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第447話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》58

「ええ、そうですわね……とはいえ、わたくし達に出来る事が少ないのが心苦しいですが」


 他の三大公派への救助要請も、カーラリア本国への連絡も、それはレオーネやリーゼロッテの力で出来るものではない。

 ここ数日、マイスや他の残留組の天上人(ハイランダー)達が、中央研究所の連絡の機能を何とか復旧できないか試みているのだが、それを待っている状態だ。


 こちらは一応、カーラリアから持って来た星のお姫様(スター・プリンセス)号だけは無事だが、残っているマイス達を見捨てて自分達だけが逃げるという選択肢は無い。

 そもそも、ここは大海原の真ん中で、今のイルミナスは絶海の孤島だ。


 ここから機甲鳥(フライギア)だけでカーラリアまで帰れるとは思えない。

 虹の雨(プリズムフロウ)や魔石獣から、残った天上人(ハイランダー)達を守る事、それに周囲の海から皆の食料となる魚を獲って来るのがここ最近の三人の役割だった。


 マイス達天上人(ハイランダー)の住民は、魔印武具(アーティファクト)を使わずともそれに似た力、魔術を操る事が出来るようなのだが、とにかく穏やかな性質をしており、全く戦い慣れていない様子だった。

 魔石獣と戦う事には強い恐怖感があるようで、護衛役としての三人はとても有難がられ、感謝もされている状態だった。


 都市防衛は騎士長だったヴィルマや他の騎士達が操る機竜が主力であり、それに頼り切っていたのだ。

 ヴィルマはヴィルキン博士に従って去って行く時に、機竜をそのまま残して行ったが、それを天上人(ハイランダー)の騎士以外が操作する緊急用の制御の機能も復旧できておらず、今の機竜は中央研究所の前に並ぶ大きな置物と化している。


