第424話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》33
「「リーゼロッテ!?」」
思わずイングリスもラフィニアも、驚いて声を上げてしまう。
「え、ええ……何ですの、そんなに驚いて?」
「いや、だって……!」
「見て、クリスと戦ってる人……!」
そこではじめて、レオーネとリーゼロッテは相手を認識したようだ。
「ええぇぇぇっ!? リーゼロッテが二人……!?」
「わ、わたくしにそっくりですわ……! ど、どういう事ですの!? あ、あなたは何者ですか!? どうしてわたくしと、そんなに……!?」
こうしてまじまじと見比べてみると、天恵武姫のほうが少々大人びた容姿であるように思う。
リーゼロッテ自身が年齢よりも少し上に見えるかも知れないが、そのリーゼロッテがとても可愛らしく見える。
逆に天恵武姫のほうはとても洗練された花のような美しさだ。
だがしかし、今はその瞳は驚きに見開かれていた。
「それはこちらの台詞です……! どうしてお前は、わたくしと……!」
「どちらにせよ、リーゼロッテじゃないという事は……!」
思い切り、戦ってしまっても良いという事だ!
イングリスは思い切り力を込めて、鍔迫り合いする斧槍を押し込みにかかる。
「くっ……! こんな小さな体でよく、これほどの力を……!」
「天恵武姫が天上領を襲うなんて、穏やかではないですね……! いよいよ三大公派と教主連合とで、直接戦争でも始めようとでも……!? 楽しそうですね、わたしも混ぜて頂きたいものです……!」
リーゼロッテではないと言うならば、敵対勢力の天恵武姫が攻めて来たという事になる。
三大公派、技公の本拠島であるイルミナスを襲うならば、相手は教主連合側になる。
血鉄鎖旅団の手の者であることも考えられるが、このリーゼロッテに瓜二つの天恵武姫が彼等の元にいるのならば、リーゼロッテを目にした黒仮面やシスティアが何らかの反応を示してもよさそうなものだが、今まで何もなかった。
それに彼女の侵入経路を考えた時、最も可能性が高そうなのは、ユーバーの船に潜んで乗り込んできたという事になるだろう。
ここは今や絶海の孤島であるし、外部からの立ち入りはヴィルマ達が管理している。
その中で外から来たのは、イングリス達かユーバーの船だけだ。
もしかしたら魔石獣に襲われていたのも、あえてそうして疑いを持たれないようにする、偽装の可能性もある。
だが彼等は地上の人間の奴隷を引き連れて来ており、それをイルミナスに売り渡すという行為も行っている。
実際にヴェネフィクのメルティナ皇女の姿を見たし、その言葉も聞いたのだ。
イルミナスに侵入する手段とは言え、地上の人間は守ろうとする血鉄鎖旅団の手法としては、少々考え辛い。
恐らく、血鉄鎖旅団とこの天恵武姫は無関係だろう。
となればやはり、教主連合側の直接攻撃の様相が色濃いと判断せざるを得ない。
アゼルスタン商会と言う隠れ蓑を被せてしらを切るつもりかもしれないが、それで押し通せる話なのだろうか。
下手をすると三大公派と教主連合の直接戦争に発展するのかも知れない。
いや、むしろそれが避けられない情勢だからこそのこの行動なのだろうか?
これまで三大公派と教主連合の対立は、地上の国を使った代理戦争のような形を取って来たと思うが、それが一歩進む現場を目の当たりにしたのかも知れない。
地上ではセオドア特使やウェイン王子が中心となり、国家横断的な組織である封魔騎士団を梃子に国々の融和を図ろうとしている。
その動きに対する報復、牽制という線も考えられるかも知れない。
ここイルミナスはセオドア特使の出身地だ。
ただ、地上側から見ればどちらも同じ天上人である事には変わりはなく、ある意味決着をつけてくれた方がどちらに従うか明確になっていいかも知れない。
自分達にその争いの矛先が向かなければ、という但し書きが付くが。
イングリスとしては、目の前に戦ってもいい強敵を出来るだけたくさん並べて頂ければ、それ以外は何でもいいが。
「教主猊下は、そのような蛮行をお望みにはなりません……そしてそのような事を行う意味もありません」
「意味がない?」
では今行っているこの襲撃は、何だと言うのだ。
教主連側から三大公派への攻撃ではないと?
「それは、どういう……!?」
「あなたは、戦いよりお喋りがお望みですか……!?」
そう言われてしまっては、答えは一つである。
「いいえ! 手合わせ! お願いします!」
「では……! たあああぁぁぁぁぁぁぁっ!」
猛然と繰り出される、斧槍の連続攻撃。
「ありがとうございます! はあああああああぁぁぁっ!」
イングリスもそれに呼応し、竜氷剣の刃を繰り出す。
ガガガガガガガガガガガガガガガッ!
高速で打ち合わされるお互いの武器が、激しい衝撃音と余波を撒き散らす。
剣を振る速さは少しだけこちらが上、武器の強度はあちらが上だろうか。
獲物が打ち合うたびに、少しずつ竜氷剣が欠けて行くのが分かる。
だがその均衡はすぐに破れる。
「……枷よ!」
向こうが斧槍の柄尻で地面を突いた瞬間、イングリスの体ががくんと一気に重くなる。
「……! 超重力っ!?」
イングリスが修行のためによく身に纏っているのと同種のものだ。
それが周囲の空間へと展開されていた。
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