第418話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》27
「ですが少なくとも確実にカーラリアの戦力は削いだ故、ここが攻め時だという意見もあります。正直、割れているのでしょうね」
「なるほど……」
「それより、皇女様と一緒に連れて来られた人達はどこですか……!? 早くしないと間に合わなくなっちゃう……!」
「……せっかくご縁があってこうしてお話させて頂いているのです。お答えして差し上げたいですが、後悔しても知りませんよ?」
「そんな事しません! 早く言ってください!」
「では結論から申し上げて……どこか、と言えばあなた方ももう会っていますよ。間に合う間に合わないで言えば、もう手遅れです。あなた方ももう会ったのですからね」
ユーバーの言う事は、少々要領を得なかった。
「え……!? 手遅れ……!?」
「ええ。もはやどうにもなりません」
ユーバーは温和な微笑みを浮かべて断言する。
「ど、どういう事ですか……!?」
「ご説明頂きたいですわ!」
レオーネとリーゼロッテも面食らっている様子だ。
天上領に差し出すという事は、奴隷として働かせるか、もし適性があれば天恵武姫化という所なのだろうと思われる。
それを何もさせずに殺してしまったという事なら、意味がないのではないか。
そして、イングリス達ももう会ったとユーバーが言うのは――
「……あの入り口の兵士の方達が、それだと?」
「え? でもあれ天上領の兵士よ、クリス?」
「うん……だけどユーバーさんがわたし達がもう会ったって断言できる人なんて、そのくらいしかいないし」
「ま、まあそれはイングリスの言う通りね……」
「ですが、あの方々がもう手遅れというのはどういう事ですの?」
「……あの中身は疑似生命だって、ヴィルマさんが言ってたよね? その疑似生命の材料が、地上から連れて来られた人間だって事じゃないかな」
「「「えええぇっ!?」」」
ラフィニア達が声を上げる。
一方ユーバーは満足そうに頷き、パチパチと拍手すらして見せる。
「いや、察しが良くて助かります。私だけ言い辛い事を言う悪者にはなりたくないですからね?」
「……彼等は何者なのですか?」
「魔導体と呼ばれる模造人間ですよ。ごく弱い自我しか持たされておらず、あの通り天上領の兵として使われているようです」
「……人間を元にしているというのは、具体的には?」
「ここに引き渡した人間達は……一度炉に入れられるそうです魔素流体という液体がたっぷり入った炉ですよ。入ったら物の数秒で溶けて無くなって、魔素流体の一部になる……と。私も炉の実物を見たわけではありませんが」
「そんな……っ!? じゃあ……」
「みんな、その魔素流体に……!?」
「手遅れというのは、そういうことですの……!!」
「そして魔素流体に処理を施して生成された兵士が……先程の彼等です。あっという間の出来事ですよ。実に恐ろしい技術力です」
「……そうですね。わたし達がマイスくんを送りに行って戻ってくるまで、それほど時間は経っていません」
それを魔導体と言うならば、上級魔導体は純度の高い上等な魔素流体だけを集めて作られた肉体なのだろうか。
一体何人の人間を犠牲にして出来ているものなのか。
分からないが、なかなかに容赦のない話だ。
「魔導体の便利な所は、用が済めばまた魔素流体に戻してしまえばよいという事です。生きた奴隷兵であれば、腹を空かせれば病にもなりますから、そのための物資が必要になります。が、彼等にはそういったものは必要ない。まさに夢の兵士ですね。イルミナスの飛空戦艦には魔素流体の貯水槽があり、そこから必要に応じて兵を生成して運用しているのですよ。全く無駄がない事です」
「そんな……! 何で平気でそんな事言えるんですか!? そんなの奴隷として戦わされたり、働かされたりした方がまだいいじゃないですか! まだ自分が自分で、自分の身体で生きているんだもの……! 魔素流体なんてそんなの、もう死んだって事じゃないですか……!」
声を上げるラフィニアに、ユーバーはきょとんとする。
「それをなぜ私に仰います? やっているのはこのイルミナスの天上人の方々ですよ?」
「……! うぅ……」
そう返されて、ラフィニアは俯いてしまう。
流石にこれはユーバーの言う通りではある。
「最初に皆さんのお顔を拝見した時、失礼ながらずいぶんお気楽でいらっしゃると思いました。こんな恐ろしい場所で、よく笑顔でいられるものだ、と。私など天上人の騎士様とお話しする時も、いつ自分が魔素流体にされてしまうかも分からないと思えば、震えが止まりませんでしたが……ですが何も知らないのであれば、無理もありませんね?」
「……そう、ですね。知りませんでした。特級印を貰って浮かれていたのかも、私……」
「レオーネだけではありませんわ、わたくしも……」
レオーネもリーゼロッテも、厳しい顔をして俯いてしまう。
「ずいぶんお詳しいようですね? 街中にいた天上人の子は、このイルミナスは他と違って奴隷など使わない、それは悪い事だと言っていましたが……?」
ヴィルマすら、魔導体の兵士の技術的な詳細は把握していない様子だった。彼女の場合は、言い辛いので濁した可能性もあるが。
だが少なくともある程度察しは付いているだろう。
人身を買っている事については、理解しているのだから。
そして少なくともマイスや、一般の住民の天上人は何も知らない可能性が高い。大人がマイスに、そのように教えているのだから。
「ええまあ。こちらとは先代から懇意にしておりますから……色々耳にする機会もあるのですよ」
ヴィルキン第一博士などの上層部とも話が出来る間柄、という事だろうか。
一般層が知らない情報は間違いなく、上層部から得ているのだろうから。
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