第479話 16歳のイングリス・神竜捜索8
イングリス達がラファエル達の本隊と分かれて二日――
イングリス達は機甲親鳥の上で周囲の風景を見渡していた。
「あの壊れてる所は虹の王が通っていった跡よね。あんなに壊れてるのね。あっちなんて山が半分くらい抉れちゃってる」
ラフィニアの指差す先の小山は、確かに中腹辺りから大きく削り取られて歪な形になっている。
街道の方は修復も行われているが、使わない部分は破壊されたそのままである。
「うん、そうだね。思ってたより酷いね」
ラフィニアの言葉にイングリスは頷く。
「こんな事を引き起こす虹の王が虹の雨のせいでいつ生まれてくるか分からないのに、人間同士で戦争なんてしてる場合じゃないわよね。ロシュフォール先生のことが第一だけど、戦争も止めなきゃ……!」
「そうだね。頑張らなきゃね、ラニ」
真面目な顔をしてイングリスとラフィニアが頷き合うその時、
ぐきゅるるるるる~~~~
二人のお腹が大きな音を立てて鳴った。
「顔や台詞と全く合って無いわよね、それ……」
レオーネが呆れてため息を吐いている。
「だ、だって仕方ないじゃない、真面目な話をしてお腹が空いたのを紛らわせようとしてたんだから……!」
「別行動の方にそんなに沢山食べ物を持って来られなかったからね」
「それでも普通の倍は貰ってきたんだけど……」
「「足りない!」」
「はははは……こういう時は大変だね。イングリスさんとラフィニアさんは」
マイスも苦笑いしていた。
「足りない分は途中の山で狩りでもすればいいかと思ってたけど……」
「あんまり動物もいないのよね。当てが外れちゃったわよね……」
イングリスとラフィニアは力なくため息を吐き合う。
「元々動物達も少なかったのもあるでしょうが、復活した虹の王に怯えて逃げてしまったんですね。また戻ってくるためには暫く時間がかかるかも知れません。動物は敏感で臆病なものですから」
アルルがそう言って、眼下の山に視線を落とす。
「あ~メルティナじゃないけど機竜って食べられないかしら?」
「生身の部分もあるよね? ちょっと切り取らせて貰う?」
イングリスとラフィニアは機甲親鳥の後ろを飛んでいる機竜を振り向く。
後ろから機竜に押して貰いつつ機甲親鳥は飛んでおり、普段より速い速度で目的地へと進んでいるのだ。
「で、出来ればやめてあげて欲しいんだけどなぁ……」
心なしかイングリスとラフィニアの視線を受けた機竜の顔も引き攣っているように見えなくもない。
「……このままじゃダメね! 早く何とかしないと!」
「うん、そうだねラニ!」
「早く何とかって、でもどうするの?」
「とにかく早く行って竜の肉を採るのよ!」
「うん、それがいいね」
というわけでイングリスとラフィニアは機甲親鳥に格納してある星のお姫様号を引っ張り出して乗り込んだ。
機甲親鳥の外縁部には機甲鳥を格納して係留しておくための窪みのような空間がある。
そこを通じて機甲鳥自体の動力を充填する事も出来る。
「レオーネ、あたし達先に行くわ!」
「このあたりからなら、目的地のあたりまで機甲鳥だけで行けると思うから」
機竜の補助を受けているとは言え、機甲親鳥より機甲鳥の方が速度は出る。
星のお姫様号であれば尚更だ。
機甲鳥の中でも最上級の速度である。
「ええ、分かったわ。大分近付いてきたしそれもいいかも知れないわね」
「では私も一緒に……! 戦闘になるかも知れませんから」
アルルも星のお姫様号に乗り込む。
もう封印地に近い事もあり、イングリスとアルルはラフィニアの作った金色の巫女服に着替え済みである。
「気をつけてね、イングリスさん、ラフィニアさん、アルルさん!」
レオーネとマイスに見送られ、星のお姫様号は機甲親鳥から離れて先行していく。
「一気に行くわよ! 加速モード!」
修復された星のお姫様号でも、加速モードは健在だ。
