第53話 15歳のイングリス・カイラル王立騎士アカデミー3
ロックゴーレムたちが高重力のリングで動きの鈍い生徒達を次々と捕まえ、場外に放り出して行く。
「はーい、あと90秒でーす! 残りは六人ですね、頑張ってくださーい!」
ミリエラ校長の応援が響く。
ここまで生き残った六人のうち、三人はイングリス、ラフィニア、レオーネだ。
ロックゴーレムはイングリスを完全に無視していたので、見ているだけだった。
イングリスは自分たちの他に生き残っている生徒たちに注視して行く。
自分たち以外の三人のうち、二人が騎士科、一人が従騎士科の人間のようだった。
意外と従騎士科の人間も健闘しているようだ。
まずは、騎士科の少女と従騎士科の少年の組み合わせ――
「おいプラム! お前鈍臭いんだから、しっかり俺の陰に隠れてろよ!」
「はいラティ。大丈夫ですか? 膝ががくがくしていますけれど――?」
「大丈夫だ、下らねえこと気にしてんじゃねぇっ!」
「わわわわ……! き、来ましたっ! あっち行ってぇ!」
「だー!? 押すなお前っ! さっきから邪魔ばっかしやがって……!」
「ご、ごめんなさぁい――」
と、騒がしいが騎士科の少女プラムが従騎士科の少年ラティを突き飛ばしたおかげで、実は上手い具合にゴーレムの狙いをかわすことができていた。
あのプラムの振る舞いは確信犯なのだろうか?
だとしたらなかなかの実力者のように思える。
「さぁ来なさい! このリーゼロッテ・アールシアの首、そう簡単に取れるとは思わない事ですわ!」
そして、如何にも貴族の娘という口調の騎士科の少女。
明るい色の金髪がふわりと巻き毛なのも、お嬢様然とした雰囲気に一役買っているだろう。
かなりの美人なのだが、少々近寄りがたい感じもする。
先程までお付きの者らしき生徒たちが彼女を守っていたが、すでに脱落したところだ。
お付きがいないと何もできないのかと思いきや、彼女自身の身のこなしはしっかりしている。
それに、わざわざリングの端に陣取っており、あわよくばゴーレムを叩き落してやろうという意図も感じる。
ただのお嬢様――というわけではなさそうだ。
「あと60秒でーす! さぁここでラストの追い込み! 重力負荷アップでーす!」
がくん! と更に体が重くなる。
「わ……! いい感じ――」
と、イングリスは喜んだが、ラフィニア達は悲鳴を上げていた。
「ああんもうダメ……ッ!」
「うう……っ! う、動けない……!」
ラフィニアもレオーネも魔印武具さえ持っていれば別だっただろうが、さらに増した高重力には抗いきれなかったようだ。
「きゃああぁぁっ!?」
「うわあぁっ!?」
とうとうゴーレムに捕まり、リング外に放り出された。
「さぁラスト四人ですねっ!」
他の者もこの上がった重力負荷には耐えられず、次々捕まって行った。
「ぎゃああああっ!?」
「だ、だいじょうぶですかラティ――きゃああぁぁっ!?」
「ぐおおぉぉっ!? 重い重い重い死ぬうぅぅぅっ! 助けてえぇぇ……!」
プラムのお尻に敷かれたラティがむしろ救助されるような形で、ゴーレムが彼等を外に放り出した。
「こ……このっ! わたくしに触れるんじゃありませんわ――!」
リーゼロッテもジタバタと暴れるが、捕まってしまってはもうどうしようもない。
「はいラスト一人ですっ!」
そして残りは一名。イングリスのみである。
「あ、さっきの従騎士科の子だ……!」
「やっぱ最後まで生き残ってるんだな――」
「じゃあさっきのあれは、手違いじゃなかったって事かしら……」
観衆がざわざわと、イングリスに注目していた。
だがそれ以上に――
「「「それにしても綺麗だなぁ」」」
男女問わず、うっとりとイングリスを見つめるのだ。
「……」
客観的に見ても、容姿で注目を浴びるのは仕方がない面があるとは思う。
ラフィニアや親しい人に喜んでもらうのはいいし、鏡に映る自分自身を眺めるのは今でも好きでよくやっているのだが――
やはり不特定多数からのこういう注目を浴びるのは少々苦手かも知れない。
前世では国王として臣下や国民の注目を一身に浴びる身だったが、それとはまた別の注目なのである。
もう終わらせてしまおう――とミリエラ校長を見ると、こくりと頷いていた。
ではやらせて貰おう。
イングリスは前に出て、分散していた三体のゴーレムのちょうど中間に位置取った。
ゴーレムが一斉にイングリスに突進してくる。
「はっ!」
突進を真上に飛び上がって避ける。
普通立っていられないような高負荷の中、ゴーレムの頭上まで簡単に飛び上がった。
高重力の負荷はかかっているが、逆に心地の良い重みだ。
目標を見失ったゴーレム達は、互いに衝突してその場に仰け反る。
その真ん中に、丁度イングリスが着地する。
「終わりですっ!」
しなやかな脚による蹴りが弧を描き、ゴーレムたちを一撃で蹴り飛ばした。
ゴーレムたちは嘘のように吹き飛び、リングの大分外側に落ちていた。
近くには生徒達がいるので、誰もいない遠目に飛ばしたのだ。
見ていた生徒達から、おおおおっ! と驚愕のどよめきが起きていた。
「しゅ、終了~! では、優待券はイングリスさんにプレゼントですねっ! さぁ次は機甲鳥の飛行体験に行きますよ~! 機甲鳥ドックに向かいましょうね~!」
ぱちぱちぱちぱち!
イングリスは拍手と歓声に包まれながらリングを降りた。
そこにミリエラ校長が駆け寄って来る。
「校長先生。先程の約束は――」
「勿論です。あとで校長室に来て下さいね。それにしてもイングリスさん、あなたひょっとして天恵武姫だったりしませんよねえ?」
「まさか」
「……ですよねえ? 雰囲気は違いますし――うーん興味深いっ! もしよかったら色々話を聞かせて下さいね!」
校長がキラキラとした目で、イングリスを見つめてくる。
「は、はあ……構いませんが」
何だか怪しげなものも感じなくはないが、とりあえず頷くだけ頷いておいた。
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