第57話 15歳のイングリス・カイラル王立騎士アカデミー7
「ぜーっ……ぜーっ……うえっぷ、気持ち悪りぃ……」
一番乗りで機甲鳥ドックに到達すると、ラティは肩で息をしながら膝に手をついていた。
「負けなくて良かったね?」
「完全に引きずられただけだから、俺の力じゃねえけどな……とんでもないよなぁ」
「何回もやってれば、慣れるよ」
「やるつもりかよ!?」
「やって欲しいなら、やるけど?」
「いいよ、毎回やったら死んじまうぜ……でもまあ礼は言っとく、ありがとうな。俺はラティだ、よろしく」
「イングリスだよ。よろしく」
「俺、この国出身じゃなくてアルカード出身なんだ」
イングリス達の国カーラリアの北にある寒冷地の国だ。
寒冷地の自然は厳しいが、雨があまり降らないため虹の雨も比較的少ないという利点もある国だ。
無論魔石獣の脅威が全く無いというわけではないが。
「そうなんだ。留学生だね?」
「ああ、そうなんだ。こっちはあったかくていいよな」
「うん。あのプラムって子もそうなんだ?」
「ん? あいつか? ああそうだな」
「じゃあラティは、あの子の従騎士になるために勉強しに来たんだね? わたしもそうだよ。ラフィニア・ビルフォードって子の従騎士になるんだ」
「ああ。あの聖騎士の妹だって子だよな? 俺達はそういう感じでは無いかもしれねえ」
「そうなんだ?」
「けど機甲鳥のこと覚えてさ、腕を磨いて俺も魔石獣と戦う役に立ちたいってのは本気だぜ……! ここでしかそんな事教えてないからさ、だからわざわざ留学してきたんだ……! よしもう十分休んだ、こうしてられねえ機甲鳥を出そうぜ!」
「うん。そうだね」
イングリスとラティはドックに詰めていた別の教官に申し出て中に入れて貰い、機甲鳥を引き出して飛ばした。
「よっしゃ、みんな来るまでは自由時間だ! 思いっきり飛ばすぜ!」
湖上に出ると、早速ラティは全速力を出していた。
「いいね!」
イングリスもその後に続く。
今日は魔石獣の気配もない。思い切り飛ばして楽しもう!
「よっしゃああああぁぁぁ!」
「おお。凄い……!」
ラティの駆る機甲鳥の飛行軌道だ。
螺旋を描くような細かい旋回を繰り返しながら前方に突き進むのだが、そういう動きを入れながらも速度が落ちていない。
急上昇、急旋回の動きも細かく複雑で、なおかつ素早い。
直線的な飛行軌道しか描けないこちらとは、明らかに動きの質が違った。
どうやら機甲鳥の操縦にかけては、ラティの才能は天才的のようだ。
「へへへっ! 俺だって何か一つくらい、お前達に勝てるものが無いと不公平だろ!?」
ラティの機甲鳥はイングリスの機甲鳥の前を行く。
こちらもアクセルを全開にしているが、やはり追いつけない。
――ちょっと悔しい。
「……追い抜く!」
イングリスは後方に掌をかざし――霊素弾を放つ!
スゴゴオォォォーーッ!
青白い色の大光弾が、湖水を盛大に巻き上げながら後方に突き進んでいく。
だがそれは、ただの副産物。発射の反動で、イングリスの機甲鳥は加速し、ラティの機甲鳥を追い越していた。
「うおおぉぉぉぉいっ!? 何してんだイングリス!? 何だよそれは……!?」
「わたし、負けず嫌いだから」
「いやそういう問題かよ!? 負けず嫌いであんな大砲みたいな光をぶっ放すなよ! 魔印も無しに何なんだ一体……!?」
「修業したからね」
「絶対そういう問題じゃねえ気がするんだが……!?」
「取り合えず、スピードでは勝ったね」
「ま、まぁな――でも操縦テクニックは負けねえ!」
「うん、凄いね。見てて動きが違うから。どうやってるのか教えて」
「ああ、いいぜ」
そうやっているうちにマーグース教官達も追いついて来て、機甲鳥の訓練が開始された。
そこでもラティの才能、素質は頭抜けており、教官も驚きつつも喜んでいた。
そうして騎士科とは別々の訓練も終わり――
翌日は騎士科とも一緒の座学と戦闘訓練。
その翌日も同じ――だがその夜、イングリス達はミリエラ校長に呼び出されていた。
「校長先生、話とは何ですか?」
校長室に入り挨拶をすると、イングリスはそう尋ねる。
「ええ、イングリスさん、ラフィニアさん、レオーネさん。この間機甲鳥ドックの見学をした時に、魔石獣から商船を守って頂いたでしょう? 実はその時の商船のオーナーが、是非あなた達をお招きしてお礼をしたいとの事で――」
「わ! ごちそうしてもらえるって事ですか!?」
ラフィニアが早速反応している。
「ええ、そうでしょうね」
「オーナーはどちらの方なのですか?」
「ランバー商会の武装行商団の方々ですね」
「……!?」
その名を、物凄く久しぶりに聞いた気がする。
「クリス、それってあれよね? あのラーアルの……!?」
「うん。ラーアル殿のお父さんがやっていた商会だったはず」
しかしラーアルも天上人になったのだし、その父親も天上人になったと思っていたが……?
その商会がまだ存在しているとして、どうなっているのだろう?
それを知るためには、招きに応じざるを得ないだろう。
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