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第425話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》34

 今のイングリスは、当然超重力の負荷は解いている。

 竜魔術は、魔術と竜理力(ドラゴン・ロア)の組み合わせ。

 これを使う以上、超重力は使えなくなる。


 つまりこれはイングリスの動きに、確実に影響を及ぼすものだ。


「おお……! いいですね……!」


 先程イングリスを弾き飛ばした衝撃波と、この超重力は全く別種の力のように思う。

 エリスやリップルも高等な奇蹟(ギフト)に近い特殊な力を操るが、それは一人一種のものだったはず。


 こちらは明確に異なる二種の力を操っている。ここにも違いを感じざるを得ない。

 しかも、ここに駆け付けてくる前は遠目に光が迸るのが見えたから、その類の力もあるかも知れない。

 更にまだ見ぬ別の力も――


「追風っ!」


 ビュウウゥゥゥンッ!


 激しく渦巻くような気流が、あちらの体を覆う。

 それが体の動きに合わせて向きと方向を変え、斧槍(ハルバード)を突き出す動きを加速させた。

 本人が口に出した通りの、追風だった。


 こちらはの身体は重くなり、相手の動きは速くなる。

 つまり、あっという間に打ち合いを形勢不利に持って行かれる。


 バギイイイイィィィンッ!


 打ち下ろされる斧頭を苦しい姿勢で捌いた瞬間、竜氷剣が音を立てて砕け散る。


「ふふふ……! 素晴らしいです!」


 竜氷剣のみの打ち合いでは、明らかな不利を否めない。

 それは何も悔しがることではない。喜ばしい事だ。

 強い相手は、何人いてもいいのである。


「笑っている場合なのですか……!?」


 冷たく鋭い表情で、イングリスの眉間に向けて穂先が繰り出される。


「さあ、どうでしょうか……!? はああぁぁっ!」


 霊素殻(エーテルシェル)


 青白い霊素(エーテル)の輝きに包まれたイングリスは、突き出される斧槍(ハルバード)の穂先を片手で無造作に掴み、受け止めた。


「何……っ!? くっ……!?」


 あちらが顔色を変えた瞬間、イングリスは既に次の動きに移っていた。

 穂先から手を放すと相手の懐に踏み込みながら身を捻り、膝蹴りを放つ姿勢を整えていた。


 ガイイィィィィンッ!


 そして響き渡ったのは、金属を叩く衝撃音だった。

 イングリスの膝蹴りは、斧槍(ハルバード)の柄を撃っていた。


「くううぅぅっ……!?」


 勢いに圧されて後ずさりする天恵武姫(ハイラル・メナス)

 足鎧が足元の石畳を擦った後が、轍のように続いて行く。


「やはり……! あなたは、天恵武姫(ハイラル・メナス)の中でも一味違う感じがしますね?」


 この状況のこの膝蹴り。

 血鉄鎖旅団のシスティアは反応できずにまともに受け、膝を突いていた。

 だがこちらは、圧されはしたものの反応して受けて見せた。

 これははっきりと分かる明確な違いである。


 イングリスの認識としては、天恵武姫(ハイラル・メナス)は皆横並びの実力者達だと思っていたが、どうやら違うらしい。明確に一枚上手だ。


 この先の底がどこにあるのかは分からないが、天恵武姫(ハイラル・メナス)の本領は、やはり武器化だ。

 どのような使い手が現れるかにもよるだろうが、ひょっとしたら武公ジルドグリーヴァにも匹敵する戦力を発揮してくれるかも知れない。


 実は先日の虹の王(プリズマー)との決戦に勝利してからは、次に戦う相手の心配をしなくも無かったのだが、そんな事は杞憂だった。

 世界はまだまだ、強敵に溢れているのだ。


 そして不穏だ。

 天上人(ハイランダー)の二大派閥間での戦争など無いと彼女は言うが、始まるまでは皆そう言うのである。

 こちらは望まないが、やむを得ず戦わざるを得ない。これは自衛のための戦いだ、と大義名分を上手く整える事が、戦争を始めるための第一歩なのだ。

 つまるところ、かなり期待できる。腕が鳴るではないか。


「……わたくしは、天恵武姫(ハイラル・メナス)などではありません……!」

「え? 違うのですか?」


 この気配と力の感じは、間違いなく天恵武姫(ハイラル・メナス)だと思うのだが。


天恵武姫(ハイラル・メナス)は、地上に破棄される粗悪品の呼称……! わたくしは違う……! 教主猊下をお守りする大戦将(アークロード)……!」

大戦将(アークロード)……? イーベル殿と同じ……」


 大戦将(アークロード)と聞くと思い出すのはイーベルの事である。

 神竜フフェイルベインを機神竜と化し、天上領(ハイランド)へ去って行ってしまった。

 三大公派では大戦将(アークロード)と呼ばれる肩書の者はいなかったので、教主連側での地位を示すものなのだろう。

 かなり高位の存在であるのは間違いない。


 天恵武姫(ハイラル・メナス)化の処置を受け、特に適性が高く能力的に秀でる者は地上に下賜されずにそのまま天上領(ハイランド)に残されるのだろうか。

 今の口ぶりを聞く限り、彼女は教主の直属のようだ。


 そしてそのことを誇りに思うあまり、地上に下賜された天恵武姫(ハイラル・メナス)とは違うという意識が芽生えるのかも知れない。


 どちらにせよエリス達が聞いたら、あまりいい顔はしないだろう。


「……ただの天恵武姫(ハイラル・メナス)ではない、という事ですね。確かにあなたの力はエリスさん達を上回っている……差し支えなければ、お名前をうかがっても? 申し遅れましたが、わたしはイングリス・ユークス。所用でこちらに来させて頂いた、騎士アカデミーの学生です」


 イングリスは改まって丁寧に一礼をする。


「……シャルロッテ。大戦将(アークロード)――シャルロッテ」


 ぶっきらぼうだが、返事が返って来た。

 名前までリーゼロッテに似ている、という印象である。


「えええええええぇぇぇぇぇっ!? そ、そんなまさか……!?」


 その名を聞いたリーゼロッテが、心底驚いたような大声を上げる。


「リーゼロッテ……!?」

「ど、どうしたの……!?」

「シャルロッテは……! シャルロッテはわたくしの母の名ですの!」

「「「ええええぇぇぇっ!? お母さんっ!?」」」


 確かに単に空似とは思えない程二人は似ているが、年齢が親子ほど離れているようにはとても見えない。せいぜい姉妹だ。

 だが天恵武姫(ハイラル・メナス)天恵武姫(ハイラル・メナス)化の処置を受けた時から歳を取らない。

 もし取っているとしても、非常に緩やかであるのは間違いない。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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