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第475話 16歳のイングリス・神竜捜索4

 そして翌日の早朝――

 イングリス達はミリエラ校長に伴われて王城にいた。

 目の前にはウェイン王子と、それにセオドア特使にラファエルやリップルもいた。


「何……!? ではリグリフ領の神竜調査と引き換えに、一時的に聖騎士団の指揮権を宰相に預けよと言う事か?」


 話を聞いたウェイン王子の問いに、イングリスは微笑みながら応じる。


「ええ。ヴェネフィクへの侵攻軍は東部諸侯の軍勢が主力のはずでしたが、聖騎士団がそこに加わるとなるとなればリグリフ宰相としても心強いでしょう。自分の手勢は痛めずに強力な手駒が手に入るわけですから。このくらいの条件であれば、今という状況での領土内の調査も受け入れて下さるでしょう」

「ちょ、ちょっと待ってよクリス……! そんな事したら、ラファ兄様やリップルさん達にヴェネフィクと戦争してこいって言ってるようなものじゃない!」

「そうだね。だからリグリフ宰相も喜ぶし、ウェイン王子は味方してくれるんだって思って貰えると思うよ?」

「そんなのダメじゃない! あたし達は戦争なんて止めたいって思ってるのに! そりゃああたし達には何も出来ずに、見てるしか出来なかったけど」


 ラフィニアの言葉には、イングリス以外のその場の全員が頷いていた。


「でも今のままじゃ止めるのは難しいよ? 東部の出兵準備が整うまでの間にヴェネフィクとの調停が済めば出兵しないって取り決めだけど、ヴェネフィクの中で調停に応じてくれそうなメルティナはここにいるわけだし……つまりヴェネフィクの国内では穏健派が駆逐されて、現時点では話し合いの余地が無いって事だね」

「遺憾ながら、その通りではあるだろう」


 イングリスの言葉にウェイン王子が重々しく頷いている。

 問題はそういう状況がはっきりしたとして、どういう手を打つかという事だ。

 アルカードの時のように少人数で潜入して体制転覆を目論んでもいいが、ヴェネフィクは元々カーラリアと敵対している上、国力人材共に比較にならない。


 無貌の巨人を操るマクウェル将軍を始め、天恵武姫(ハイラル・メナス)のティファニエや天恵武姫(ハイラル・メナス)を超えた天恵武姫(ハイラル・メナス)であるシャルロッテ、更にティファニエが向こうに味方しているという事は機神竜と化したイーベルも出てくるかも知れない。


 それらを退けて体制を転覆する所まで持って行くのは時間がかかるだろうし、もしそういう情勢になりそうになったら、状況を察してリグリフ宰相の軍勢がヴェネフィク国内に攻め入るだろう。

 ヴェネフィクが弱体化すれば、領土を切り取りに行くまたとない好機である。


「ごめんなさい……私が、私がもっとしっかりしていればこんな事には……」


 ヴェネフィクとの休戦交渉が上手くいっていない状況に責任を感じてだろう。メルティナが声を震わせ、俯いてしまう。

 それを慰めるのもまたイングリスだった。


「あ、大丈夫だよそんな顔しなくても。わたしメルティナには感謝してるし、これはこういう状況だからこそお薦め出来る手だし、ね?」

「こういう状況だから……?」

「うん。今だから丁度いいんだよ? 単に神竜を掘り起こすための交換条件に聖騎士団を差し出すなんて、普通は許可なんて貰えないし」


 ウェイン王子とて戦争を積極的に進めようとは思っていない。

 出来れば止めたいと思っているはずだ。

 国の垣根を越えた封魔騎士団構想を打ち出したのはウェイン王子である。


 カーラリアとヴェネフィクの本格的な開戦は、その構想に逆行するものだ。

 いくらロシュフォールの命がかかっているとは言え、あくまで騎士アカデミーの一教官の立場だ。


 そのために聖騎士団を身売りするような真似は出来ないだろう。

 そうするだけの余程の見返りが無ければ――


「では普通ではない何かがある、という事かな?」

「イングリスさん、仰ってみて下さい」


 ウェイン王子とセオドア特使がイングリスを促す。


「はい。地中から掘り起こした神竜の手によって、ヴェネフィク側へと繋がる山道が完全に崩落するとしたらどうでしょう? その復旧には数ヶ月から年単位の時間がかかるかと」

