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第466話 16歳のイングリス・騎士アカデミー演習会6

 そして朝始まった演習会が、夕方に近付いてきた頃――


「は~い! それでは本日の最後にして最大のメインイベント! 行ってみましょうねえぇぇ~~~! チーム対抗機甲鳥(フライギア)レースを行いま~~す!」


 機甲親鳥(フライギアポート)の上に立つミリエラ校長が、笑顔で観衆に呼び掛ける。


「おおおおおおぉぉぉっ!」

「待ってました!」

「面白そうだよな……! こんなの見た事無いしな!」

「はい! きっと面白いと思いますよぉ! 皆さんはどのチームが勝つか予想して、じゃんじゃん賭けて盛り上がって下さいねえ!」


 レースの舞台となるボルト湖上は、イングリス達が最初の編隊飛行で使っていた照明で華やかに彩られていた。


「ではではでは~! 今から出場チームを紹介しまーす! まずは騎士アカデミーの一回生チーム!」


 真っ先に紹介されたのがイングリス達だ。

 こちらのチームはイングリス、ラフィニア、レオーネ、リーゼロッテ、それにメルティナの五名だ。全員で進み出て、会場への顔見せである。


「あ、さっきの腕相撲でめちゃくちゃ強かった子だ!」

「最初に歌ってたあの子もいるな!」

「結構強そうだよなあ。でも一回生って事は一番下の学年なんだよな」

「はい! じゃあ次は二回生チームの皆さんです!」


 イングリス達が下がり、代わりに進み出るのはユアを中心とした二回生の五人だ。


「ユアちゃん、ユアちゃん! 起きて、寝ないで……!」

「んお? でももう寝てる時間……規則正しく健康第一……」

「ね、寝るなってユア~~! ああ、モーリスがいないと……」


 壇上でもう殆ど寝ているユアに、周りの二回生達が四苦八苦している。


「あの子もさっきの腕相撲でめちゃくちゃ強かったけど」

「殆ど寝てるな。あれじゃレース的には難しいかもなあ」

「はいでは次は三回生チーム!」


 三回生はシルヴァを中心とした五人だ。


「我々の日頃の訓練の成果を賭け事の対象にするのは少々不謹慎かと思いますが……やる以上は全力を尽くさせて頂きましょう」


 壇上に立ったシルヴァは、そう言いながら眼鏡に手を触れる。


「おぉ、特級印だ! じゃあ将来の聖騎士様か……!?」

「いやでも、さっきの一回生の女の子にも特級印の子がいたぞ」

「じゃあどっちが有利とは言い切れないのかな」


 そしてミリエラ校長のチーム紹介は次に移る。


「はい次は騎士アカデミー教官チーム!」

「やれやれ。こんな事にまで駆り出されて、教官というのも楽じゃ無いなァ」

「そうですか? 私は結構楽しいですよ。ロス、少し顔色が悪いですか?」

「フフ……準備に駆り出されて寝てないんでねェ」

「ははははは! 諸君! 今日は指導教官としての意地を見せてやるぞッ!」


 ロシュフォール、アルル、それにマーグース教官達の四名だ。


「あれ、四人?」

「ハンデかな?」


 観衆達が教官達の人数を見て首を捻っている。


「もう一人は私でーす! これでも校長先生ですから、今日はビシッとした所を見せますよぉ」


 どうやらミリエラ校長もレースに参加するつもりのようだ。


「はい! では次は――近衛騎士団チームの皆さんです!」

「ははははは! 我々も日々の任務で機甲鳥(フライギア)を使用し、訓練も怠ってはおりませんからな! ここはその面目を保たせて頂くとしましょうぞ!」


 前に進み出たレダスは豪快にそう宣言する。


「おぉ~凄いな! 現役の近衛騎士団の方々も参加してくれるのか!」

「これは面白そうだけど……」

「さっき腕相撲であの一回生の銀髪の子にボロボロにやられてたからなあ。いや、機甲鳥(フライギア)の操縦技術はまた違うんだろうけどな」

「では最後のチーム! ラファエルさんとリップルさん率いる聖騎士団チームで~す!」

「「「おおおおおぉぉぉぉっ!」」」


 一番の歓声が会場を包む。


「聖騎士様のご活躍がこの目で見られるなんて!」

「きゃ~~! ラファエル様~~~!」

「こっちを見て下さい~~~! きゃ~~~! 目が合ったわ!」


