表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
455/493

第453話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》64

 ひょっとしたら先ほど現れたイルカの群れは、あの虹の王(プリズマー)から逃げてきたのかも知れない。

 こちらにやってくる方向は、虹の王(プリズマー)と同じだった。


「どうだ!? 私達だけではないのだよ! 天も地も海も魔石獣さえも! 貴様らに死ねと言っているのだああぁぁぁぁァァァッ!」

「ど、どうしよう!? 虹の王(プリズマー)なんかに近づかれたら、マイスくんや天上人(ハイランダー)人達は……!」


 天上人(ハイランダー)虹の雨(プリズムフロウ)への抵抗力が地上の人間より弱い。虹の雨(プリズムフロウ)を浴びれば魔石獣になってしまうし、血鉄鎖旅団が用意した虹の粉薬(プリズムパウダー)も効いてしまう。


 そして虹の雨(プリズムフロウ)の塊とも言えるのが、虹の王(プリズマー)の存在だ。

 アールメンの街に氷漬けにされていた巨鳥の虹の王(プリズマー)との戦場では、天上人(ハイランダー)ではない普通の人間すら、魔石獣に変えられてしまうのを見た。


 虹の王(プリズマー)同士の個々の力の差はあるにせよ、普通の人間より抵抗力の弱い天上人(ハイランダー)があれに近づかれて、無事に済むとは思えない。

 近づいただけで、皆一斉に魔石獣になってしまうかも知れない。


「「……!」」


 強い危機感を覚えるラフィニアに、レオーネもリーゼロッテも返す言葉がない。

 二人とも必死に打開策を考えてはいるが、何も妙案は浮かばないのだ。


 ぽつり、ぽつり――


 さらにそれに追い打ちをかけるように、ラフィニア達の額に落ちてきたものは、虹色をした雨粒だった。


虹の雨(プリズムフロウ)!?」


 イルミナスに迫ってくるあの虹の王(プリズマー)が呼んだとでも言うのだろうか。


「ど、どうしてよ!? こんな時に……っ!」


 そんな中、ラフィニア達に声をかけるのはマイスだった。


「ラフィニアさん、レオーネさん、リーゼロッテさん! もう十分だよ! 三人は逃げて! 三人だけならどこか近くの小島を見つけて、逃げられるかも知れないから!」

「マ、マイスくん!」

「そ、そんな事……!」

「わ、わたくし達には!」

「いいんだよ。僕達はもう……どちらにせよ、この虹の雨(プリズムフロウ)虹の王(プリズマー)で魔石獣に! そうなったらラフィニアさん達を襲ってしまうから、そんな事はしたくないから! だから、早く行って! ラフィニアさん、レオーネさん、リーゼロッテさん!」