「「!」」


 ウェイン王子とセオドア特使がはっとして顔を見合わせる。


「……どう思う? セオドア?」

「決して誉められた手段ではありませんが……妙手ですね。機甲鳥(フライギア)機甲親鳥(フライギアポート)の普及は徐々に進んでいますが、あくまでカーラリアの主力は陸上戦力。特に地方の諸侯の軍勢では……街道が破壊されれば侵攻は出来ません」

「はい。東部諸侯の侵攻軍の出征時期を後ろ倒しにする事によって、和平や調停の時間的余裕を大幅に伸ばす事が出来るのではないかと」


 つまりこれは神竜の捜索の名を借りた、ヴェネフィクとの和平の余地を広げるための破壊工作。その実行役が聖騎士団だと言う事だ。

 本当に神竜に破壊させる必要も無く、その仕業に見せかけて聖騎士団が山道を破壊してしまえばいいのだ。


 本来虹の雨(プリズムフロウ)や魔石獣への対応を役目とする聖騎士団を国内の政治的な謀略のために使うのは役割が違うが、そこは指揮権を持つウェイン王子の考え方次第である。


「つまり、リグリフ宰相領に神竜が存在している事を逆に利用してしまうわけですわね……!」

「東部の開戦を物理的に先延ばしにするなんて、よくそんな事を考えつくわね」


 リーゼロッテは手を打ち、レオーネは感心したようにため息をつく。

 逆にそのくらいの大きな見返りが見込めなければ、ウェイン王子やセオドア特使も聖騎士団を動かしてはくれないだろう。


 そしてウェイン王子やセオドア特使が動いてくれなければ、リグリフ宰相にとって魅力的な提案を出来ず、神竜の調査は実現出来ない。

 つまり、こういう状況だからこそお薦め出来る手段だ。


 バシッ!


 喜んだラフィニアがイングリスの背中を強く叩く。


「やるじゃない、さすがクリスよ!」


 喜んでくれるのはこちらも嬉しいが、ちょっと痛い。


「良かったわね、メルティナ! ロシュフォール先生も助けられそうだし、ヴェネフィクとの戦争も避けられるかも知れないわよ」

「ええ……! ありがとうございます、イングリス!」

「本当に、何度もロスを助けようとして頂いて……」


 顔を輝かせるメルティナと、深く感じ入っているような様子のアルルだった。


「いえ気にしないで下さい、二人とも。全部わたしのためでもあるから……ね?」

「どういう事、クリス?」

「ロシュフォール先生とはまだまだ訓練したいし、新しい神竜とも戦いたいしね? それに東部諸侯軍の動きを気にせずにまたマクウェル将軍やティファニエさん達と手合わせ出来るようになるだろうし……これが一番、手合わせ出来る機会が多いかなって」


 イングリスは一つ二つと指を立てつつ、手合わせの相手を勘定してみせる。


「ははは……さすがクリスね」

「そうね。色んな意味でね……」

「まあ、いつも通りですから逆に安心しますけれどもね」


 呆れ半分のラフィニア達を尻目に、ウェイン王子がラファエルに問いかける。


「ラファエル、リップル。このような権謀術数の類いに君達を動かすのは心苦しいが……やっては貰えまいか? 確かに現状のままでは東部諸侯の動きは止められず、戦端は開かれてしまうだろう。これにより、少なくともそれを後ろに倒す事が出来よう」

「王子の仰る通りだと思います。これは人を傷つける事ではありませんし、逆に多くの人々を救うためになる……決して誉められた手段ではないのは事実ですが、背に腹は代えられません。我々聖騎士団はリグリフ宰相領に向かいます」

「うん、戦争せずに済むのならそのくらいはね。天恵武姫(ハイラル・メナス)としては人間同士で戦うんじゃ無くて、手を取り合って虹の雨(プリズムフロウ)や魔石獣から自分達を守って欲しいかな」


 ラファエルとリップルも、ウェイン王子の方針には異論が無い様子だった。


「済まない、二人とも。ではリグリフ宰相にはすぐに私から話をしよう。皆は即座に出発出来るように出撃準備を整えてくれ」


 ウェイン王子はそう指示を出しながら立ち上がる。

 即座に動き出してくれるつもりなのだろう。


「「「はいっ!」」」


 イングリス達も立ってウェイン王子を見送りつつ、声を揃えた。

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