第415話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》24
「じゃあラフィニアさん、レオーネさん、リーゼロッテさん、イングリスちゃん、少しだけだったけど凄く貴重な経験だったし、お魚美味しかったよ! またね!」
イングリス達と出会った海岸から少し街に近づいた大きな道の脇に、地下へと続く階段があった。マイスはここから上がって来たそうだ。
分厚い隔壁のようなものが下りていたが、マイスの聖痕に反応してぽっかりと一人分の入口が開いた。
笑顔でこちらに手を振って、マイスは中に入っていく。
「またね~! 今度はお肉も一緒に食べようね!」
マイス以上の勢いで、手を振って見送るラフィニアだった。
「さようなら、またラニと遊んでくださいね?」
「気を付けて戻ってね?」
「ご両親をあまり心配させないようになさって下さいね?」
イングリス達も笑顔でマイスを見送り、そして――すぐに大工廠に引き返した。
そこでは既に、損傷したアゼルスタン商会の飛空戦艦の修理が始まっていた。
無人の機械の手がいくつも船体に取り付いていた。
ユーバーの姿は既にそこには無く、いたのは都市内移動の機甲鳥に乗り込もうとしているヴィルマと、それに伴われている少女だった。
年齢はこちらとそう変わらないだろう。
小さくなっている今のイングリスではなく、16歳の大きいほうのイングリスとだ。
水色がかった優しい色合いの銀髪をしており、長さは肩くらいまでで、女性としては少々短いほうだろう。
今は少しやつれているように見えるが、気品のある美しい顔立ちをしている。
額に聖痕は無く、イングリス達のように滞在用の儀式衣も身に着けていない。
間違いなく、アゼルスタン商会の船に乗っていたのだろう。
その少女はこちらを見つけると、必死の様子で訴えかけて来る。
「あ、あなた達……! 地上の方ですか!? お願いです、どうか……! どうか私と共に連れられて来た者達をお助け下さい……! 彼等は私に賛同し私に付き従って下さっただけ。何の罪も無いのです!」
「え……!? ど、どういう事ですか!? あなたは誰なの……!?」
ラフィニアが反応し、少女に問いかける。
「私はヴェネフィクの皇女……!」
「行くぞ。お前をお待ちの方がいる」
ヴィルマが少女の言葉を制し、機甲鳥を発進させてしまう。
「あ……! 待って下さい、ヴィルマさん!」
「……隔壁。管理権限により、一時間の間、再開放を禁止」
飛び去ってすぐ、大工廠から出て行く道が閉ざされてしまった。
ヴィルマの言葉通りなら、暫く待てばまた通行できそうだが。
「あの子、ヴェネフィクの皇女って言ってたわ……! 聞こえたわよね?」
「ええ、レオーネ。わたくしにも聞こえましたわ……!」
「あの船は、あの子を運んでくるためのものだったの……?」
「だけどラニ、それだけじゃないはずだよ? あの子は私と共に連れられて来た者達を助けて欲しいって言ってたし……」
「うん、自分の事より人の事心配してたわよね……きっといい子なんだわ」
まあラフィニアの場合は、性善説で考えるため、どんな物事や人もいいように見ようとするわけだが。
「どうする、ラニ? あの子の言う通りにしてみる?」
つまり、他に連れらて来た者達を助ける、という事だ。
「うん、そうする! 壁は閉まっちゃったし、暫く出られそうもないから……他の人達を探してみよ! 壁が開いたら、あの子の後を追うわ。勝手に壊して通ったら怒られちゃうし!」
「うん分かった、ラニ」
「レオーネとリーゼロッテもそれでいい?」
「ええいいわよ、ラフィニア。そうしましょう……!」
「勿論ですわ。ヴェネフィクの皇女様というのが本当であれば、あの方をお助けする事によって、ヴェネフィクとカーラリアとの関係改善の糸口が見えるかも知れませんわね」
「おぉリーゼロッテ、かしこい! それ凄く良いわよね、クリス?」
「え? うーん……どうかなあ? 人間、本気で殴り合ってこそ、お互いに分かり合えるっていう説もあるし……?」
イングリスはうーんと唸る。
「それ拳で語るってやつでしょ! そんなのクリスとかジル様にしか通用しないわよ!」
「そう? でもほら、ロシュフォール先生と同格の騎士もまだいるって聞いたし、結構期待できると思う、ヴェネフィク軍。一気に全員で来てくれると嬉しいかな?」
「それ全面戦争でしょ! ダメダメ、そんなの! ほら行くわよ!」
「うんまあ、ラニの言う事はちゃんと聞くよ?」
ヴェネフィク軍との全面戦争も一興だが、ラフィニアがそれを止めたいと言うならば、それに従うのは吝かではないと言うか、喜びである。
ラフィニアの喜ぶ顔が見たいのだから仕方がない。
実戦の相手としては、最悪武公ジルドグリーヴァがいてくれるので、どうしても戦う相手が欲しくなったら、彼を訪ねて戦って下さいと言えば即座に相手してくれるだろう。
「どこへ行くの、ラフィニア?」
「あれよあれ! アゼルスタン商会の船! 中にまだ他の人がいるかも知れないわ!」
「そうですわね。あれはあくまで地上の商人の船ですから、多少騒ぎがあっても天上領とは無関係と言えますし……!」
「じゃあ、さっそく!」
イングリス達は、アゼルスタン商会の船に乗り込んで行った。
無人の機械の手が船体にの周りを取り囲んでいるが、特にこちらに反応する事は無く黙々と作業が続いている。
大きな支柱に支えられ、桟橋に係留されている状態であり、船内から桟橋へと通行する橋が架かっている状態だった。
となると甲板に人は見えないが、中にはいるかも知れない。
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