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第484話 16歳のイングリス・神竜捜索13

 イングリスの内心を現すかのように、目標を見失った霊素弾(エーテルストライク)の光弾が地面を抉りながら遠くに突き進んで行く。


「そちらがそのつもりなら……!」


 力を無駄にせず、やるべきことはやっておく!

 イングリスは全力で地を蹴り、霊素弾(エーテルストライク)の光弾を追跡する。

 一瞬で追いついて、再度反発する波長の霊素殻(エーテルシェル)で打撃を加える。


「はああぁぁっ!」


 ドゴオオォォンッ!


 轟音をあげて軌道を変えた霊素弾(エーテルストライク)は、空中の機神竜に向かうのではない。

 ヴェネフィクへと続く街道、峠と峠に挟まれた隘路の方向だ。


 神竜との戦いの結果ヴェネフィク側への道が崩壊し、長期間に渡り軍事行動への影響が

出てしまい侵攻不可能になる――

 そういう事なのだが、まだ数ヶ月か数年に渡るような崩壊には遠い。


「光が、ヴェネフィクへの隘路のほうに……!?」


 次の瞬間、イングリスは戦況を見守るアルルの真後ろに立っていた。

 自分の神行法(ディバインフィート)で距離を飛んだ。

 短距離だが急ぐ必要がある。


「アルル先生」

「きゃっ!? イングリスさん!?」


 急に耳元で囁かれて吃驚するアルル。


「済みません少々急ぎますので! 武器化をお願いします!」

「え、ええ! 分かりました!」


 アルルと触れ合った手と手から爆発的な光と甲高い音が広がっていく。

 その中でアルルの姿は大きくて美しい黄金の盾へと代わっていった。


「よし……!」


 やはり天恵武姫(ハイラル・メナス)は凄い。

 イングリスの霊素(エーテル)を受けそれを増幅して返してくるような、明確な手応えを感じる。


 一つ頷いたイングリスの姿が、即座にその場から掻き消える。

 そして――


 ドガアアァァンッ!


 打撃音が轟き、アウルグローラを封印していた岩山の一つが根元から吹き飛んで空に舞っていた。丁度吹き飛んだアウルグローラを追いかけるような方向だ。


「えええぇぇぇっ!? な、何!?」

「クリス!?」

「でも、いない!?」


 ラフィニア達が慌てて轟音の出所を見た瞬間、既にそこにイングリスの姿は無い。

 あるのは切り株のように上部分を吹き飛ばされてしまった岩山だったものと、水面に広がる波紋のような光の残滓だ。


 ドガアアァァンッ! ドガアアァァンッ!


 また別々の方向から轟音。

 岩山が吹き飛び、イングリスの姿は無く光の波紋だけが残る。

 神行法(ディバインフィート)は一瞬で世界に対する自分の位置を書き換える神の移動法である。


 速度で言えば音より速い。

 音に反応して目で追っていては、視認する事は出来ないのだ。


 ドガアアァァンッ!


 最後の轟音が響いた時、ラフィニア達が見たのは岩山をアルルの黄金の大盾で殴り飛ばした直後のイングリスの姿だった。


 見えるという事は、それで打ち止めという事である。

 黄金の盾で弾き飛ばされた四つの岩山は先にイングリスが軌道を変えた霊素弾(エーテルストライク)を追い越して飛んで行く。


 先にヴェネフィクへと続く街道に着弾し、巨大な石壁のようにうず高く積み上がる。

 少々綺麗に積み上がり過ぎて、かなり作為的なものに見えてしまうだろうか。


 それに大きな岩と岩の間には、人が通れる程の隙間も生じてしまっている。

 ――が、そこに遅れて霊素弾(エーテルストライク)が着弾した。


 ズガガガガガガガガガガガガガガガガッ!


