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第442話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》51

「ありがとう……! 楽になっていくわ」

「でも、あの速さだと攻撃が当てられないわね! 沢山矢を撃てば当たるだろうけど、それじゃ効かないし……!」

「ええ、でも試してみたい事があるわ!」

「何か奥の手があるの……!?」

「分からない。けど、イングリスの話をしていたから……あの子が言っていた事を思い出したの。竜理力(ドラゴン・ロア)魔素(マナ)は混ざり合って強くなるって!」

「ああ、最近クリスが凝ってる竜魔術ってやつでしょ? 竜理力(ドラゴン・ロア)は竜さん達の力で、魔素(マナ)はあたし達の魔印武具(アーティファクト)の力……!」

「ええ、こっちに来る前に試した時には何も起こらなかったけど、今なら……!」


 根拠の薄い話だが、逆に言うとそれ位しか試す手はレオーネには残されていない。

 ならば、そうするしかないという事だ。


「止まるわね!」


 レオーネは矢継ぎ早に何度も大剣の刀身を伸ばして距離を取り続けるのを止め、ティファニエを迎撃する姿勢に移る。

 既にティファニエは縦横無尽に動き回る高速移動に移行し、レオーネとラフィニアに迫って来る。


「ラフィニア! 目晦ましでいいから、矢を大量に撃って!」

「分かった!」


 ラフィニアが放った光の矢が、無数の尾を引く光に分裂し、ティファニエの方向に向かって行く。

 数が多い分、しっかり狙いをつけなくともいくつかは確実にティファニエに当たる。


 が、やはり鎧の表面を叩くだけで、ティファニエ自身には効いていない。

 高速で動き回る速度は、僅かに下がったかも知れないが。


「こっちも!」


 レオーネも黒い大剣の刀身から幻影竜を放つ。

 可能な限り多く、強く。

 そして幻影竜達が進む進路が、なるべく一塊になるように。


 幻影竜はこの黒い大剣の魔印武具(アーティファクト)に、竜理力(ドラゴン・ロア)が宿ったものだ。

 竜殺しには竜の力が宿る――とイングリスが言っていたが、斬って来た巨大な尾から食肉を切り出していたら力が宿ったというのが実態である。


 決して格好のいい入手経路ではないが、ともあれレオーネ自身ではなく武器の方に宿った力なので、そこまで自由自在にできるものではない。

 わずかに数や軌道を調整できる、と言う程度だ。

 動きはこちらから、合わせて行く必要がある。


「一つに……混ざれえええぇぇぇッ!」


 レオーネは幻影竜を放った直後、突き進む竜理力(ドラゴン・ロア)を追いかけるように、黒い大剣の魔印武具(アーティファクト)を突き出し刀身を伸ばす。

 高速で伸びる刀身は、ティファニエに着弾する前の幻影竜に追いついた。


 前に試してみた時は、刀身が幻影竜を貫いて拡散してしまっただけだったが――

 今度は刀身の金属が、幻影竜に吸い付くように枝分かれをし、一つになった。


「混ざった!? 剣と幻影竜が……!」


 ラフィニアがそう声を上げる。

 幻影竜は明確な実体を得て、黒い鉄の竜と化していた。


 これはもう幻影竜ではなく――黒鉄竜。

 竜理力(ドラゴン・ロア)魔素(マナ)が混ざり合った結果だ。


 前はこの現象が起きず、今になって起きるのは、レオーネが特級印を得る事により、黒い大剣の刀身に浸透する魔素(マナ)が強くなったからだ。


 それが幻影竜と混ざり合って変化を起こす水準に達した、という事だ。

 これまでは魔印(ルーン)の力が、強力な竜理力(ドラゴン・ロア)に追いついていなかったのである。


「やったわ……! そのまま、行っけええええええぇぇぇっ!」


 グオオオオオオオォォォォォッ!


