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第469話 16歳のイングリス・騎士アカデミー演習会9

 次の瞬間には元いた機甲親鳥(フライギアポート)に戻っていた。


「わっ!?」

「イングリスさん!?」

「い、一瞬で消えてまた戻って来て……!?」

「ラニが困ってたから、ちょっとね。今は光の雨(シャイニーフロウ)も無いし」


 ミリエラ校長の機甲鳥(フライギア)の後ろに付けたラフィニアは、機竜へと確実に接近していく。


「なるほど私も見習わせて貰いますぞ、ラフィニア殿!」


 問題はレダスや他のチームの面々も、ラフィニアと同じように後ろにくっついて来た事だろうか。

 だがラフィニアのほうもミリエラ校長を利用しているため、文句は言えない。


「あ~もう皆さんで私を盾にしてっ!」


 ミリエラ校長の機甲鳥(フライギア)の操縦の腕前自体はそこまで飛び抜けたものでは無いようで、後ろに張り付くラフィニアやレダス達を振り解くような複雑な飛行軌道を取ることは出来なかった。


 結果、文句を言うミリエラ校長を先頭に、全チームが一列に並んで進むような僅差になってしまう。


「あははははっ! 皆一列になっちまったぞ!」

「ここに来て殆ど差が無くなっちまったな」

「いいんじゃ無いか? その方が見てて面白いしさ!」


 観客達は笑いながらも盛り上がっている。

 走者達は僅差で順に機竜から旗を引き抜いて行き、一斉に機甲親鳥(フライギアポート)のほうに戻ってくる。


「えっへん! これで校長先生としての面目も保てますかねえ」


 一番早く戻ってきたのはミリエラ校長だ。


「流石ですなあ。では私も生徒達に舐められぬ程度のものはお見せしましょうかねェ!」


 ミリエラ校長に交代したロシュフォールが真っ先に再び飛び出して行く。


「メルティナ! ごめんちょっと追いつかれちゃった! 次お願い!」

「は、はい! 頑張りますね!」


 ミリエラ校長に続いて二番目に戻ってきたラフィニアと、メルティナが交代する。


「後は何とかするから、気楽にね?」


 イングリスは微笑んでメルティナを見送る。


「ありがとうございます、では行きます!」


 メルティナも急いで飛び出して行くが、ロシュフォールに比べればやや機体の制御はおぼつかないだろうか。少しふらふらとしているようにも見える。


「よし! ここから追いつくよっ!」


 後続の聖騎士団チームはリップルの順番だ。

 船体に乗り込まず外側から操縦桿に手を伸ばし、機甲鳥(フライギア)を少しだけ浮かせて発進させつつ、思い切り足元を蹴って機体に飛び乗った。


 天恵武姫(ハイラル・メナス)の強靱な蹴りの力の分加速がつく、細かいが有効な方法だ。


「リップル様……! 速いっ!」

「追いつかれちゃう!」


 リップルに追い抜かれながらも、メルティナの機甲鳥(フライギア)は機竜を目指していく。

 機竜達は今度はお互いの距離を近くしてボルト湖の奥方向に向かっている。

 そこにロシュフォールを先頭に各チームの機甲鳥(フライギア)が追いつきかけると、前後一列にぴったりくっついて並ぶような隊列に組み替えて見せた。


 そうしてくるりと、奥からこちらに向けて回頭する。

 追ってくる機甲鳥(フライギア)に向かい合うような形だ。


「な、何あれ? みんなでくっついてこっち向いて……」


 首を捻るラフィニアの疑問はすぐに解消される。

 前二機から後ろに向けて、太い管が伸びて何かを接続していく。

 そうすると最後尾にいる機竜の全身が眩い輝きを帯び――


 スゴオオオオオオォォォォォッ!


