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第464話 16歳のイングリス・騎士アカデミー演習会4

「はいは~い! 皆さんご注目~! こちらの美少女は、我々騎士アカデミーの従騎士科所属の生徒さん二名になりま~す」


 機甲親鳥(フライギアポート)を地表まで降下させた特設ステージ上、ミリエラ校長が集まった人々に呼び掛けている。

 ステージの上には長テーブルと椅子が置いてあり、そこにイングリスとユアが並んで座っていた。


「美少女……いえい」


 無表情ながらちょっと嬉しそうなユアだった。


「従騎士科の皆さんは魔印(ルーン)を持たない方ばかりですが、魔石獣から皆さんの暮らしを守るため日夜厳しい訓練に励んで頂いています! はいイングリスさんユアさん、両手の甲を皆さんに……!」


 言われた通りに、集まった観衆達に何もない両手の甲を掲げてみせる。


「ああホントだ、あの子達魔印(ルーン)は持ってないんだな」

「それなのに魔石獣と戦うために頑張って……偉いなあ」

「そうだよな。頭が下がるよ」


 皆感心してうんうんと頷いていた。


「ああ、何も知らないとそう思っちゃうんだぁ……はははは」

「そうね。普段のあの二人を知ってると――」

「酷い嘘で騙しているような気分になりますわね」


 近くで見ているラフィニア達は、苦笑するしか無い。


「そこ! 静かにっ!」


 びしりとミリエラ校長がラフィニア達を黙らせる。


「オホン。お二人は確かに魔印(ルーン)を持ちませんが、我がアカデミーの訓練で鍛えに鍛えて鍛えております! 今日はその成果を皆様にお見せしたいと思いますっ!」

「訓練の成果……?」

「一体何を?」

「だけど魔印(ルーン)魔印武具(アーティファクト)は使わないんだよな?」


 観衆達がざわざわとしている。


「全ての基本は鍛え上げた肉体! 力です! どなたかこの二人と腕相撲で力比べをしてみませんか? 勿論参加料は頂きますが、どちらかに勝てばお支払い頂いた参加料の十倍を賞金としてお支払い致します!」

「十倍……!? い、いいのかそんなに――」

魔印武具(アーティファクト)が無いなら、普通の女の子だよな? いや、鍛えてるんだろうけどさ」

「そんなに筋肉がどうこうって感じでも無いしな……勝てそうじゃないか?」


 と顔を見合わせる観衆達をミリエラ校長が焚き付ける。


「さあさあ、早い者勝ちですよぉ! 誰か挑戦なさる方はいらっしゃいませんかあ?」

「他におらぬのならば、私が挑戦させて頂こうッ!」


 そう大きな声で名乗りを上げたのは、見知った顔だった。

 近衛騎士団長のレダスである。


「レダスさん?」


 レダスがイングリスに勝てる筈がないというのは、レダス自身がよく分かっていると思うのだが。

 それでも名乗りを上げるというのは、ミリエラ校長が事前に申し合わせてサクラとして仕込んだのだろうか?


「おお……! あれは近衛騎士団長のレダス・エイレン様だ!」

「レダス様があの子の相手をするって言うのか……!?」

「さ、流石にちょっと大人気ないんじゃないのか?」

「はい! では最初に近衛騎士団長のレダスさんにご挑戦頂きましょうか! どうなるか楽しみですねえ!」


 ミリエラ校長が観衆達を煽る。


「おうッ! ではお相手願いますっ!」


 レダスはイングリスと向かい合うように、意気揚々と進み出てくる。


「レダスさん。大丈夫ですか?」


 ミリエラ校長と示し合わせているのかも知れないが、一応尋ねておく。


「勿論です! 一切の遠慮や手加減など不要です、イングリス殿」

「そうですか……?」


 とはいえあまり簡単に勝つのもその後に続く挑戦者がいなくなりそうなので、ある程度は手加減して接戦を演じたほうが良さそうではある。


「はいでは、お二人とも手を出して準備を――よーい、どんっ!」

「ふうぅぅぅんっ!」


 レダスは思い切り力を入れているようだが、イングリスにとっては軽かった。

 すぐに勝てそうではあるが、やはり少し接戦を演出――


「ああ……なんと極上の絹のような柔肌か……! こうしてイングリス殿のお手を握れるとは恐悦至極……! 暫くこの手は洗わんぞッ……!」


 ずだんっ!


