゃねえ――俺は魔石獣を集めておいただけだ……!」
しかしファルスはイングリスの言葉を否定する。
「? では一体……そうか、今度こそ虹の粉薬……」
アールシア宰相の部下の騎士達やファルスとも別ルートで、やはり血鉄鎖旅団も手を回して来ていたのだ。
そうでなければ、レオンが王都にいた事の説明がつかない。
盛られていた虹の粉薬の効果が今ここで発揮されたのだ。
「では偶然の産物だと? ふふふっ。わたしの日頃の行いがいいからですね」
「もう、クリス! あんなので喜ばないでよ!」
「そうよ、凄く気持ち悪いわよ、あれ――!」
アールシア宰相を伴って近くにやって来たラフィニア達が口を揃える。
「お……俺の日頃の行いがいいからかも――な!」
イングリスが片手で吊り上げていたファルスの体がフッと歪み、その重みと共に姿も消えて行く。
「特等席で見物出来ねえのは残念だがな……! そこで死んでろ! 後で死体は拾いに来てやるよ、あの怪物に喰われなきゃな!」
その声だけが、その場に大きく響いた。
どうやらイングリス達を置き去りに、自分だけ異空間の外に出たようだ。
「あっ……! 消えた!?」
「私達を置き去りにして、逃げたの!?」
「自分が倒されて、異空間が崩壊するのを避けたんだね」
「そ、そんな――これ、出られるの!?」
「イングリス、どう? 前みたいにできる?」
「多分空間を壊せば大丈夫。でもその前に――」
あの合成獣との戦いを、楽しませて貰おうではないか。
「ほひょ! イングリスちゃんの匂いがするうぅぅ! イングリスちゃああああん! わしらと一つになるんじゃあぁぁl! 一つになるのはとても気持ちええぞおおぉぉぉ!」
ミュンテーの顔がじゅるじゅると舌なめずりをしていた。
魔石獣化もしているはずなのに、あまり変わったように見えないのは何故だろう。
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