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第470話 16歳のイングリス・騎士アカデミー演習会10

「メルティナ! お疲れ様、良く頑張ったわね!」


 しかしラフィニアは笑顔でメルティナを迎え入れる。


「ご、ごめんなさい、こんなに遅れてしまって……」


 気落ちしている様子のメルティナの肩にイングリスはぽんと手を置く。


「大丈夫だよ。戻ってさえ来てくれたらまだ勝てるよ?」

「え?」


 きょとんとするメルティナ。

 どう見ても差が付きすぎているし、機甲鳥(フライギア)は故障している。

 到底勝てるようには思えないのは当然だろう。


「まだやるのイングリス?」

「真っ直ぐ飛べませんわよ?」

「うん。でも飛ばせばいいと思わない?」


 にっこりと微笑んで言うイングリスは、既に竜魔術で竜氷の鎧を展開し終えていた。

 そしてメルティナが飛び降りた機甲鳥(フライギア)の船体をひょいと持ち上げた。


「飛ばす!?」

「まさか……!?」

「やっちゃえ! クリス!」


 ラフィニアがグッと握った拳を突き出す。


「うん。じゃあ、ちょっと行って来るね!」


 そうしてイングリスは、高速で飛び回る機竜に向けて狙いを付ける。

 軌道と速度を測って――


 霊素殻(エーテルシェル)

 イングリスの体が青白い霊素(エーテル)の輝きに包まれる。


 竜氷の鎧と霊素殻(エーテルシェル)の同時展開。イングリスの身体的能力が最も高まる全力の状態だ。


「はああああぁぁぁっ!」


 そして大きく振りかぶり、機甲鳥(フライギア)を思い切り投げ飛ばした。


 ダアァァンッ!


 更に直後に足元を蹴り、機甲親鳥(フライギアポート)から身を躍らせる。

 踏み切りの衝撃が凄まじく、それだけで機甲親鳥(フライギアポート)が大きく傾いてしまうほどだ。


「きゃっ!? く、クリス……っ!?」

「投げた機甲鳥(フライギア)に!?」

「飛び乗りましたわ!」

「な……!? ななななな……!?」


 ラフィニア達にはある程度耐性があるが、メルティナは目の前の光景に目をまん丸にして度肝を抜かれているようだった。


「「「お……おおおおおおぉぉぉぉっ!?」」」

「「な、何だ今機甲鳥(フライギア)を投げてなかったか!? み、見間違いか!?」」

「「いや合ってる! 投げてた! しかもそれに飛び乗ってた……! 何だよそれ!?」」


 観客達もメルティナと似たようなもので、興奮して歓声を上げると言うより驚愕して狼狽えていた。

 機甲鳥(フライギア)レースなので、基本的には機甲鳥(フライギア)に乗っていなければ趣旨に反してしまう。


 逆に乗っていれば、動く力は何でもいいだろう。

 機甲鳥(フライギア)を投げても構わないはずだ。


 スゴオオオオオォォォッ!


 イングリスを乗せた機甲鳥(フライギア)は、湖水を吹き飛ばす轟音を立てながら機竜へと突き進んでいく。

 機竜達は高機動モードに移っていたが、その飛行軌道に割り込んで――


「貰いますね!」


 機甲鳥(フライギア)と機竜が交差する瞬間に手を伸ばし、旗を引き抜いて通り過ぎる。 最短でを突き詰めると機甲鳥(フライギア)を機竜に当てた方が速いが、機竜を壊しても反則になってしまう。


 通り過ぎた距離の分だけ行き過ぎになってしまうが、ここは仕方が無い。

 イングリスは機体から進行方向に飛び出し、湖面に飛び降りる。

 機甲鳥(フライギア)の機体もイングリスの飛び出す蹴り足の力で、がくんと湖面に向けて落ちていく。


 そして先に降りたイングリスは、その落下点に先回りして待ち受けている。

 足元の湖水は竜氷の鎧の力で凍り付き、丁度良い足場になっていた。


「よしっ!」


 イングリスは物凄い勢いで落下してくる機甲鳥(フライギア)の機体をがっしりと受け止める。

 そしてすぐに、もう一度機甲鳥(フライギア)の船体を大きく振りかぶる。

 進んだら次は戻らなければならない。当然の事だ。


 既に旗を取り終えたラファエルやアルルの背中が見えるが、まだゴールはしていないようだ。それよりかなりこちらに近い所には、シルヴァの背中も見える。

 まだ間に合いそうだ。間違って激突しないように気をつけて――


「もう一回! はあああぁぁぁぁぁっ!」


 思い切り機甲鳥(フライギア)を投擲。

 直後に足元を蹴って跳躍し船体に飛び乗る。


 スゴオオオオオォォォッ!