「おうっ!?」


 思わずレダスの手を台に叩きつけてしまった。

 別に内心で思う事までは止められないのだが、口に出されると若干寒気がした。


「あ……すみません、大丈夫ですか?」

「いえ、もとよりイングリス殿に勝てるとも思っておりません! いやあ、いい経験をさせて頂きました。ははははは!」


 と豪快に笑いつつも、痛めた腕をさすりながら下がって行く。


「す、凄い!」

「あんなゴツい近衛騎士団長を一瞬で!?」

「あんなにすらっとして、可愛い子なのに……これじゃ俺達なんかが挑戦しても」


 それを見てまずいと思ったのか、ミリエラ校長が耳打ちしてくる。


「ちょ、ちょっとイングリスさん。もう少し接戦を演出して頂かないと挑戦する方がいなくなってしまいますよお。もう少し手加減を……」

「す、すみませんつい――」

「さ、さあ他に挑戦される方はいらっしゃいませんかあ!? イングリスさんじゃなくてこちらのユアさんに挑戦して頂いてもいいですよぉ」


 と指差したユアは、うつらうつらと船を漕いでいた。


「すぴ~。ふに~」

「ああああちょっとユアさん寝ないで下さい! ラフィニアさん、ラフィニアさん! ちょっと進行を手伝って下さい!」


 ミリエラ校長に呼ばれたラフィニアがステージの上に立つ。


「仕方ないわねえ……何かいきなりめちゃくちゃになりそうだけど、さあ! ほかに挑戦したい人は……」

「はい! ラフィニア殿! 私に挑戦させて下さい!」

「私も!」

「自分も!」

「こちらもお願いします!」


 意外と多くの手が上がる。


「お……! はいはい皆さん、じゃあこっちに来て順番に並んでくださ~い!」

 そしてイングリスの前に列を作るのは、レダスと一緒に会場に来ていた近衛騎士の面々だった。

「イングリス殿! よろしくお願い致します!」

「腕相撲とはいえ、お手合わせ出来るのは光栄です!」

「是非とも胸を貸して頂きたく思います!」


 皆とても嬉しそうに顔を輝かせている。


「ははは、近衛騎士団の人達は皆クリスのファンだもんね……」


 イングリスが非常勤で臨時の名誉騎士団長なのは今でも有効なのである。

 彼等は大戦将(アークロード)のイーベルや王都を急襲してきたロシュフォール率いるヴェネフィク軍を目の前で撃退したイングリスに心酔しているのだった。


「はい。ではお相手しますね」


 イングリスはたおやかな微笑みを浮かべて彼等を迎える。


「さあさあ、皆で挑戦すればいくら怪力でもいつかは疲れて来ますよ~! 誰が勝てるか!? もし勝てたら、近衛騎士団長が勝てなかった子に勝ったって自慢してもいいと思います! 皆さん挑戦して下さいね~!」

「そうだな。ずっとやってたら疲れてくるからいつかは勝てるかも……!」

「賞金も十倍出るわけだしな!」

「よし、一回やってみようかな」


 ラフィニアが上手く煽って、挑戦しようと列に並ぶ人達が増えていく。


 だんっ! だんっ! だんっ!


 イングリスのほうも今度はちゃんと溜めを作りつつ、レダスの配下の近衛騎士達を捻じ伏せていく。

 しかし負けた近衛騎士達に悔しさはなく、むしろ満足そうにニコニコしている。


「いやあ、我等がイングリス殿に勝てるはずがないな。ははは!」

「だがレダス団長も言っていたが、なんて滑らかで柔らかい手なんだ。この世のものとは思えない……!」

「それにあの美しい紅い瞳に自分が映っているのが見えたら、天にも昇るような気分でドキドキするよ」

「何より近付いただけで信じられないくらいいい匂いがしなかったか? 俺はもうそれだけで……」

「ああ、分かるぞ! 香りからして違うものな」

「もう少し粘れれば、もっとイングリス殿のお側にいられたものを」

「ああ、それだけは残念だな」

「はははは、お前達! 何を言っている、イングリス殿ともっと触れ合いたければ、もう一度並び直せばいいだろう! 一人一度までとは言われておらんッ!」


 そう言うレダスは、既にイングリスの前に出来た列の中に並び直していた。


「だ、団長……!」

「なぁに金の事は気にするな、私が持ってやる! さあ並ぶがいい!」

「「「はいっ!」」」


 近衛騎士達が嬉しそうに列の最後尾に加わって行く。


「ははは……何か趣旨違うけど、お金を払ってクリスに触れる会でもいっか、別に……」


 ラフィニアが乾いた笑いを浮かべている。


「よ、良くないよラニ! 一回負けた人は再挑戦禁止にして!」


 イングリスは悲鳴を上げる。

 純粋な力比べなら何度でも相手するが、そういう目的のための相手は受付けたくない。

 確かにイングリスも自分で自分の見た目はとても美しいと思っているし、肌は玉のような手触りだとも思っている。


 だがそれは自分自身で楽しむためのものであって、彼等のためではないのだ。

 男性が男性に握った手の滑らかさが素晴らしいとか、見つめられたらドキドキするとか、いい香りがするとか、そんな事を言われて何が嬉しいのか。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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