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第423話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》32

 しかしこちらの驚きに、当のリーゼロッテは淡白なものだった。

 小首を傾げた程度で、完全に無視されてしまう。


 しかも手に持った斧槍(ハルバード)を構え、こちらに穂先を向けて来る。


「リーゼロッテ……!? わたし達が分からないの?」

「リーゼロッテ! どうしちゃったのよ!? ねえ聞いて! リーゼロッテ!」


 二人で呼びかけながら、イングリスは違和感に気が付く。

 違う。リーゼロッテの気配が、いつもとは明確に。

 この強烈な感じ、重厚な気配、存在感はただの騎士アカデミーの生徒ではない。


「違う……! いつものリーゼロッテじゃない!」

「え? どういう事、クリス……!?」

「これはエリスさん達と同じ……! 天恵武姫(ハイラル・メナス)の気配だよ、ラニ!」


 手に持った斧槍(ハルバード)も、いつもの魔印武具(アーティファクト)と形状が違う。黄金に輝き、斧頭部分がかなり大きい。

 これは、天恵武姫(ハイラル・メナス)がそれぞれ召喚する自分の武器だ。


「えええぇぇっ!? リーゼロッテ、天恵武姫(ハイラル・メナス)になっちゃったの!? た、確かに凄い適性あるって言ってたけどあたし達に黙って……!? でも、だからって何であたし達が分からないの!? それにここを攻撃して……!」

「それは、分からないけど……!」


 天恵武姫(ハイラル・メナス)化によって、記憶が失われたり改変されたりするのだろうか?

 エリスやリップルを見ている限り、そんな事はないように思うのだが、それも本人達にも分からない範囲でそうなっているのかも知れない。

 天恵武姫(ハイラル・メナス)になる前のエリスやリップルを知らないので、何とも言えない事ではあるが。


 ただ、今のリーゼロッテは確実に様子がおかしい。

 しかも中央研究所に攻撃をしている。

 もし記憶を操作したとしたら、大失敗なのではないだろうか。


「戦うつもりがないのならば、おどきなさい。あえて子供を折檻するつもりは、ありません」

「そういうわけには、いかないかな……!」


 とは言え流石にこの状況でリーゼロッテ相手に、戦いを楽しんでばかりもいられない。

 ここは取り押さえて、何があったか詳しく調べなければ。


「ならば、容赦いたしませんッ!」


 言って地を蹴るリーゼロッテ。

 その背にはいつもの奇蹟(ギフト)の白い翼はないものの、踏み込みの速度はイングリスの知るリーゼロッテとは全く別物だった。


「……速いっ!」


 繰り出される穂先を身切ってかわしたつもりが、髪が一房千切れて舞った。

 こちらの想定を、向こうの攻撃が上回って来た証だ。


 続いて繰り出される連続突きも、イングリスの服や肌を浅く掠めて行く。

 エリスやシスティアの攻撃は、このままでも捌くことが出来たのに――だ。


 体が小さくなったとはいえ、イングリスが弱くなったわけではない。

 いやむしろ、日々絶え間ない訓練を繰り返しているイングリスは、霊素(エーテル)を使わない生身でも、あの頃よりも強くなっているはず。


 それなのに、リーゼロッテの攻撃はイングリスを捉えて来る。


「なら……!」


 避けるだけではなく、受け、捌く。

 こちらも獲物を用意する。竜魔術、竜氷剣だ。


 ただし、発動のための間が少々必要だ。

 イングリスは攻撃を避けつつ、大きく後ろに跳躍した。


「そこッ!」


 だがその間すら、リーゼロッテは詰めて来る。

 横薙ぎに振り払った斧頭から、先程の衝撃波が迸ってイングリスを捉える。


「……っ!?」


 あっという間に体が吹き飛び、中央研究所の壁に激突しかける。


 ドガアアアアアァァァンッ!


 壁が大きく弾け飛び、建物に大穴が穿たれる。


「クリスッ!?」

「「「おおぉっ……!?」」」

「「「な、何て威力だ……!」」」


 慄く天上人(ハイランダー)達に向け、リーゼロッテが斧槍(ハルバード)を振りかぶる。


「「「こっちに撃って来るぞ!」」」

「「「お、おいみんな逃げろ!」」」


 しかしその衝撃波が放たれる事は無かった。

 甲高い金属音がして、リーゼロッテの斧槍(ハルバード)が組み止められたからだ。


 青く澄んだ、竜の牙や爪を模した刃。

 それは生きた竜のような、獰猛な唸り声さえ発している。


 イングリスは一瞬だけ霊素殻(エーテルシェル)を発動して衝撃波から逃れつつ、竜魔術を発動して再びリーゼロッテに斬り込んでいたのだ。


「駄目だよ。後で大変な事になるから……!」

「人を止めようと言う顔には、見えませんが?」

「ふふふ……っ! リーゼロッテが強くなったから、かな?」


 確かな手応えに、思わず嬉しくなってしまいそうになる。

 こうして鍔迫り合いをしていても、こちらが押し込まれそうなほどだ。


 明らかにいつものリーゼロッテより、いや同じ天恵武姫(ハイラル・メナス)のエリスやリップルやシスティア達よりも、リーゼロッテの方が力強かった。


 ヴィルキン第一博士が天恵武姫(ハイラル・メナス)化の適性の話をしていたが、極度に適性の高いリーゼロッテは、天恵武姫(ハイラル・メナス)化後も通常の天恵武姫(ハイラル・メナス)とは一線を隔した存在になるのだろうか。


「わたくしは、そのような名ではございません……!」

「えっ!? 何を……!?」


 名前さえ忘れる程に記憶が乱れている?

 いやそれとも、本当に別人の可能性もある?


 確かにこの面前でじっくりと見れば、普段のリーゼロッテよりも少々年齢が上のように見えなくもない。

 見えなくもないが、それが天恵武姫(ハイラル・メナス)化の影響と言われればそうかも知れない。


「クリス、どうしたの!?」

「リーゼロッテじゃないって!」

「ええぇっ!? じゃ、じゃあ誰なのよ……!?」


 ラフィニアの言う事も尤もだ。

 別人というにはあまりにも似すぎている。声も、顔立ちも。

 だが本人は違うと言う。


 別人というより、天恵武姫(ハイラル・メナス)化の影響を受け、記憶の混濁したリーゼロッテのように見えるのだが、実際の所はどうなのだろう。


 その答えは、次の瞬間に出た。


「イングリス! ラフィニア!」

「一体、どうなっていますの!?」


 頭上から、声がしたのだ。

 見るといつもの白い翼の奇蹟(ギフト)で飛翔したリーゼロッテが、レオーネを抱えてそこにいたのだ。

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