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第486話 16歳のイングリス・二色の竜2

 その勢いに足を取られ、思わずメルティナは躓いてしまう。


「こ、これは!? リ、リーゼロッテ……! ロシュフォール先生!」


 名を呼ぶが部屋の中に二人の姿は無い。

 ひょっとしたらここから外に投げ出されてしまったのかも知れない。


「一体何があったと……!?」


 メルティナは大穴に近付き外を見ようとするが、入ってくる風が強すぎて自分も投げ出されかねない。

 念のため魔印武具(アーティファクト)の鞭剣を抜き部屋の扉の取っ手に絡める。


 手元に水色の鞭の部分を巻き付け、命綱の代わりだ。

 そうして大穴から身を乗り出し二人の姿を探す。


「リーゼロッテ! ロシュフォール先生! 聞こえたら返事をして下さい!」


 しかし耳に入るのは先程と同じ唸る風音ばかりだ。


「こ、これはどうした事だ!?」

「何者かの襲撃か!? 君、これはどうしたんだ!?」


 音を聞きつけて船内の騎士達が何人か駆けつけてくる。


「分からないのです……! 今様子を見に来たら、こんな有様で!」

「やはり敵が侵入しているのか!?」

「とにかくまずあの穴を塞がねば、艦全体に崩壊が広がりかねんぞ!」

「よし、穴を塞ぐんだ!」


 騎士達は壁の大穴の応急処置にかかろうとする。


「十分気をつけて下さい! 必要であればこの鞭を命綱に。刃の無い部分は掴んで大丈夫ですから……!」

「ああ、承知した!」

「使わせて貰うよ!」


 騎士達が部屋に入り込もうとした時、その後ろからまた別の騎士が姿を見せた。

 それはラファエルの部下である聖騎士団の騎士達の装束では無い。

 リグリフ宰相の護衛を務める二人の内の一人、赤い髪をした女性の騎士だ。


「エキドナ殿……!? 如何なされた?」

「ここは我等が引き受けます。リグリフ宰相の護衛に戻られると良い、何があるか分かりません……!」

「ああ。承知している」


 エキドナと呼ばれた女性騎士は腰に佩いた剣の柄に手を置きながらそう頷く。

 そして次の瞬間――目にもとまらない速さで剣を抜刀していた。


 抜きざまに放たれた斬撃が捉えたのは、鞭剣を巻き付けていた扉の取っ手だ。

 支えを失って、メルティナの体は大きく傾ぐ。


「え……っ!?」

「何っ!? エキドナ殿!?」

「何をなさいます!」


 騎士達がエキドナの行動に驚く声を聞きながら、メルティナの体は大穴から外に投げ出される。


「きゃあああぁぁぁぁぁっ!?」


 身一つで空に投げ出され、為す術も無く落ちる感覚。

 飛ぶように出来ていない人間にとっては、本能的な危機感と怖気が凄まじい。


 ――だがこれに流されているだけでは、今までの自分と変わらない。

 ただヴェネフィクの離宮に閉じ込められて暮らして、為す術も無く天上領(ハイランド)に売り渡されてしまった力のない自分と。


 諦めない。せめて、自分の出来る事で抗う。

 今の自分にはそれが出来ないわけでは無い。


「でも……! まだっ!」


 メルティナは鞭剣を目一杯長く伸ばし遠ざかろうとする飛空戦艦の船体へと伸ばす。

 そして鞭剣の最後の刃が何とか外装部分に刺さってくれた。


「やった――ああっ!?」


 だが刺さりが甘かったかメルティナの身を支える事が出来ず、外れてしまう。

 今度こそ打てる手が無く、メルティナはぎゅっと目を閉じて身を強ばらせる。


 だがそれから一拍置いてふわりと体が浮くのを感じる。

 そして人の体温の暖かさも。


「メルティナさん! 大丈夫ですか!?」

「あ……リーゼロッテ! ありがとうございます、あなたこそ大丈夫ですか!?」


 リーゼロッテだ。魔印武具(アーティファクト)奇蹟(ギフト)である純白の翼で空を飛び、ロシュフォールの身も抱えている。


