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第448話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》59

「分かったわ、じゃあ私も手伝うわね!」

「わたくしも、ですわ!」


 と、そこに――


「ラフィニアさん! レオーネさん! リーゼロッテさん!」


 マイスが走ってやって来て、まだ上が下着姿のレオーネとリーゼロッテの姿を目にする。


「わわっ……! ご、こめんなさい! 急いでいたからっ!」


 顔を真っ赤にして、目を逸らしている。


「こ、こちらこそごめんなさい」

「すぐに着ますから!」

「マイスくん、どうかしたの?」


 服を着ているレオーネとリーゼロッテをよそに、ラフィニアが尋ねる。


「何か遠くから近づいて来てるのが見えるんだ! だから皆さんに、知らせないとって……!」


 ラフィニアはそれを聞いて、ぽんと手を打つ。


「あ、そうだそうだ! あたしも海辺で、何か見えたのよ! それで二人を呼びに来たんだったわ!」

「何かって……ひょっとして魔石獣!?」

「でしたら迎撃しませんと!」

「そうそう、そうなの! 行きましょ!」

「僕も!」

「いいけど、何かあったらすぐ戻るのよ、マイスくん!」

「うん、ありがとうラフィニアさん!」


 ラフィニア達は頷き合って、中央研究所の廃屋から外に飛び出す。

 先日の襲撃で、巨大な技術都市だったイルミナスも見る影は無く、中央研究所の周辺の僅かな陸地を残すのみになっている。元々の十分の一の大きさも無い。


 ちょっとした小島程度だ。だから、海辺までもすぐである。

 廃屋の前に停めてある星のお姫様(スター・プリンセス)号に乗って、三十秒も経たずにもう海辺だ。


「何か見えるけど……何だろ、あれ?」

「ちょっと分からないわ。何かいるのは分かるけど」

「夜の海ですから、見え辛いですわ」


 星のお姫様(スター・プリンセス)号で上から水面を見ると、何か大きな影がいくつも海辺を通って行くのが見える。

 だが暗いせいで、それが何かは良く分からない。


「でも魔石獣ならもう襲って来そうだし、ただのおっきい魚……かな?」


 イルミナスに来てから何度か魚型の魔石獣と戦って来たが、どれもこちらの気配を感じるや否や襲って来る狂暴性を持っていた。


「じゃあ、ちょっと待っててね!」


 マイスはそう言って、海辺の方を向いて佇んでいた機竜に向けて手を翳した。

 うっすらとその掌と、額の聖痕が輝いている。


 これが天上人(ハイランダー)が直接使う魔術、という事だろうか。

 そしてマイスが手を向けた機竜の胸元に、マイスの掌と同じ光が浮かび上がる。

 すると、機竜の肩の装甲が動き、そこから海辺のラフィニア達を照らす光が放たれた。


「わ! 明るくしてくれたの!?」

「うん。機竜には照明も搭載されているから」

「ヴィルマさんじゃなくても、機竜を動かせるようになったのね!」

「凄いですわ、機竜が動くようになったのなら、皆でここから脱出する事も可能かもしれませんわね!」

「うんうん、すごいじゃない、マイスくん!」


 ラフィニアはマイスをぎゅっと抱きしめて、頭を撫で撫でしていた。

 マイスは普段の様子から、利発さと知的好奇心の強さを感じさせる子だ。

 そしてそれは伊達ではなく、このイルミナスでヴィルキン第一博士に次ぐ技術者である第二博士の子息なのだそうだ。


 マイスの母の第二博士もイルミナスに残っており、残留した天上人(ハイランダー)達の纏め役となっている。

 ラフィニア達も、マイスの母とは何度か顔を合わせていた。


 その第二博士の素養を受け継いで、マイスは既に研究者として一人前の実力を持っているらしかった。


「あ……いや、でも、出来るのはこれだけなんだ。飛行させたり戦闘したりの機能はまだ……データの復旧と術式の組み立てが間に合ってなくて……せっかく喜んでくれたのに、ごめんなさい」

「あ、そうなんだ。ううん、大丈夫大丈夫、これだけでも助かるし」

「ええ、確実に前に進んでいるという事よ」

「そうですわ。これで、水面が良く見えて助かりますわ」


 機竜が照らしてくれた海面に目を凝らしていると、先程まで見えていた魚影達が、ひょこんと海面に顔を出してきた。


 機竜の光に惹かれたのだろうか。

 魚鱗というよりつるつるした滑らかな表皮をしており、顔つきも丸みを帯びて優しそうで、何だか可愛らしい見た目をした魚だった。


「え、なになに? 何か凄い可愛いお魚じゃない?」

「きゅーきゅーって、鳴いてるの? かわいい声ね!」

「地上の海にはこんな生き物もいるんだね! すごいや!」


 内陸育ちのラフィニアとレオーネ、天上領(ハイランド)育ちのマイスは始めて見るその姿に、目を輝かせていた。


「ああ、イルカさんですわね……!」


 海辺育ちのリーゼロッテだけは、すぐにそれが何か分かった様子だった。


「イルカ!? へぇぇぇ~」

「実物は初めて見たわ!」

「シアロトの海にも、時々やって来る事がありましたのよ。とても賢い生き物で、人にも慣れてくれますの……! 昔、公爵家のプライベートビーチで飼っていた事もありますわ! 懐かしいですわね」

「さすが公爵家は上品な子を飼ってるわね~。魔石獣を飼おうとしてたクリスとは大違いだわ」

「はははは……」

「まあ、イングリスさんならあり得ますわね……」

「ねえリーゼロッテさん、この子達、触ってみてもいいかな!?」


 イルカに興味津々な様子のマイスが、そう尋ねる。


「ええ。こうしていても逃げませんし、この子達もわたくし達に興味があるのかも知れませんわ」

「じゃあ、着水させるわね!」


 星のお姫様(スター・プリンセス)号を水面に近づけ、動力を切ると、水面に着きそのままぷかぷかと浮かび始める。


 一応、水に浮くようには出来ているのだ。

 それでも故障が怖いので、あまり推奨はされないと騎士アカデミーでは習ったが、今は特別である。


 イルカ達は着水した星のお姫様(スター・プリンセス)号を恐れるような様子はなく、むしろ手の届く範囲まで近づいて来てくれた。


「さ、マイスさん、触らせて貰うといいですわ」

「よし……ごめんよ、ちょっと撫でさせておくれよ」


 少々緊張気味に、イルカに手を差し伸べるマイス。


「わ~つるつるしてる~! 濡れたナスみたい? 可愛い~♪」


 その傍らで、既にラフィニアが別のイルカをこれでもかと言うくらい撫で回していた。

 イルカはそうされても嫌がるような様子は見えず、むしろ笑顔を浮かべて受け入れているようにさえ見える。


「じゃあ僕も! わぁ、ほんとだ! すべすべだね!」

「本当ね、こんなに触らせてくれるなんて、人懐っこいのね……!」


 レオーネもイルカに手を触れ、笑顔を浮かべている。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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