表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
474/493

第472話 16歳のイングリス・神竜捜索

 医務室に運び込まれたロシュフォールにはミリエラ校長やアルルが付き添い、イングリス達は邪魔にならないように医務室の外で待機していた。

 呼ばれた医者の先生が帰っていくのが見えると、それに続いてミリエラ校長も出てきてイングリス達に声をかけてくれた。


「皆さん、中に入っても大丈夫ですよ? ただしロシュフォール先生は眠っていますから、静かにお願いしますねえ」

「あの、校長先生……ロシュフォール先生は大丈夫なんですか……!?」


 ラフィニアの問いに、ミリエラ校長は目を伏せてしまう。


「大丈夫とは言い難いかも知れませんね……ロシュフォール先生は病気が再発したものと思われます」

「! 病気が……!?」


 以前ロシュフォールがヴェネフィク軍を率いてこの王都カイラルを急襲してきた際、その身は死病に冒された末期状態であり、いつ命を落としても可笑しくないような状態だった。

 それ故に天恵武姫(ハイラル・メナス)の武器化の副作用である生命力を奪うという現象も機能せず、武器化したアルルを自在に使いこなしていた。


「ええ。確かイングリスさんが竜の肉をロシュフォール先生に食べさせて、それで治ったんですよね?」

「ええ……」


 神竜フフェイルベインの肉は単に極上の美味だけでは無く、それを大量に摂取する事によって神竜の竜理力(ドラゴン・ロア)をその身に宿したり、不治の病をも治癒させてしまう至高の霊薬とも言える効果を生む。


 竜の力である竜理力(ドラゴン・ロア)というものが非常に柔軟性を持ち、他の生物に親和し影響を及ぼすという性質を持っているためである。


 その効能でロシュフォールは命を取り留め、騎士アカデミーの教官としてアルルと共にカーラリアに留まる事になったのである。


「ねえクリス、じゃあもう一回竜さんのお肉をロシュフォール先生に食べさせてあげたら……!? 前は食べる量が少なかったかも知れないわ」

「うん。わたしもそれは思ったけど……もうフフェイルベインの肉は残ってないよね?」

「あう……兄様にも食べて欲しくて、みんなに配ったもんね」

「でもアルカードには!? リックレアの街跡の野営地には大分肉を残してきたわ! まだ残って保管してくれてるかも!」


 そう声を上げるのはレオーネだ。

 確かにその通りではある。リックレアでは現地の食糧不足に対応するため、神竜フフェイルベインの肉を大量に切り分けて皆に配給していた。


「可能性はありますわ! 行ってみませんこと? イングリスさん!」

「うん、それが一番可能性があるね。でも時間が無いから――」


 神行法(ディバインフィート)で一気に跳ぶしかないだろう。事は一刻を争う。


「クリスワープで一瞬で飛んでっちゃお!」

「ははは。神行法(ディバインフィート)だよ、ラニ」


 だが独力による神行法(ディバインフィート)は溜め込んだ真霊素(ハイ・エーテル)機甲鳥(フライギア)レースで使ってしまったため、すぐには発動出来ない。

 時間をかけて必要な分の真霊素(ハイ・エーテル)を編み込んで生成しなければならないからだ。となると、天恵武姫(ハイラル・メナス)の力を借りるしか無いだろう。


「じゃあアルル先生に言って、一緒に行って貰おう? アルル先生と一緒なら跳んでいけるから――」

「分かりました! 行きましょう!」


 そう言うのは、医務室から出てきたアルルだった。

 イングリス達の話が聞こえていたのだろう。


「どうかよろしくお願いします、イングリスさん。ロスを、あの人を助けるために……!」


 アルルが差し出す手をイングリスはしっかりと握る。


「はいアルル先生……!」


 触れ合った手から眩い光が溢れ、圧倒的に膨れ上がっていく。


「こ、これが天恵武姫(ハイラル・メナス)の武器化……!?」


 圧倒的な光にメルティナは目を細める。


「ええ、そうよ……!」

「綺麗ですわよね」


 レオーネとリーゼロッテも目を細めながら頷く。


「で、ですが特級印が無いのにどうして天恵武姫(ハイラル・メナス)を使えるのですか……!?」

「え? まあクリスだからね? そういう事もあるかなって」


 驚きを隠せないメルティナの問いに、ラフィニアはさも当然と言いたげな様子だ。


「ははは、それで納得出来てしまうのが恐ろしいです」


 と皆が話し合っているうちに、アルルは美しい装飾の黄金の盾へとその姿を変えていた。


「さあみんな、わたしに掴まって」


 天恵武姫(ハイラル・メナス)はイングリスの霊素(エーテル)真霊素(ハイ・エーテル)へと消化させ、神行法(ディバインフィート)を操るようにさせてくれる。


 時間をかけて霊素(エーテル)を練り込んで真霊素(ハイ・エーテル)を生成する必要が無くなるのだ。

 ラフィニア達がイングリスの肩や腕に触れる。


「いいわよ、クリス!」

「じゃあ、行くね!」


 ――神行法(ディバインフィート)

