表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
416/493

第416話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》25

「勝手にお邪魔しまーす!」


 先頭に立って橋を駆け上がり、船内に踏み込むラフィニア。

 だがそれに応える声はない。あくまで声は、だが。


 ジャキンッ!


 船内に踏み込んだ直後の所、そこに歩哨が左右に一名ずつ立っていた。

 手に持った長銃には、銃口の下に槍のような刃が取り付けられている。

 確か銃剣という武器だ。


 それを左右から交錯させるように×の字を作り、ラフィニアの道を塞いだのである。

 言葉は何も発せず、無言で。

 完全に顔まで隠れた全身鎧は、ヴィルマの率いていた天上領(ハイランド)の兵だ。

 監視役兼警備役として、こちらに回されたのだろう。


「あ、あの……! すいません、中に入れて貰えませんか!?」


 ラフィニアの訴えにも、二人の兵士は無言で通せんぼをしたままだ。


「だめって事ですか……!? じゃあ教えて下さい、この中に無理やり連れて来られた人達はまだいるんですか……!?」


 質問を変えるラフィニアだが、それにも天上領(ハイランド)の兵士は無言だ。


「さっきヴィルマさんが連れて行った子が、ヴェネフィクの皇女だって言うのは本当ですか……!?」

「彼女をどうなさるおつもりなのです……!?」


 それらの質問全てに、二人の兵士は無言である。


「何かちょっとくらい答えてくれてもいいじゃないですか……!? ねえねえ、ねえ!」


 それでも無言。

 怒鳴って追い返そうとしても全くおかしくないのに、そのあたりは紳士的と言えるかも知れない。


「ねえクリス、どうしよう……!?」

「うーん……」


 殴って強行突破も勿論可能なのだが、その後の事を思えばあまり望ましくはない。

 こちらはセオドア特使の命を受け、カーラリアの国としてやってきている立場である。


 何かしでかせば、それはこのイルミナスとカーラリアの国の問題となりセオドア特使の立場も悪くなるだろう。


 それに何より、今はエリスがグレイフリールの石棺に入って処置中だ。

 裏を返せば、それはエリスを人質に取られている状態であるとも言える。

 立場的にはこちらが弱いのは間違いない。


 さてどうするか、と言った所である。


「運んで来た者達は、もうすでに引き渡してしまいましたよ? 天上人(ハイランダー)の騎士様が連れられた少女が、ヴェネフィクの皇女というのは本当です。皇女メルティナ様ですね。彼女は天恵武姫(ハイラル・メナス)となる適性があるようで、連れられて行きました。名誉な事ですね?」


 そう答えたのは、先程ヴィルマに挨拶していたアゼルスタン商会の代表、ユーバーだった。こちらの騒ぎを聞きつけたのか、兵士が封じる先の船内通路に姿を現していた。


 温和で良く通る低い声が、ラフィニア達が投げかけていた質問に全て答えて見せた。


「あ、あなたはさっきの……!」

「ええ。彼等は命令に忠実で、恐れも疲れも知らない夢の兵士ですが、あまり融通は効きませんのでね。私が代わりにお答えを、と。船を助けて頂いたお礼もしていませんでしたし……知りたい事のお答えになりましたか?」

「あ、ありがとうございます……」


 とお礼は言うものの、ラフィニアの顔から警戒の色は消えない。

 このユーバーの率いるアゼルスタン商会が人身売買のように人を運んで来たのだから、それは当然だろう。

 イングリスとしては、下手に仲良くなられるより余程いい。


「でもじゃあ、皇女様以外の人達はどこに……!? あの人言ってました、私と一緒に連れて来られた人たちを助けて欲しいって。きっといい人なんだと思います……! そんな人を売り渡すなんてひどい! どうしてそんな事……!」

「まあまあ、落ち着いて。私共はお助け頂いたあなた方と事を荒立てるつもりは御座いませんし、可能であれば今後とも良いお付き合いをさせて頂ければと思います」

「そう思うなら、あたしの質問に答えて下さい!」

「ええ勿論。ですがここで立ち話も何ですから、中にお入り頂いてお茶菓子などいかがでしょうか? 皆様、こちらお客人ですのでお通し頂きたく」


 ユーバーがそう呼び掛けると、二人の兵士は道を開けてくれた。

 流石に船の所有者の言う事くらいは、多少聞いてくれるようだ。


 そして船内に通され、大きめの応接室のようなところでお茶を出して貰った。

 中々いい香りの、上等なお茶だ。上品な味がする。

 一緒に付いて来たお茶菓子のクッキーも美味しい。


「これ美味しいね? ラニ」

「うん……美味しい……」


 と言いつつも、ラフィニアは仏頂面に近いような緊張状態だ。

 美味しいものに遭遇した時の、いつもの輝くような笑顔がない。

 状況が状況だけに、仕方がないだろうが。


「失礼ながらアゼルスタン商会という名は、カーラリアではあまり耳にしたことが無いのですが、主にどちらで商売をなさっているのですか?」

「私共は主にヴェネフィクやその南東部の友好国の方で商売をしておりますよ。カーラリアにはあまり近づきませんので、ご存じないのも致し方ないでしょうね」


 小さな六歳の姿のイングリスにも、ユーバーは非常に丁寧に答えて来る。


「ヴェネフィクの国から請け負う商売も多いから、カーラリアまで手を広げると今ある仕事を失ってしまいかねない……という事でしょうか? 確かにヴェネフィクとカーラリアの関係は悪化していますから、下手に手を出すと内通を疑われてしまいますね」

「ふむ……? どうしてそう思われるのです?」

「皇女を奪って天上領(ハイランド)に差し出しに来るなんて、一介の商人が望むような事ではないでしょうから。そんな事をすれば大罪人として商会ごと潰されて終わりです。ですからヴェネフィク内で内紛があり、それに敗れた皇女様の身柄を、アゼルスタン商会がお預かりになったのかなと考えました。それを任されるくらいなのであれば、御用商人というべき程の立場なのかな、と」


 そう言う立場であれば、ヴェネフィクと敵対するカーラリアで商売を行うのは危険だろう。ヴェネフィクの国に対する義理を通しておいた方がいい。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


『面白かったor面白そう』

『応援してやろう』

『イングリスちゃん!』


などと思われた方は、ぜひ積極的にブックマークや下の評価欄(☆が並んでいる所)からの評価をお願い致します。


皆さんに少しずつ取って頂いた手間が、作者にとって、とても大きな励みになります!


ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