第474話 16歳のイングリス・神竜捜索3
神行法でアルカードを後にしたイングリス達は、今度はカーラリアへと再び戻った。
向かったのはボルト湖の中央の中州である。
元はイルミナスであった天上領の残骸。
半壊した中央研究所を修復しつつ、マイス達イルミナスの天上人はそこで暮らしていた。
既に騎士アカデミーの演習会の後片付けも終えて皆寝静まっていたが、イングリス達が尋ねるとマイス達は快く応対してくれた。
通された部屋は以前見たヴィルキン博士の研究室と同じような場所だった。
マイスが少し眠そうにだが、イングリス達の話を聞いてくれた。
「竜の、それも最強種の神竜の居場所についてだね?」
「うん……分かる? マイスくん!?」
「少し待ってね……ええと出るかな。イルミナスのデータも殆どが破損して、閲覧不可になってしまったものも多いから――ええと、古い地図かも知れないけど……」
マイスがそう言うと、目の前にある大きな机の上に地形を模したような立体的な地図が映し出される。
「ええと。ここが神竜フフェイルベインの封印地……」
とマイスが指を指したのは赤い溶岩をたたえた火山のような場所である。
「!」
そう。イングリス王が神竜フフェイルベインを封じたのはクラヴォイド火山の地中深く。
あの強力な氷の力を大自然の力によって相殺し、封印を強固なものにしようとしたのだ。
これがイングリス王の知るかつての世界の姿だ。
「えぇ? でも竜さんがいたのはアルカードだよ? こんな火山みたいな場所じゃないわよね?」
ラフィニアは首を捻っている。
「凄く古い時代の地図なんじゃないかな?」
「そうかも知れない。ごめんね、検索しても出てくるのはこれしか無くて。イルミナスが完全だったら最新の情報に出来たのかも知れないけど」
「ううん十分だよ。でも今と地形が違うって事は、何があったのかな?」
とイングリスはマイスに尋ねてみる。
「クラヴォイド火山……か。これは確か天上領になったと思う。教主連の方に同じ名前の天上領があったはずだから」
「ああ成程。元々あった火山を天上領にして、そこに街が出来てリックレアの街になって、更にそこも天上領になってフフェイルベインが出てきたんだね」
「今まで何度も天上人が地上の土地を切り取って行ってるって事なのね……」
「ここだけではなく、きっとこんな所は沢山あるのでしょうね」
レオーネもリーゼロッテも、何とも言えない表情をしている。
ともあれそういう事であるのならば、イングリスとしてはとても気になる事がある。
シルヴェール王国の王都シルヴェリアだ。
イングリス王が造り、そしてその生涯を終えた地だ。
この地図にシルヴェリアは存在するのだろうか?
とは言え今それを聞くのは皆に疑問を持たせてしまうし、優先するべきは他の神竜の居場所だ。
シルヴェリアについてはまた今度一人で訪ねて見せて貰おう。
「それでマイス君、他の神竜っているのかな?」
イングリスが問いかけると、ラフィニアや他の皆もやや緊張してマイスの返答を待つ。
「ええと……あ、うん。一件だけだけどデータがあるよ!」
「おぉ……!」
神竜と戦えるのならば、別に相手が必ずしもフフェイルベインでなくとも構わない。
ロシュフォールも助かるし戦う相手も増えるし、再び美味しい肉も食べられる。いい事づくめである。
「そ、それで神竜はどこにいるのでしょう!? どこに行けばロスを助けてあげる事が……!」
アルルが重ねてマイスに尋ねる。
「場所は……フフェイルベインの封印地から南東方面。ここだね」
と、映し出される地図が滑って別の地形を映し出す。
「ここは……?」
「ええと、今で言うカーラリアとヴェネフィクの国境付近じゃないかな? ここが神竜アウルグローラの封印地だってデータになってるよ」
「ヴェネフィク国境って事は、氷漬けの虹の王を運び込んだ辺りだね」
「って事は、カーラリアの中ね! だったら話が早いわ!」
ラフィニアがぱっと顔を輝かせる。
「だけどラフィニアさん。これは古いデータだと思うから、今でもそうとは限らないのだけは覚えておいてね」
「それでも手がかりはこれだけだし、行って調べてみる価値はあるわ。封魔騎士団の飛空戦艦もあるし、それを使わせて貰えば……!」
そうレオーネが言う。
「問題はこの辺りの地域はリグリフ宰相のご領地だということですわね。わたくし達のシアロトやラフィニアさん達のユミルであれば話は簡単ですが……神竜を起こすなどという大事は、ちゃんとお話を通して許可を頂かねばなりません」
「そうだね。今眠っているなら起こさずにそのまま眠らせておいた方がいいって言われるかも知れないし……東部は今忙しいだろうから」
先日のヴェネフィク軍からのカーラリアへの攻撃。
それと同時に起こった氷漬けの虹の王の侵攻。
これらで多大な被害を被ったカーラリア東部の諸侯は対ヴェネフィクの強硬派であり、ヴェネフィクに対する報復攻撃を主張している。
実際に侵攻軍の編成中であり、その準備が整うまでにヴェネフィクとの外交調停が不調に終わった場合は本当に攻め入る予定なのである。
その動きの中心人物がリグリフ宰相だ。
そこに領土の地下に神竜が埋まっていて、それを堀り起こすなどという話しを持って行っても、今は余計な事をするなと言われてしまう可能性は高そうである。
「そんな……では神竜の調査は許されないのですか? アルル先生はこんなにもロシュフォール先生を心配しているのに」
メルティナが顔を曇らせる。
「ううん、そんな事無いよ? 話の持って行き方次第では、ね?」
イングリスはメルティナの肩をぽんと叩いた。
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