一気に機甲親鳥との距離が開き、その姿があっという間に小さくなっていった。
◆◇◆
そのまま動力が少なくなってくるまで星のお姫様号は飛び続け、目的地の付近に到達した。
「あそこ! 四つの岩山! 地図だとあの内側よね……!?」
ラフィニアが指差すのは、東西南北に四つの岩山が並ぶ地形の中心部だ。
図ったように同じような大きさの岩山が、同じような距離を開けて鎮座していた。
ヴェネフィクへと続く街道はそこから東側に行った切り立った峠とその向こう側の峠の合間を縫うように続いているようだった。
この峠と峠の間は比較的狭くなっているので、ここを封鎖できればもう一つの目的も果たせそうだ。
「同じような大きさの岩山が並んで……何だか人為的なものにも見えなくもないですね」
アルルがそう言い、表情を引き締める。
「確かにそうですね」
イングリスも頷いて同意した。
「ただ人の手によるものだとしても、かなり時間は経っているのでしょうね。それぞれ風化の具合や樹や草の具合も違います」
同じような背格好でも、北風に長く晒されてきた山は風化が進んで色褪せているし、陽のよく当たる南側は他の山よりも麓や途中に生えている樹や草が多い。
そういう変化が現れる程長い時間が経過しているという事だ。
そして――
岩山に近付いていくと、イングリスはぴくりと反応する。
「……! 霊素……」
それぞれの岩山から霊素の流れが発生しているのを感じる。
それは四つの岩山の中央の窪地の中央に向かって流れ込んでおり、地中に向かって沈み込んで行っているようだ。
そしてそれが、地中に網や膜を張るような形で作用している。
つまりその下に何かがおり、それを封じている――
その何かとは当然、情報通りであれば神竜アウルグローラだろう。
「ねえクリス、この辺りに何だか凄い雰囲気を感じるって言うか……絶対普通じゃない気がするんだけど、クリスも何か感じる?」
ラフィニアがそう言ってくる。
「うん、感じるよ。ラニの言う通りきっと何か――多分神竜がいるんだろうね」
ラフィニアはイルミナスでの戦いの最中、霊素の矢を放って見せたそうだ。 幼い頃からイングリスとずっと一緒に育ってきた事によりイングリスの霊素が宿り始めたのだと思うが、この場に流れている霊素の気配も朧気ながら感じ取っているらしい。
半神半人の神騎士がイングリスなので、ラフィニアは四分の一が神で四分の三が人になるのだろうか?
「私には特に代わった所は感じられませんが、神竜がいてくれる事に越した事はありませんね。そうでないと始まりませんから」
天恵武姫にも霊素の存在を感じる事は出来ない。
アルルとしては特別なものは感じられない様子だ。
「ともかく確かめてみましょう」
「ええ、ですがどうします? あそこの中央を掘ってみますか?」
アルルが四つの岩山に囲まれた盆地の中央を指差す。
「それもいいですが……一気に壊すと地中にいるかも知れない神竜を傷つけかねませんし、ゆっくり丁寧に掘り進む時間も惜しいですね。出来れば向こうから出てきて欲しい所です」
「向こうから? そんな事が出来るんですか?」
「ええ。枷になっているものが外れれば可能性はあると思います」
イングリスの見たところ四つの岩山から霊素が流れ込み、封印のような形を形成している。
自分以外の神騎士かそれとも神そのものの御業か、それは分からないがそういう類いの存在によるものだ。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
『面白かったor面白そう』
『応援してやろう』
『イングリスちゃん!』
などと思われた方は、ぜひ積極的にブックマークや下の評価欄(☆が並んでいる所)からの評価をお願い致します。
皆さんに少しずつ取って頂いた手間が、作者にとって、とても大きな励みになります!
ぜひよろしくお願いします!