 遠くここまで響く程の轟音を立てて、岩山が崩れて瓦礫と化して行く。

 それが不自然ではない破壊跡を岩山に刻みつけ、細かく砕かれた岩の破片が火との通れる隙間を塞いでいく。


 これは完全に、強大な力によって崩壊し通れなくなった街道だ。


「ああ……神竜が暴れたおかげで、ヴェネフィクへの道が塞がっちゃったなあ。大変な事故になっちゃったなあ」


 イングリスは大げさに芝居がかったため息を吐く。


「ははは……た、大変ね……」

「ま、まあ事故なら仕方ないわよね、事故なら」

「イ、イングリスさんはあくまで巻き込まれただけって言えばいいよね……?」


 ラフィニア達が乾いた笑みを浮かべている。


「さて、無事に事故も起きた事だし――」


 イングリスは空中にいる機神竜へと視線を向ける。

 こちらが街道を塞ぐ間、特に何も動きは見せて来なかった。

 時間にすれば一瞬の事なので、手を出す暇が無かっただけの可能性もある。


「では、続きをお願いしますね……!」


 そう機神竜に呼び掛けつつ、アルルが変化した黄金の盾を手放そうとする。


「アルル先生ご協力ありがとうございます。あとはわたしが――」


 そう呼びかけると、頭の中にアルルの声が響いてくる。


『いいえ、このままあなたを守らせて下さい……! 一人で戦いたいのは理解しますが、教官として生徒は守りたいですから』


「アルル先生――」


『それに、私を使って戦うのもいい訓練だと思います。いつかもっと、強大な敵と戦う時のために……!』


 まるでそのような存在に心当たりがあるかのような口ぶりでもある。

 それが何かは分からないが、もしいるとすれば楽しみな事この上ない。


「そうですか、ではお言葉に甘えます!」


 イングリスはアルルの変化した黄金の盾を強く握り締めたまま、機神竜の様子を窺う。

 機神竜はイングリスのほうを見ながら、ゆっくりと目の前に着地してくる。

 先程は真っ向勝負をいなされてしまったが、まだ手合わせをしてくれそうな気配ではある。


「さあ、どこからでもどうぞ」


 その呼び掛けに応じてか、機神竜は大きく口を開き口内の砲門を露にする。

 先程はして貰えなかった攻撃だ。


「ありがとうございます、その攻撃も見せて貰えるのですね!」


 と、喜んだのも束の間――

 機神竜はグッと首を捻ると自分の長い尾に向けて、砲門からの光を放つ。


「!?」

『自分で自分に……!?』


 頭の中に響くアルルの声も、驚きを禁じ得ない様子だった。

 眩い輝きが迸り、尾がその場に切り離されて転がった。

 完全なる自傷行為である。


「それを持ってお行きなさい――あなた方には必要なもののはず……」


 穏やかなその声を発するのは、目の前に立つ機神竜だ。


「!? 人の言葉を……!?」


 今のは竜理力(ドラゴン・ロア)を介した竜語ではない。

 完全に人間の言葉だ。


「人の中にあり、人の手によって生き続けていたために――」


 覚えた、という事だろうか。


「ならばあなたは、アウルグローラではなくイルミナスの機竜……?」

「感謝します……あなたが母様の力を鎮めて下さったゆえに、我の意思でこの体を操ることが出来ます」

「母様?」

「我は神竜アウルグローラが生み出した眷属がゆえに……」

「なるほど……先程までわたしと手合わせしていた時はまだアウルグローラの意志が強く出ていたと――」


 その状態で強い力を奮って消耗したため、機竜のほうの意思が勝ったという事だろう。

 思えば途中で口内の砲門で追撃せず、こちらとの力比べを回避して飛び立った時点で機竜の意思が勝っていたのだろう。そして戦闘を回避した、と。


「その通りです。我にあなた方を傷つける意思はありません」


 それはそれで、少々問題があるのだが。


「そうですか。ではもしよろしければ、もう一度アウルグローラに変わって頂く事は出来ないでしょうか……?」


 イングリスは丁寧にそうお願いする。

 せっかくアルルも武器化して貰っている事だし、もう少し機神竜と戦わせて貰いたいのである。


「こら! 何言ってるのよクリス! もう十分戦ったでしょ!? 迷惑かけないの!」


 聞き咎めたラフィニアからのお小言が頭上から降って来る。


「いやでもまだ足りないって言うか、これからがいい所だったし、アルル先生もせっかく一緒に戦ってくれてるし――」

「申し訳ありませんが、我にも母様にも時間がありません……」


 穏やかな声で言う機神竜の全身から、大量の煙が噴き出している。


「! それは……!?」


 ただの煙ではない。

 極端に濃い濃度の竜理力(ドラゴン・ロア)が含まれた煙だ。


 単なる機械部分の故障とか、そういうものではないように感じる。

 存在ごと霧散して行くような――

 それが証拠に、煙を噴き上げる機神竜の体が風化して枯れて行くように崩れ落ちて行く。


『こ、これは一体何が!?』

「く、崩れて行くわ……!」

「竜さん!? だ、大丈夫なの……!? ねえクリス!?」

「……ちょっと難しいかも。竜理力(ドラゴン・ロア)が消えていくから――」

「そ、そんな……こ、これが僕達の機竜がしたかった事なの……?」


 マイスのその言葉に機神竜はゆっくりと一つ頷いた。


「我の生で、母様の死を鎮めます。その尾はあなた達が使って下さい――」


 その穏やかな声と共に、大きく機神竜の体が崩れていく。

 不死者と化してしまっていた神竜アウルグローラの存在が、生きた機竜と合わさる事によって相殺して消えて行くのだ。

 それが死を鎮めるという事だろう。


「……お見事です」


 これ以上戦えないのは残念だが、子が母を思って行う行為だ。

 そういう思いに人も竜も関係は無い。神妙に見守る他ないだろう。


 自分もラフィニアとの事を考えてしまう。

 母と子ではなく祖父と孫だが、可愛い孫にこんな事をさせてしまう事はあってはならないと強く思う。


「……ありがとう。他に何か遺せるものがあれば……遺してみましょう」


 その声を最後に機神竜の全身は完全に崩れ落ち、乾いた化石のように萎びて行く。

 切り落とされた尾だけがまだ無事に、原形を留めていた。


「……機竜が自分の命を使って、不死者になったアウルグローラを解放してあげたんだよ」

「こうするしかなかったの……?」


 ラフィニアは星のお姫様(スター・プリンセス)号から降りて、風化した機神竜の残骸の前に立ち尽くしている。

 冴えない表情が何とも物悲しそうだ。


「多分……ね。さあ、せっかく尻尾は残してくれたんだから、早く持って帰ってあげよう?」


 イングリスはラフィニアの手をぎゅっと握り、前へ進む事を促す。


「うん……そうね」


 ラフィニアがその手をこちら以上に強く握り返して来るのが、何だかとても嬉しかった。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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