第431話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》40
「動かし方に問題があります……! あれを倒してしまえば、イルミナスを止められないのですよ……!? あなたは人の話を聞いていたのですか……!? あれを倒すという事は、非道な所業を止められないという事! あなたの行為は、手を動かすのではなく足を引っ張る行為だ……!」
「そうとも限らないのでは?」
「ほう? どうしてそう言えます……?」
「いえ、あの巨人に襲われて危地に陥るイルミナスを救って見せる事で恩を売り、今後魔素流体を使わないように交渉してみる……というのも一興かなと。見るからに巨大な魔石獣に匹敵する脅威に襲われているわけですから、かなり感謝はして頂けると思いませんか?」
「……! 我々をダシに使おうと言うわけですか……?」
「ええまあ、手段を選ぶ余裕などありませんし……毒を以て毒を制すですよ。手を動かす事にもなりますし……ね? ラ二?」
「う、うん……! そうしよ、クリス! さっすがクリスは頭いいわね……! ね、レオーネ、リーゼロッテ!?」
「ええ……そうしましょう!」
「わたくしもそれが性に合っていますわ!」
「……というわけですので、あの巨人とお手合わせ願います」
そしてイングリスも、中々強そうな相手と戦えるわけだ。
シャルロッテとティファニエと、マクウェルに無貌の巨人まで。
選り取り見取りというやつだ。天上領まで来た甲斐がある。
「ふふふ……恐ろしい人だ。さすが虹の王を倒した豪傑は頭の切れも一味違う、という事ですね……ですが、我々を魔石獣のような、何の大義も志もない破壊者と一緒にされるのは心外ですね」
「大義や志など……後からいくらでも取り繕えるものですよ。自らを律する指針にはなり得るでしょうが、他者からの評価をそこに求めるのは、いささか純情が過ぎるのでは?」
「黙りなさい! 糞餓鬼があぁっ!」
怒られてしまった。
まあ、ラフィニア達も散々言われていたので、多少は構わないだろう。
イングリスは内心舌を出しながら応じる。
「実は16歳だと、この間お伝えしたかと?」
「同じ事です! あなたには何の大義も志もないとおっしゃるのですか……!?」
「ええ、ありませんっ!」
自信満々に胸を張り、イングリスはきっぱりと断言した。
ラフィニアを見守りつつ、武を極める。それだけだ。
「……! ふふふ、まともに話し合う気はない、という事ですか。自分の肚は明かさず、狡い人だ」
「わたしは正直にお話しているのですが……」
まあそれをどう捉えるかも、相手の自由ではあるが。
「変な事ばっかり言ってるからでしょ。クリスが普通にしてると、普通の人には理解できないのよ。うーん……ちょっと恥ずかしいなあ」
ラフィニアがふう、とため息を吐く。
「失礼な。でも、ちょっと元気出たね、ラニ?」
「うん……! 手を動かす! あたし考えるの苦手だもん!」
「それはそれでちょっと問題があるかもだけど……とにかく、そう言う事ですヴィルマさん。後でお口添えをお願いできますか?」
イングリスは斜め後方を振り向いて、そう呼びかける。
ヴィルマがここに現れた気配を感じ取っていたのだ。
「あ……! ヴィルマさん!」
ラフィニアがその姿を見て声を上げる。
「すまない……私は何が行われているかを感づいていながら、何も出来ず、何もして来なかった……」
ヴィルマはこちらをまともに見られず、伏し目がちにそう言った。
彼女は当初はこちらにあまり友好的ではなく、不愛想のように見えていたが――
それが地上の人間への蔑視ではなく、罪悪感から来ていたのかも知れない。
「それはまた、後で話しましょう? ともかく、交渉を助けて頂けると有難いです」
「ああ、勿論だ……! 技公様やヴィルキン第一博士……父さんにもお話ししよう! こんな事になったのだ、きっと分かって下さる……!」
ヴィルマはそう頷いてくれる。
「よかった……! イルミナスだって悪い事ばかりじゃない……! 分かってくれる人もいるのよ、マイスくんだって話を聞いたらきっと賛成してくれるだろうし……!」
ラフィニアはうんうんと頷いている。
「ヴィルマさん、街の救助や消火には手が回りません。そちらはお願いできますか?」
「ああ、それは任せろ。機竜達にやらせる……! 機竜全機! 街の消火に移れ!」
ヴィルマの鎧が複雑な文様の輝きを発し、それに呼応するように沈んだ大工廠のあたりの海から、機竜が空に飛び出して来る。
そして口から大量の水を吹き出し、炎に包まれるイルミナスの街に放水を始めた。
あれは海水だろうか。機竜を海に沈めて海水を貯め込ませていたのかも知れない。
いずれにせよ、そちらの方面では頼りになりそうだ。
こちらは気にせずに戦わせて貰えるだろう。
「交渉、ね……こちらの上層部、ヴィルキン博士に? 無駄ね。うふふふ――」
だがティファニエは、水を差すように微笑んでいた。
「そんなの、やって見なきゃわからないでしょ! そうやって諦めさせようとしても、無駄なんだから……!」
「私は親切心で教えてあげているだけなのだけど……? まあ、今に分かるわ」
確信めいた余裕を、ティファニエは見せている。
「何よそれ……!」
とそこに、場違いとも言えるようなゆったりとした口調の声が響く。
「あれあれあれ~? これはこれは賑やかな事になってるねえ~?」
二色の髪色に、整った少年の顔立ちに穏やかな表情。ヴィルキン第一博士だった。
「ヴィルキン博士……!?」
「父さん……! ここは危険です、速く避難を……!」
「いやいや~。必要ないよ~、ヴィルマ」
ヴィルキン第一博士はにこにことして、首を振る。
「え? それはどういう……」
ヴィルマが首を傾げる中――
シャルロッテとティファニエ、マクウェルが揃ってその場に膝を折る。
「「「お迎えに上がりました、ヴィルキン第一博士」」」
そして三人は、口を揃えてそう述べた。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
『面白かったor面白そう』
『応援してやろう』
『イングリスちゃん!』
などと思われた方は、ぜひ積極的にブックマークや下の評価欄(☆が並んでいる所)からの評価をお願い致します。
皆さんに少しずつ取って頂いた手間が、作者にとって、とても大きな励みになります!
ぜひよろしくお願いします!