 景色が一変し、暖かく明るい室内にいたイングリス達は寒風が吹く夜の闇の中に立っていた。

 北の国アルカード、リックレアの街跡に近い野営地の中心部だ。


 リックレアの街自体は崩壊した上に『浮遊魔法陣』によって天上領(ハイランド)に持ち去られてしまったので、この野営地を新たなリックレアの街として復興していくはずの場所である。


「さ、寒いですね。ここがアルカードの……」


 メルティナが身震いしている。


「ですが、以前に比べれば大分暖かい気がしますわね」

「そうね。季節という事もあるんでしょうけど、前と全然違うわ」

「そうよね。ちょっと肌寒いくらいで済んでるし」


 ラフィニア達も寒そうにはしているが、確かに以前アルカードに潜入任務で来た時とは寒さの段階が違う。

 この土地は神竜フフェイルベインが眠っていた事により寒冷地になっていたが、それがいなくなった事により、土地本来の気候に戻りつつあるようだ。


「それで、ロスを治してくれた神竜の肉はどこに……!?」


 武器化から元の姿に戻ったアルルがそう尋ねる。


「ええと――ラティはここにいるのかな? いてくれたらすぐ聞けるけど……」

「王都の方にいるかも知れないしね」


 と、辺りを見回すイングリス達に声をかけてくる者がいた。


「イングリス君! ラフィニア君! レオーネ君! リーゼロッテ君!」


 イングリス達の名を呼ぶ者がいる。

 ラティの側近の騎士、ルーインだ。

 他にも配下の騎士隊を数人引き連れて、皆で夜回りをしていたのだろうか。


「あ、ルーインさん。お久しぶりです」

「ああ。先日カーラリアからの封魔騎士団がやって来た際には、君達がいなかったからな。ラティ王子やプラム殿も残念がっていたよ」

「ルーインさん! そのラティですけどここにいますか!? あたし達急ぎの用事があって……!」

「ああ。あちらの宿舎にいらっしゃるよ。是非顔を見せて差し上げてくれ」

「ありがとうございます、ルーインさん!」

「すぐに行ってみますわね!」

「あ、ただしいきなり中には入らずちゃんと外から声をかけて――」


 そんなルーインの言葉が耳に入らないくらいには急いで、ラフィニア達は前に滞在していた建物へと駆け寄っていく。

 そして、ラフィニアが勢いよく扉を開いた。


「ラティ! プラム! いる!?」


 ラティとプラムの姿は、入って見える所にあった。

 奥の方にあるソファの上だ。


 お互いの素肌と素肌を合わせるように、ラティの腕の中にプラムが寄り添っているような状態である。

 決してこの辺りの気候が暖かくなったから薄着で過ごしている、など言うわけではない。


「うわっ!?」

「きゃあっ!?」


 ラフィニアの進入に吃驚して、密着していた二人が飛び上がる。


「!? ご、ごめん邪魔しちゃって!」

「い、いや悪いちょっと外で待っててくれ……!」

「も、もう! だから明かりを消して上に行こうって言ったじゃないですか……!」

「と、とにかく外で待ってるわね! ごめんね!」


 慌てて扉を閉めるラフィニアの顔が紅い。

 流石に吃驚したようだ。


「お、オトナね……ラティもプラムも……」

「そ、そうね。わ、私にはまだ想像も出来ないけど……」

「わたくしも……い、いつかそう言う事もあるのでしょうか……」

「な、何だか悪い事をしてしまいましたね……」


 ラフィニアもレオーネもリーゼロッテもメルティナも、顔を赤くして上を見たり下を見たりしている。


「…………」


 レオーネとリーゼロッテとメルティナに関してはまあ構わないと思うのだが、ラフィニアの教育上はよろしくないとイングリスは思う。


 プラムの言う通り、そういう事は明かりを消して入り口からはすぐに見えない場所に行ってやって欲しいものだ。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


『面白かったor面白そう』

『応援してやろう』

『イングリスちゃん!』


などと思われた方は、ぜひ積極的にブックマークや下の評価欄(☆が並んでいる所)からの評価をお願い致します。


皆さんに少しずつ取って頂いた手間が、作者にとって、とても大きな励みになります!


ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