「とにかく、ラフィニアの分まで沢山食べておきましょ! 明日も漁で忙しいから、体力をつけておかないと!」


 言ってレオーネは、新しく焼き魚の串を取り上げる。

 現実的には、レオーネの言うくらいしか無いかも知れない。


「そうですわね。出来る事をしないと、ですわね」


 リーゼロッテも微笑みながら、新しい魚の串を取り上げる。

 そして二人で、頑張って魚を食べ進めて行った。


「しかし、遠征に出るといつも食べる物が偏りますわ」


 ラフィニアではないが、三食魚ばかりは流石に飽きる。

 以前北のアルカードに遠征をした時は、竜の肉ばかりを食べる生活になったが、あれはあれで流石に飽きてしまったものだ。肉ばかりの次は魚ばかりだ。


「ま、まあ、竜の肉ばかりよりは、太らなくて済むわ。きっと……」


 アルカード遠征で肉ばかりの食生活だったときは、レオーネもリーゼロッテも少々太ってしまった。

 気付いたら、服が少しきつくなっていて――二人で悲鳴を上げたものだ。


 イングリスとラフィニアはレオーネとリーゼロッテの何倍も食べて食べて食べまくっているのに、全く太らないのは何故か。あれは本当にずるいと思う。


「そういえば、今回はまだ大丈夫ですわよね?」


 と、リーゼロッテは少々不安になる。


「ど、どうかしら? いつもと服が違うから」


 ここへ来る時は、騎士アカデミーの制服を着て来たのだが、途中でイルミナスに滞在するための儀式衣に着替えている。

 これはゆったりしてあまり締め付けの無い服なので、自分が太っていたとしても気づかない。


「「……」」


 急に不安になって来た。

 確かめるためには――


「……レオーネ、少しあちらを向いていて下さる?」

「じゃあリーゼロッテはそっちね?」


 お互い相手を見ないようにして、儀式衣の上をそっと脱ぐ。

 その内側の、下着だ。

 そこはいつもと同じなので、下着がどのくらい自分の体を締め付けているか、締め付けている部分に知らない肉が余ったりしていないか、肉眼で確認するのである。


「どうです? レオーネ?」

「今のところは大丈夫、かも。よかった……」

「わたくしもですわ。ほっとしましたわ」


 二人がほっと胸を撫で下ろした瞬間――


「レオーネ! リーゼロッテ!」


 戻ってきたラフィニアが、その場に駆け込んで来る。


「「きゃっ!?」」


 驚いてお互いに抱き合うような形になってしまったのが、余計によろしくなかった。


「っ!? あ、ああ……あ~あ~あ~! そういう事ね、そうよね、そうであっても不思議ではないわよね、仲良きことは美しきかなって言うし、うんうんうん……」


 ラフィニアは何だか一人で物凄く深く納得して頷いている様子だった。


「お楽しみのところ、ごめんね? 続けて続けて……!」

「「違うっっっ!」」

「またまた~隠さなくていいんだから♪」


 ぱたぱたと手を振るラフィニア。

 その様子は何と言うか、とても年上のような、要するにおばさん臭い。

 先程までの沈んだ様子でないのは、結構な事ではあるが。


「だから違うのよ!」

「少し確かめていただけですから!」

「うん。だから愛を確かめてたんでしょ?」

「「ちがあああああぁぁぁぁぁうっ!」」


 レオーネとリーゼロッテは、声を揃えて力一杯否定する。


「食べ過ぎて太っていないか、自分の体を見て確かめていただけですわ!」

「え~? 違うの? 何かわくわくしちゃったんだけどなぁ、あたし」


 残念そうなラフィニアである。


「勘違いよ! まあ、さっきより元気そうなのは、いい事だけど――」


 明らかに目をキラキラさせて、楽しそうなラフィニアだった。

 そう思えばこの勘違いも悪いばかりではないのかも知れないが。


「え? あたし元気なかった?」

「? え、ええ……いつもより食べる量も少ないし」

「いや、ほんとにちょっと飽きただけだから。また明日からいっぱい食べるわよ?」

「わたくし達を心配させないように、お一人になって泣かれているのかと……」

「あ~……あははは、確かに、クリスが沈んじゃってすぐは吃驚して泣いちゃったけど、もう大丈夫よ? 泣いても何か変わるわけじゃないし、ね? ごめんね、心配かけて」


 ラフィニアは少々照れ臭そうに笑みを見せる。


「では、本当にお散歩を?」

「あ、いや……ちょっと潜水の練習、とか?」

「「潜水っ!?」」


 レオーネとリーゼロッテの声が揃う。


「ま、まさか素潜りでグレイフリールの石棺を探しに行くつもりなの!?」

「さ、流石にそれは無茶が過ぎるのでは!?」

「って言われると思ったからね、こっそり練習しようかなって」

「「……」」


 まあ確かにそれはその通りだ。

 レオーネもリーゼロッテも、思わず無謀だと止めてしまった。


「でももし、クリスがそれをやるって言ったら……まあクリスだし、ほんとに出来るのかも知れないって思うでしょ?」

「そうね、思うかも知れないわ」

「ええ、イングリスさんなら、イングリスさんだからで済みそうですわ」

「でしょでしょ? でね、クリスが沈んじゃう前に言ってたのよ、生まれた頃からずっと一緒にいたから、クリスの力があたしに宿ったかも知れないって。竜さんの竜理力(ドラゴン・ロア)が、クリスや魔印武具(アーティファクト)に宿ったのと同じだって」

「そう言う事があるの? よく分からないけど……」

「ですが、竜の力では現実にそれが起きているわけですし、あり得ないとは言い切れませんわね」

「だからそれを使いこなせるようになれば、潜水も出来るかなって! だから練習! 何もせずに泣いてるより、ずっといいでしょ?」


 言って悪戯っぽく笑顔を見せる。

 その言葉を聞き、笑顔を見ているうちに、レオーネとリーゼロッテも心がふっと晴れて、元気が出てくるような感じがした。


 ラフィニアは強い。

 誰よりも辛く、苦しいはずなのに、イングリスが生きている事を信じて疑わず、自分に出来る事は何かを考えて既に動き出している。


 あのイングリスと平気な顔をしてずっと一緒にいて、劣等感を感じて歪むような所も無く、まっすぐに立っていられるのは、こういう心の強さがあるからだ。

 そしてその心の強さ、輝きが、見ている者達を惹き付ける。


 ラフィニアを見習いたい、とレオーネもリーゼロッテも素直に思った。

 こう見えて、人の上に立って導いていく指導者としての資質が、ラフィニアにはあるかも知れない。

 この笑顔を支えてあげたいし、この笑顔から力を貰える。そんな気がするのだ。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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