 光の尾のような残光を残しながら、高速飛行を始める。


「「おおぉぉっ!? とんでもなく速いぞ!」」

「「あんな速く飛べたのか!?」」


 どよめきが上がる通り、その速度は先程までとは段違いだ。

 レースに使用している騎士アカデミーの機甲鳥(フライギア)よりも圧倒的に速い。


 直線陣形を取った機竜達は一気にロシュフォールやリップル達の機甲鳥(フライギア)を突っ切り、逆側へと突き抜けてしまっていた。

 位置的には集団の最後にいた二回生の機甲鳥(フライギア)が一番近くなった形だ。


「おお、すごい……!」


 あんな風に段違いの加速が出来るとは、中々見応えがある。

 イングリスも感心していると、マイスが満足そうに頷いていた。


「動力部を直列接続して出力向上させた高機動モードだよ! これも今回のレースに向けて付けてみたんだ!」

「すごいねマイス君、戦闘力もくっついて倍にならない? 百体集まって百倍強くなってくれると嬉しいな、出来たらそれと手合わせさせて欲しいんだけど……」

「ははは、いやそんなに都合良くは――それに機竜を百体も用意出来ないし」

「こらクリス、マイスくんを困らせないの!」


 そう言っているうちに再び機竜達は回頭し、ボルト湖の奥方向に向かって高速で通り抜けていく。

 ロシュフォールやリップルでさえも、高機動モードの機竜を捕まえることができないようだ。流石に彼等でも機甲鳥(フライギア)の性能自体は如何ともしがたいのである。


「それにしても、あれじゃ追いつけないわね……!」

「何か工夫をしなければ、という事よね……!」

「でも、どうしたら――」


 そういうリーゼロッテへの回答を示すように、ロシュフォールとリップルは機竜から逆に離れてボルト湖の対岸方向に陣取ろうとする。


「機竜が向きを変えて動き出すまでに時間があるから、次に高速で動いた後の隙を狙うんだね。あの動きを見てたら多分、速く飛べるのは直進だけなんじゃないかな」


 ただし湖の中間地点で振り切られてしまうと、そこから隙を狙って突進しても回頭と準備が間に合ってしまう。結果ずっと追いつけない。

 だから機竜が進んで来るであろう方向に待機して、次の高速飛行までの隙を抑えるのだ。


「さすがだね、イングリスさんは。その通りあれは直進しか出来ないんだよ。とにかく速度重視だからね」

「じゃあロシュフォール先生とリップルさんの動きが正しいんだ……!」

「向こうが高速飛行してこなければ無駄になってしまうけど……」


 だがそこまで見切れていない他のチームの機甲鳥(フライギア)は、再び機竜を追いかけようとしている。

 その中にはメルティナの姿もある。


「メルティナ! また振り切られちゃう……!」


 ラフィニアがそう心配する中、機竜は再び回頭し新たに直列接続をし直して――

 しかし機体同士の管の接続が一カ所、上手く行かずに止まってしまう。

 接続部分に何かが挟まり、妨害をしたのだ。


 それは朧気に輝きを帯びる小札である。

 鳥が翼を広げるような形状をした刃だ。

 それが四つ、それぞれが水色の線状の光に繋がれて接続部分に絡まり付いていた。


「あれは、メルティナの魔印武具(アーティファクト)!」


 メルティナの魔印(ルーン)は鞭の形をした上級印である。

 そして騎士アカデミーにやって来てから与えられた魔印武具(アーティファクト)は複数の小さな刃を繋ぎ合わせた鞭剣だった。


 それを初めて目にしたラフィニアは女王様に相応しい武器だとか言って喜んでいた。

 機竜の接続を邪魔したあれは、鞭剣の一部を切り離したのだろう。

 複数の刃を繋ぎ合わせる鞭の部分はメルティナの意思で自由に切り離す事が出来る。


「上手いね……! 機竜が通り過ぎる時に魔印武具(アーティファクト)を引っ掛けてたんだね、それで次に高速飛行する準備を邪魔したんだよ」

「高速飛行が妨害出来るなら、近付く方が正解ね!」


 メルティナはロシュフォールやリップルのように機竜の動きが読めなかったのでは無く、読んだ上で別の方法を取ったと言うことだ。