 そして上がる黄色い声。


「ははは。が、がんばります……」


 ラファエルは遠慮がちに手を挙げて声援に応じていた。


「リップル様のご活躍も見られるんだな!」

「いやあ、楽しみだな。にしても流石天恵武姫(ハイラル・メナス)は綺麗だなあ」

「エリス様も一緒ならもっと良かったけど、贅沢ってもんだな!」


 リップルも男性達に大人気のようだった。


「「「リップル様~~! 頑張って下さ~~い!」」」

「は~い! ボク頑張るよ~! 応援してねっ!」


 愛想のいいリップルはニコニコしながら声援に応じていた。

 聖騎士も天恵武姫(ハイラル・メナス)も、最強の魔石獣である虹の王(プリズマー)の脅威を退けてくれる守り神だ。


 それがどれだけ人々に尊敬され慕われているかという現れである。

 観衆達の反応に、ミリエラ校長も満足そうだ。


「うんうんうん。いやあ、無理言ってラファエルさんとリップルさんに来て貰ってよかったですねえ。さあみなさ~ん! チームの紹介は以上です! そして次はレースのコースをご紹介っ! あちらのボルト湖方向に注目して下さ~い!」


 ミリエラ校長はボルト湖の中央の中州を指差す。

 それは先日ボルト湖に転移してきたばかりの天上領(ハイランド)、イルミナスの一部だ。


 崩壊したイルミナスはその核である『浮遊魔法陣』は残っているものの、力を失い再び空に浮かぶ事はできずにボルト湖に固定される形になっている。

 今エリスが入っているグレイフリールの石棺もそこにある。


 ばしゃあああぁぁぁんっ!


 そしてイルミナスの付近の水中から、大きな影が飛び出して来た。

 それは半分以上が機甲鳥(フライギア)機甲親鳥(フライギアポート)のような機械で構成された巨大な竜の姿だ。


「「おおおおぉぉっ! 何だあれ!」」

「「凄い! カッコいいなあ!」」


 イルミナスの防衛兵器、機竜だ。それが三体ほど姿を見せた。

 機竜の体は大きく、見た目の迫力は満点だ。観衆も盛り上がっている。


「今回のためにマイスくん達にも協力して貰ってるんだ。ホント使えるものは何でも使ってるわね~」


 騎士アカデミーの全校と、近衛騎士団、聖騎士団、そしてイルミナスの天上人(ハイランダー)達まで協力してくれているらしい。


「そうだね、賑やかだね。それにしても機竜もちゃんと動かせるようになったんだね」

「そうよね。マイスくんも頑張ってるわね~」


 ラフィニアはうんうんと頷いている。


「あれだけ動くって事は、そろそろ機竜と手合わせさせて貰えるかなあ……楽しみだね」

「いや止めなさいよ。折角マイス君が直したのをすぐ壊す気?」

「いやいや、そんな勿体ない事はしないよ? わたしを実験台にして貰って機竜の性能を試したり改善点の洗い出しをして貰ってね? そしたらわたしもいい訓練になるし、マイスくん達も助かるし――」


 お互いの利になる素晴らしい関係だと言えるだろう。


「竜の肉はとても美味しいとイングリスとラフィニアに教えて貰いましたが……あれも食べられるのでしょうか?」


 メルティナはメルティナで別の見方をしているようだった。


「いや止めてあげて、メルティナ。あれは食べられないやつだから……!」

「はははは……機竜もせっかく直ったのに大変ね」

「ですが、機竜を使って何をするつもりなのでしょう? 機甲鳥(フライギア)のレースですわよね?」


 レオーネが苦笑いし、リーゼロッテは首を捻る。

 そこへタイミングよくミリエラ校長が詳細を説明し始めた。


「今回の機甲鳥(フライギア)レースでは、あの機竜さんに全面協力をして頂きます! 各チーム五人のリレー方式ですが、それぞれの選手はあの機竜の体に挿さった旗を抜いてきて貰います! そうしたら戻って交代、戻って交代を繰り返して、先に五人目まで終えたチームが優勝です!」


 ミリエラ校長がそう言うと、三体の機竜は肩や首にいくつもの旗を展開して見せる。

 なるほどあれを引き抜いて来て次に交代するわけだ。


「ただし機竜さん達はこのボルト湖上を飛び回って逃げ周りますし、旗を取られないように妨害もして来ます! それを掻い潜って旗を取ってくる、より総合的な実力が試されるわけですね~!」