 黒鉄竜のそれぞれが、甲高い巨大な咆哮を上げティファニエに向かって行く。


「何……っ!?」


 ティファニエの動きがそれまでと変わる。

 迫って来る黒鉄竜から身を躱し、回避する動きを取り始めたのだ。

 ラフィニアの光の矢や、レオーネの幻影竜は全く意に介さず向かって来たのに、この黒鉄竜には明らかに違う反応だ。


 強固な鎧を身に纏うティファニエにとっても、無警戒に受けていい代物ではないという事だ。

 その威力が幻影竜を大幅に上回っている事は明らか。

 ならば当たれば、勝負になる――!


 だがしかし、ティファニエの動きは速い。

 回避に徹されてしまうと、黒鉄竜の突撃はティファニエを捕まえられず、通り過ぎてしまう。


「ああもう……っ! 大人しく当たりなさいよ!」


 ラフィニアが声を上げる。


「そのお願いは、聞けませんね……っ!」


 軽快なティファニエの動きは、黒い鉄の牙を躱し続ける。


「でも、まだっ!」


 黒鉄竜は一度ティファニエに躱されても、方向を変えて切り返し、再びティファニエに向かって行ってくれる。

 それは、レオーネの意思に従った動きだ。


 幻影竜の動きより遥かに、自分の意思で動きを操ることが出来る。

 このまま我慢比べだ。


 黒鉄竜がティファニエを捉えるのが先か、レオーネが疲労して黒鉄竜が止まってしまうのが先か。

 こちらはこれに賭けるしかない……!


「なるほど、そういう事ですか――」


 何度も追跡してくる黒鉄竜を躱し続けるティファニエは、しかし、それ程の焦りを見せる様子はない。

 それどころかレオーネの方を見て、にやりと笑みを向けて来る。


「けれど……っ!」

「っ!」


 視線が合うという事は、間に阻むものが無いという事。

 回避運動と追跡が繰り返されるうちに、レオーネとティファニエの間の直線が、がら空きになってしまったのだ。

 もしかしたらティファニエは、この位置関係を作ろうとして回避を続けていたのかも知れない。


「今ッ!」


 地を蹴ったティファニエが、真っすぐ一直線に向かって来る。

 黒鉄竜を操るレオーネを直接攻撃するつもりだ。


「レオーネ!」


 ラフィニアが光の矢を放ち、ティファニエの動きを止めようとする。

 だが、矢の力を溜めて収束するのは間に合っておらず、複数の通常の光の矢だ。


「無駄ね……!」


 それはティファニエの目から見ても明らかだ。あの光の矢では、ティファニエの鎧には効果が無い。

 全く意に介さず、速度を緩めず直進してくる。


「そうかどうかは、分からないっ!」


 ラフィニアがそう言うと同時に、光の矢は一斉に軌道を変える。

 ティファニエに着弾する手前でがくんと下方向に折れ曲がり、墜落したように地面を撃つのだ。

 それは何の意味も無いように見えるが、その直後――


「あっ――!?」


 バランスを崩したティファニエが、その場に躓き転倒した。

 何も無ければ、そんな事はあり得ない。

 ラフィニアの矢がティファニエの目の前の床に穴を穿ち、足元を掬ったのだ。


「よしっ……!」


 ラフィニアがあえて収束させずに弱い矢を放ったのも、これを狙っていたからだろう。

 ティファニエに取るに足らないと思わせて、真っすぐ突っ込んで来る動きを変えさせないためである。

 自分の攻撃は効かなくとも、一瞬の足止めさえできれば――


「姑息な手を! よくも忌々しい……ッ!」

「おまけのおまけを、舐めてるからよ!」


 ラフィニアは思い切り舌を出してティファニエに言い返す。

 直後、ティファニエに黒鉄竜が着弾する。


 ラフィニアの搦手での転倒は、致命的な隙だった。

 だからこそ、それを行ったラフィニアに対して怒りを見せたのだ。

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