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第449話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》60

「もっと人に慣れたら、背中に乗せて泳いでくれたりする事もありますわ。子供の頃ですが、とても気持ち良くて……楽しかったですわ」

「そんな事も出来るんだ! 乗ってみたいなあ、そこまで慣れるくらい、このあたりにずっといておくれよ……!」


 マイスは笑顔を浮かべながら、イルカの鼻先を撫でている。


「だけど急にどうして、こんなに沢山……? 何かあったのかしら?」


 レオーネが少し首を捻る。


「元々群れで行動する生き物ですわ。それで、居心地のよい場所を転々としますの。ここの地下の沈んだ部分は、小さな魚が身を隠すのに最適でしょうから、餌が沢山集まっているのかも知れませんわね」


 リーゼロッテがそう答えている隙に――


「あははははははっ♪ 早い早~い!」


 イルカの背に跨ったラフィニアが、水面に浮かぶ星のお姫様(スター・プリンセス)号の周囲を旋回していた。


「えぇぇっ!? ラフィニアさん、も、もうそんなに!?」

「な、何であんなに慣れてるの!?」

「す、すごいですわね、わたくしでも何日もかかりましたのに……」


 マイスもレオーネもリーゼロッテも、呆気に取られている。


「目と目を合わせて、心で通じ合うのよ! そうしたら、こっちの言いたい事も分かってくれ……きゃ~~~っ♪」


 イルカと交流するコツを伝授しようとするラフィニアの体が、途中で大きく浮いた。

 ラフィニアを背に乗せたイルカが、加速して大きく飛び跳ねたのだ。


「すご~~~い! こんな事も出来るのね、気持ちいい~~!」


 何度も飛び跳ねるイルカの背で、ラフィニアは満面の笑みを浮かべていた。


「ぼ、僕もああなりたいなぁ! ええと、目を合わせて心で……」

「つ、通じるのかしら?」

「いや……どうなのでしょう?」


 助言としては恐ろしく抽象的で、完全に精神論の類のように思える。

 ラフィニアがイルカにも通じる特別な魅力を持っているのか、それともあのイルカが恐ろしく人懐っこいか、あるいは元々人に慣れているのか。


「ねえ君、海の底まで潜ったりするのは出来る? あたしの大事な友達が下にいるの! 迎えに行ってあげたいんだけど、あたしじゃ潜れなくて」


 と、ラフィニアがイルカに語り掛けると――


 バシャン!


 イルカはよし任せておけ! と言わんばかりに、真下に向かって潜り始めた。


「すごい! ほんとに通じてる! いいなあ、ラフィニアさん……!」

「いやでも! ラフィニアは息が続かないんじゃ!?」

「あ、危ないですわ、窒息してしまいます!」


 イルカと、その背に乗った少女の影はどんどん深く潜って行って――

 やがて少女の影の方が、イルカの背から離れた。


「ぷはあぁぁぁ~~っ! はぁ……はぁ……ダメね、あたしの息が続かない」


 水面まで浮き上がって来て、ラフィニアは大きく深呼吸した。


「だ、大丈夫!? ラフィニアさん!?」

「あ、うん、マイスくん……あたしがもっと長く息を止めていられるようにしなきゃ、イルカさんに付いて行けないなあ」


 その体が水面からひょいと浮き上がる。

 先程のイルカが戻って来て、背中でラフィニアの腰を持ち上げたのだ。

 キューキューと鳴いていて、何だかラフィニアの事を心配しているようにも見える。


「あはは、ごめんね~。また訓練してくるからね~」


 そう言って、ラフィニアは笑顔を浮かべていた。


「ふう……心配したわ、無事で良かった」

「ですが、良い気分転換になったのではないでしょうか」


 ラフィニアの心の芯は強い。

 レオーネやリーゼロッテが思っているより遥かに速く、前を向いて動き出している。

 だがそれでも、辛くないはずはない、悲しくないはずはない。


 こうして思わぬ来訪者と触れ合えたことは、そんなラフィニアの心を少しは和ませてくれたのではないだろうか。

 その事をこのイルカ達に感謝しようと思う。


 ゴゥン……ゴゥン――ゴゥン――


 と、ラフィニア達がいる海辺の反対側、背後の空から、遠く響く駆動音がした。


「……! この音は!?」

「これって多分飛空戦艦の音よね!」

「どこでしょう……!? 姿が見えませんわね」

「待っててね、照らすから!」


 マイスの指示で、機竜の照明が音の近づいてくる空を照らす。

 しかし夜空の雲に隠れているのか、その姿はまだ見えない。


「イルミナスの異変を感じて、救助に来てくれたのかな? 武公のジル様とか、セオドア特使とか……!」

「どちらにせよ、助かるわね!」

「ええ、いつ残りの陸地も水没してしまうかも分かりませんものね……!」

「一番可能性が高いのは、イルミナスの衛星島かな? いやでも、本当の『浮遊魔法陣』と技公様が機能停止してる状態なら、あっちも動けない、かな……?」


 と、マイスは技術者の顔で推測を述べる。


「まあ、確かめに行けばいいわ! 行こ行こ、みんな!」


 ラフィニアはイルカの背から星のお姫様(スター・プリンセス)号に戻り、操縦桿を握る。


「待っててね、また後で遊ぼ!」


 背に乗せてくれたイルカに対して、笑顔を向ける事も忘れない。

 飛び立った星のお姫様(スター・プリンセス)号はぐんぐんと高度を上げて、音のする方向に近づいて行く。


「あ、見えて来たわ!」


 雲と雲の間を縫って、進んで来る飛空戦艦の船影が視界に入って来る。


「「「「っ……!?」」」」


 それを視認した瞬間、全員の間に一気に緊張が走る。

 船影だけならば、どこの勢力のものか分からない可能性はあるが、これは一目瞭然だ。


 乗っているのだ。

 飛空戦艦の船体の上に、無貌の巨人が跨っていた。

 間違いない。敵だ……!

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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