「へぇ……面白そうだね」


 場合によっては機竜が攻撃してくれるかも知れないわけだ。

 それを受け止めてみたいという気はとてもする。


「なお、機竜さんや他のチームへの直接的な攻撃は禁止です!ただしそれ以外の用途での魔印武具の使用自体は可能ですので、工夫して旗を取ってくださいね~」

「わ、私大丈夫でしょうか……?」


 メルティナが不安そうな顔をしている。


「大丈夫だよ。きっといい訓練になるし楽しいよ? ねえ?」

「まあ、魔石獣の大群や虹の王(プリズマー)と戦う事を思えばね」

「まだ楽しめる範囲かも知れませんわね」


 イングリスの言葉に、レオーネとリーゼロッテが頷いていた。

 二人とも騎士アカデミーに入学してから様々な所に行き、様々な実戦を経験してきた。

 もうこの程度では動じないくらい肝は据わっている。


「大丈夫よ! きっちり訓練はしてきたんだから! 頑張ろ、メルティナ!」

「きゃっ!? は、はい。頑張りますね……」


 ラフィニアがメルティナのお尻をバシッと叩いて気合いを入れていた。

 メルティナも何も依怙贔屓だけでレースの選手に選ばれているわけではない。

 彼女の持っている魔印(ルーン)はラフィニアやリーゼロッテと同じ上級印であり、騎士アカデミーの生徒の中でもかなり希有な存在である。


 ヴェネフィク国内にいた頃は皇女として特に特別な訓練はしていなかったようだが、騎士アカデミーでは身も心も強くなりたいと言って、まだ日は浅いが一生懸命に訓練を重ねている。


 ミリエラ校長もそういう姿勢を評価し、自信をつけて貰いたいという親心もありこのレースに指名したのだろうと思う。


「さあこれからどのチームが勝つか、予想タイムで~す! 勝つと思ったチームの投票券をお買い求め下さいねえ!」

「よし! やっぱりここは聖騎士団チームに賭けるぜ!」

「俺もだ! 何せ聖騎士様と天恵武姫(ハイラル・メナス)様だものな!」

「俺も俺も! 俺達の守り神が負ける筈ねえさ!」

「俺はちょっとだけ教官チームも買っておこうかな……」


 投票券を売っている露店に観衆達が列を作っていく。

 やはりラファエルとリップルの人気は絶大で、聖騎士団チームの勝ち予想がかなり多いようだ。


「わぁ! さすが兄様! 大人気ね~! ね、クリス?」


 ちょっと鼻が高そうなラフィニアである。


「嬉しそうだね、ラニ」

「そりゃあね、兄妹だもん!」


 そんな笑顔を見ていると、こちらも嬉しくなってくる。


「フフフ……そうだろうそうだろう、全ての人々がリップル様の素晴らしさを知るのはいい事だ」


 シルヴァがにやりと笑みを見せ深く頷いていた。


「ははは、あっちも嬉しそうだなぁ」


 ラフィニアが少々苦笑いしている。


「やっぱりラファエル様もリップル様も大人気よね。レオンお兄様も聖騎士のままここにいたら、こんな風に歓声を浴びたのかしら」


 レオーネは眩しそうにラファエルとリップルを見つめている。


「あ、ごめんねレオーネ。あたしばっかりはしゃいじゃって」

「い、いえこちらこそごめんなさい……! 気にしないで。こんなに聖騎士が皆に喜んで貰えるなら、私がお兄様の代わりになってあげられるかもって……ちょっと思ってただけだから」


 レオーネは特級印の輝く右手の甲に触れながら微笑んでみせる。

 最近のレオーネからは、カーラリアの聖騎士を捨て血鉄鎖旅団に走った兄レオンを敵視するような言動は見られない。


 血鉄鎖旅団の尻尾を何とか掴もうと焦るような様子も無い。

 むしろイングリスのほうが血鉄鎖旅団の足取りについては気にしているくらいだ。


 レオンを捕らえてオルファー家の汚名を晴らすのではなく、自分がレオンが出来なかった事をしようという風に考えが変わってきているのかも知れない。


「お兄様の代わりに聖騎士になるという事ですの?」

「それもいいのかなって、今ラファエル様達を見ていて思ったわ」


 特級印を得た今のレオーネには、現実的な選択肢の一つではあるだろう。


「レオーネ。でもそうなったら……」


 聖騎士と天恵武姫(ハイラル・メナス)の過酷な運命については、受け入れる事になってしまうが。


「まあまあ、今は楽しめばいいんじゃないかな。せっかくだし、ね?」


 今日は演習会を楽しめばいい。

 それに今日だけで無く、レオーネの騎士アカデミーの卒業にはまだ二年もある。

 その間に色々な経験をして、また考えも変わっていくだろう。


 レオーネはまだまだ若い。何事も焦る必要は無いのだ。

 そんな会話を繰り広げていた時、ミリエラ校長がこちらにやって来て声をかけてくる。


「皆さん、気合いを入れて頑張って下さいねえ! あの通り一番人気はラファエルさんやリップルさんのチームですから、ここでそれ以外のチームが勝てば儲けは胴元のこちらが……うふふふふ――」


 ある意味ミリエラ校長が一番楽しそうだった。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


『面白かったor面白そう』

『応援してやろう』

『イングリスちゃん!』


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