 唸りを上げて湖水を巻き上げながら、機甲鳥(フライギア)が出発地点に戻っていく。


「うわっ!? な、なんて速さだ!?」


 機上に立つイングリスからは、シルヴァの驚いた顔が一瞬だけ見えた。

 ラファエルやアルルの背中もぐんぐん近付いてくる。


「イングリスさん!?」

「アルル先生。お先に失礼します!」

「いいえ、まだっ!」


 アルルは自分の機甲鳥(フライギア)から身を躍らせて、イングリスの機甲鳥(フライギア)の船縁を掴んできた。

 この速度にすれ違いざま飛びついてくる反応と思い切りは流石天恵武姫(ハイラル・メナス)である。


「おお……!? ですが自分の機甲鳥(フライギア)を離れては反則――」

「それは大丈夫、後ろを見て下さいね!」


 アルルの腰の後ろから伸びる長い尾が、アルルの機甲鳥(フライギア)に巻き付いて引っ張っている。

 これなら完全に機体を捨てたわけでは無く、反則にもならないだろう。


「ふふ……お見事です」


 アルルは慎ましい性格だが、こういう時に採ってくる戦法はかなり大胆だ。

 出来る限りのことをしようという生真面目さがそうさせるのだろうが、イングリスとしてはいつも全力で相手をしてくれるのでありがたいし、好ましい。


「これでも先生ですからね!」


 二人を乗せた機甲鳥(フライギア)は、更に前方のラファエルに迫っていく。

 アルルに飛びつかれて多少速度は落ちたがまだこちらが速い、追いつける。


「クリス!? だったら、こちらも」


 ラファエルが腰に佩いた剣を抜き放つ。

 紅く輝く刃が見るも美しい超上級の魔印武具(アーティファクト)神竜の牙(ドラゴン・ファング)だ。


 グオオオオオオォォォォンッ!


 竜の唸り声と共に翼を備えた紅い装甲が展開しラファエルの身を覆う。

 この鎧は装着者の身体能力を引き上げ飛行能力をも備えている。


 神竜の牙(ドラゴン・ファング)はただの剣ではなく使用者の戦力を全体的に引き上げる魔印武具(アーティファクト)なのだ。

 イングリスが竜氷の鎧の竜魔術を編み出す際に参考にした機能である。


「うおおおおぉぉぉぉっ!」


 神竜の牙(ドラゴン・ファング)の鎧を展開したラファエルは操縦桿を手放すと船体の後ろに回り、そのまま押し込むように加速をする。


「流石です、ラファ兄様!」

「たまには威厳のある所を見せておかないとね!」


 こちらはアルルに取り付かれてやや減速、ラファエルは神竜の牙(ドラゴン・ファング)を展開し加速。

 結果、殆ど横一線で機甲親鳥(フライギアポート)へと三機が雪崩れ込んでいく。


 イングリスが先回りして飛び降りて機甲鳥(フライギア)を受け止めると、再び機甲親鳥(フライギアポート)の船体自体が大きく傾ぐ。


「「おおおおぉぉぉぉっ!?」」

「「さ、最後凄ぇ! 何が起きたのか良く……!」」

「「だ、誰が勝ったんだ……!?」」


 観客達から歓声とどよめきが起きる。


「ははは……投げたり引っ張ったり押したり」

「誰一人として機甲鳥(フライギア)でまともに飛んでないわね」

「き、厳しい戦いでしたわね」

「か、カーラリアはすごい国ですね……」


 ラフィニア達も半分苦笑いしてそれを見守っていた。


「校長先生! 最終的にどちらが速かったですか?」


 イングリスの問いかけに、ミリエラ校長は困った顔をする。


「うー、うーん……殆ど横一線でしたからどちらが先かは――」

「いえミリエラ先輩。僕の負けですよ」

「え? どうしてですかラファエルさん?」

「ほら、見て下さい」


 ラファエルは機竜から取って来た旗を取り出してみせる。

 正確には旗だったもの、だ。


 焼け焦げて炭化した棒の切れ端になってしまっていた。

 神竜の牙(ドラゴン・ファング)の鎧が纏う炎の力が焦がしてしまったのだろう。


「旗を持ってくるのが条件ですから、それを満たせていないようです」

「ああなるほど、それではイングリスさん達の……」

「いえ校長先生。わたしのほうも」


 イングリスが差し出した旗も、凍り付いて崩れ落ちた結果切れ端しか残っていなかった。

 竜氷の鎧の懐に入れていたせいだろう。

 ラファエルと同じくイングリスも条件を満たせていなかったようだ。


「あら? ということはアルル先生は……?」

「あ、はい。私のものは……」


 と、アルルが取り出すのは無事な形の旗だった。


「という事はアルル先生先生が一番ですね! 教官チームの優勝ですね~! おめでとうございます! 私も含め騎士アカデミーの教官陣として意地を見せましたよぉ! はい拍手~~!」


 ミリエラ校長がそう締めくくると、大きな拍手と歓声が起こる。


「「いやあ、見応えがあったなあ!」」

「「ああ、凄え迫力だったよ!」」


 そんな中、イングリスは手を合わせながらラフィニア達に頭を下げる。


「ごめんねラニ、みんな。失格になっちゃった」

「仕方ないわよ。盛り上がったしいいんじゃない? ねえメルティナ?」

「はい! とても凄かったですし、私の遅れを取り戻して頂いて――は、はくしょんっ!」

「大丈夫、メルティナ?」


 レオーネが心配そうな顔をする。


「水に落ちて体が濡れてしまいましたから。早く乾かさないといけませんわ」


 リーゼロッテがそう言っているうちに――


「それでは、本年度の騎士アカデミー演習会はこれでお開きにさせて頂きま~す! 皆さんありがとうございました! お気を付けてお帰り下さいね~!」


 満面の笑みで機嫌が良さそうに手を振るミリエラ校長が閉会の言葉を述べる。

 その表情からするに、今回の演習会は興行的に大成功だったのだろう。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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