 その状態から更にメルティナの事も受け止めてくれたのだ。

 魔印武具(アーティファクト)を握る右手を使ってくれているため、かなり窮屈に密着するような格好になる。


「ええ。この通りロシュフォール先生も無事ですわ!」

「やあ姫様。ご無事で何よりですなァ」


 ロシュフォールの意識はあるようだが、その表情は青ざめて生気が無い。


「とにかく、戻りますわね! あまり離されると戻れなくなってしまいます!」


 リーゼロッテは全速力で飛空戦艦へと戻るべく、奇蹟(ギフト)の翼に力を込める。


「一体何があったのですか……?」


 メルティナはそうリーゼロッテに尋ねる。


「あれは恐らく――魔素流体(マナエキス)を使った不死者かも知れませんわ! 突然天井から何か液体のようなものが落ちてきたかと思うと、人の形になって壁を壊して……それでロシュフォール先生が外に投げ出されてしまいましたの!」

「マ、魔素流体(マナエキス)……!?」

「ええ。小さいですが、マクウェル将軍が操っていたものと似ていたと思います!」


 その言葉でメルティナは否が応でも思い出す。自分が住まう離宮にマクウェル将軍が率いる部隊が押し寄せて来た時の事を。

 それは対外和平派の者達が皇女であるメルティナを旗印に現皇帝への反逆を目論んでいるという、まったく身に覚えのない名目を掲げた捕縛劇だった。


 確かにメルティナの周りには所謂穏健派と言われる考え方の者達が多かった。

 幼い事に付いた教育係からそのような考え方だったし、自然とそれを受け入れ今もそれは変わっていない。

 離宮からの外出は自由にならないので、もっと見識を深めたくて色々な学者や知識人を呼んで話を聞かせて貰う事もあった。


 そういう者達も確かに穏健派が多かったと思う。

 だが皇位をしようだとか、反逆を企てようとか、そんな事は考えた事も無い。

 現皇帝は年の離れたメルティナの異母兄だ。


 半分しか血が繋がらないとはいえ、肉親と戦いたいわけが無い。

 無実の罪に問われた結果、昔から顔馴染みの警備の兵や使用人や出入りしていた教育係達、そしてその縁者までも捕らえられイルミナスに送られた。


 そこに居合わせたイングリス達の手によってメルティナだけは命を救われたが、他の者達は皆人間を溶かして作り出す魔素流体(マナエキス)に変えられてしまったと言う。

 メルティナにとっては悪夢の物質。決して忘れ得ない傷だ。


「メルティナさん! メルティナさん! しっかりなさって下さい! 顔色が悪いですわよ!」


 リーゼロッテがメルティナの体を抱く腕を揺さぶってくれる。


「! え、ええごめんなさい……! ではマクウェル将軍が艦内に侵入して……!?」

「ご本人かどうかは分かりませんが、協力者や内通者がいるのかも……」

「あ! そうであれば――」

「何か心当たりがありますの?」

「私を外に落としたのは、リグリフ宰相の側近の騎士のエキドナ様なのです! ひょっとしたら……」

「なるほど、リグリフ宰相の側近にヴェネフィク側の内通者がいたという事かも知れませんわね」

「とにかく助けられるものは助けなければ……! それにイルミナスの魔素流体(マナエキス)が使われているというなら、元は私がお世話になった人達かも知れません。ならばせめて安らかに眠らせてあげたいと思います……!」

「ええ勿論ですわ! 全速力で飛ばしますわよ!」


 リーゼロッテの翼の速度が一段と上がり、飛空戦艦に近付いて行く。

 もう少しで追いつけそうだ。


 だが次の瞬間、船体下部の機甲鳥(フライギア)機甲親鳥(フライギアポート)の格納庫部分の壁が内側から吹き飛んで大きな穴が開く。

 そしてその残骸が、丁度リーゼロッテが飛ぶ真正面から迫って来るのだ。

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