 そのマイスの背中を、強く押す人物がいた。

 それは、マイスの母である。


「後生です! この子だけでも連れて一緒に逃げてください! 状況はこの子の言う通りです! だけどせめて、私達全員の代表として、この子を!」

「お母さん! 何を言うんだよ! 僕もみんなと一緒に!」


 そう抗弁するマイスを、ぐっと抱き寄せたのはラフィニアだった。


「……わ、分かりましたっ!」


 その言葉に、レオーネもリーゼロッテも口を挟む事は出来なかった。

 目に一杯の涙を溜めているラフィニアの気持ちは、痛いほどよく分かったから。

 自分達全員の代わりに、ラフィニアが決断を背負ってくれたのだ。


「ら、ラフィニアさん! 僕はいいんだよ! ここでお母さん達と……!」

「いいから! マイスくんもあたし達と一緒に行くのよ!」


 抵抗しようとするマイスを、ラフィニアが押さえつける。


「リーゼロッテ!」


 レオーネはラフィニアを手伝いながら、リーゼロッテに呼びかける。


「ええ、分かっていますわ!」


 リーゼロッテは白い翼の奇蹟(ギフト)を発動する。


「そうは問屋が卸しませんがねえええぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


 無貌の巨人が拳を振りかぶり、その衝撃波が飛び立つ寸前のラフィニア達を襲った。


「「「「ああああああぁぁぁっ!」」」」


 それぞれバラバラに大きく弾き飛ばされ、地面に背中を強くぶつける。


「う、ううぅ……っ!」


 だが、大人しく倒れてなどいられない。

 マイスだけでも逃がすと決断をしたのだ。


 何としてでもそれだけは、マイスだけは助けたい。

 身を起こそうとするラフィニアの視界に、ふっと黒く大きな影が差す。


「き、来たぞおおおぉぉぉっ!」

虹の王(プリズマー)だ! と、跳んだあぁぁぁぁぁっ!?」


 あっという間にイルミナスの海岸まで迫ってきた虹の王(プリズマー)が、水中から飛び出して、見上げるほど高く飛び上がっていた。

 自ら陸に飛び出して、ラフィニア達や天上人(ハイランダー)達を喰らおうというのだ。 虹色に輝く巨大な魚影の姿は、ある意味美しくすらある。 


「はは……怖いけど、き、綺麗だね……何だか」


 マイスの呟きが、耳に入る中――


 ばしゃああああああああああああああぁぁぁぁぁぁんっ!


 唐突に、恐ろしく巨大な水柱が海から立ち上り、虹の王(プリズマー)の土手っ腹にぶち当たった。


 ギュオオオオオォォォォッ!?


 鳴き声を上げ、虹の王(プリズマー)はイルミナスを飛び越え遙か彼方へと吹き飛んでいく。

 身をバタバタとくねらせる様は、釣り上げられた魚にそっくりだ。


「えぇっ!?」

「な、何!?」

「あれは――」

「「「グレイフリールの石棺っ!?」」」


 ラフィニア達の声が揃った。

 四角い巨大な石の箱――

 何の前触れもなく海から飛び出してきたグレイフリールの石棺が、その勢いで虹の王(プリズマー)に衝突して弾き飛ばしたのだ。


 直後、グレイフリールの石棺はまるで意思でもあるかのように、黄金の鎧を身に纏う無貌の巨人に突進する。


「ぬうっ!?」


 反応した巨人は、両腕を体の前で組んで防御を固める。

 ――が、それをあざ笑うかのように、グレイフリールの石棺の巨大な姿が歪んで消える。


「「「えっ……!?」」」


 驚くラフィニア達の視界の中、次の瞬間には無貌の巨人の背後にグレイフリールの石棺が出現していた。


「何いィッ!?」


 そして無防備な巨人の脇腹に向け、尋常ではない勢いでぶつかって行く。


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオォォォォンッ!


「ぬおあああああああああああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁァッ!?」


 イルミナスから弾き飛ばされた巨人は、水飛沫を上げながら水面を何度も跳ね、見えないくらい遠くまで吹き飛んでいった。

 ちょうど虹の王(プリズマー)弾き飛ばされたのと同じ方向だ。


「「「…………」」」


 あまりの光景にラフィニア達は言葉を失ってしまう。

 いきなり海から飛び出してきたグレイフリールの石棺が、まるで意思でもあるかのように巨大魚の虹の王(プリズマー)も黄金の鎧の無貌の巨人も、一瞬で弾き飛ばしてしまったのだ。


 だが、グレイフリールの石棺はあくまで巨大な石の塊。

 意思などないし、一人でに動いたりはしない。


 そこには、それを動かしていた犯人がちゃんといた。

 石棺が大きすぎて、姿が隠れていただけだ。


「ふぅ。間に合って良かった、あの巨人だけじゃなく虹の王(プリズマー)までいるなんて、楽しそうだね?」


 グレイフリールの石棺を当たり前のように簡単に抱えて笑顔を見せるのは、やはりというか勿論というか――


「クリスっっっ!」

「イングリス!」

「イングリスさん!」


 しかもグレイフリールの石棺に閉じ込められる前の幼い子供の姿ではなく、元の16歳の大人のイングリスだった。

 着ていた子供用の服は小さくて着れなくなってしまったのか、胸元と腰だけを隠すように巻き付けている。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


『面白かったor面白そう』

『応援してやろう』

『イングリスちゃん!』


などと思われた方は、ぜひ積極的にブックマークや下の評価欄(☆が並んでいる所)からの評価をお願い致します。


皆さんに少しずつ取って頂いた手間が、作者にとって、とても大きな励みになります!


ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