 メルティナの魔印武具(アーティファクト)がこの機竜の動きに対し相性が良く、しかもそれにちゃんと気がついたという事である。


「いけますわ! メルティナさん!」


 接続からの高速飛行の開始に手間取る機竜達に、メルティナの機甲鳥(フライギア)が飛び込んで行く。

 そのまま旗を奪えるかと思われたが、機竜の方も動きを変えてくる。


 高度を下げ水面に体を浸けると、全身から一斉に放水を始めた。

 先程はラフィニアやミリエラ校長に繰り出したものである。

 弾幕のようにいくつも幾重もの鉄砲水が飛び交い、メルティナの機甲鳥(フライギア)を迎撃する。


 機甲鳥(フライギア)の操縦に慣れているラフィニアでも回避出来なかった放水だ。

 メルティナにそれを避けろというのも酷な話で、船体がまともに水の直撃を受ける。


「きゃあああぁぁぁっ!?」


 船体が大きく傾ぎ、メルティナ自身も堪えきれずに放り出されて湖に落ちてしまった。


「メルティナ!」

「お、落ちたわ! 大丈夫かしら……!?」

「沈んではいませんわ、ですが……!」

「ちょっと機甲鳥(フライギア)から離れちゃったね」


 メルティナが弾き飛ばされてしまった分、着水した機甲鳥(フライギア)との距離が出来てしまっている。


 泳いでそこまで行くのは、なかなか時間がかかるだろう。

 だがメルティナは諦めずに必死に泳いでいく。


「はあ……! はあっ……! 私だけみんなの足を引っ張るわけには――」


 そんなメルティナの前を通りかかる機甲鳥(フライギア)の機影がある。

 そしてそこに乗る人物がメルティナの腕をグッと掴み上げ、体が水の中から浮く。


「ロシュフォール先生……っ!?」

「生徒の水難事故を防ぐのは教官の役目ですからなァ。このくらいなら文句は言われますまい」


 その手には、既に機竜から引き抜き終えた旗が握られている。

 ロシュフォールはメルティナを離れた所に落ちている機甲鳥(フライギア)の元まで運び、手を離す。


「あくまで水難救助。ま、後はご自分で何とかなさると宜しいですなァ」


 そのまま次に交代するために、機甲親鳥(フライギアポート)のほうに戻って行く。


「先生……ありがとうございます!」


 機体に這い上がったメルティナは再び機竜のほうを見る。

 三機とも再びの浮上はせず放水を続けており、距離は近い。


「なら、届きますっ!」


 メルティナは鞭剣の柄を握り締める。

 刃と刃をと繋ぐ鞭部分が水色の輝きを帯び、長く遠くに伸びて行く。

 放水を避けて首元まで運ぶため、全神経を集中。


 その甲斐あってか先行して接続部に絡まりついた刃とも上手く合流しつつ、水色の輝きの鞭部分が旗を引っ掛けてくれた。

 すかさず鞭剣を手元に引き戻し、メルティナは旗を手にする。


「やった……! では、戻らないと!」


 メルティナは機体を回頭させて戻ろうとするが、機甲鳥(フライギア)は意図通りに真っ直ぐ飛んでくれない。

 進もうとしても軌道が歪んで、ふらふらと蛇行してしまうのだ。


「先程落ちた衝撃で!?」


 元々水に落ちた時間の消費で最後尾になっていたメルティナだが、更に差が広がってしまう。

 そうしているうちに、他のチームは最後の五番手に交代していく。


「は~いラファエル! 後は任せたよ!」

「ええ、リップル様! クリス、ラニ! 悪いけど先に行くよ!」

「アルル、後は任せるぞォ」

「ええロス、任せておいて下さい!」


 まずラファエルが飛び立って行き、一呼吸置いてアルルが追いかけていく。


「よし、良くやった! 最後は僕に任せておけ!」


 そして更に一拍置いてシルヴァが飛び立って行く。

 ふらふらと飛ぶメルティナが戻ってきたのは、既にラファエルやアルルが機竜から旗を引き抜こうとしている時だった。

 残念ながらかなり引き離されての最後尾だった。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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