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第414話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》23

 イルミナス本島。大工廠――


「いやあ、助かりました。こちらを探して低空を飛んでいたところ、魔石獣の群れに襲われてしまいまして……救助頂き、深く感謝致します」


 イングリスや機竜達の手によって大工廠へと運び込まれた飛空戦艦から降りて来たのは、地上の人間だった。

 腰を折るように深く一礼する青年は、銀色の髪をした背の高い美丈夫で、身に着けた片眼鏡が印象的だ。

 物腰柔らかで爽やかな印象は、きっとラフィニアのお眼鏡に――


「おぉ……」

「ダメ!」


 イングリスはラフィニアの背中からぴょんと抱き着き、手で目を塞いだ。

 余計なものは見せないに限るのである。


「あ、ちょっとクリス……! 何するのよぉ……!?」

「変なものは見ちゃいけません!」

「もう、真面目に話そうとしている時に……」

「お邪魔になってしまいますわよ?」


 レオーネとリーゼロッテがため息を吐く。


「……どうかなさいましたか?」


 片眼鏡の青年が、きょとんとしてこちらを見ている。


「いや、気にせず放っておいて頂こう」


 ヴィルマがそう応じ、青年の方をじっと見つめる。


「……アゼルスタン商会の者か。見ない顔だが……?」

「ええ、お初にお目にかかります。私はユーバー・アゼルスタン。父は病に臥せっておりまして、引退せざるを得なくなりました。私が後を継いで、これまで通りのお付き合いをさせて頂きたく存じます。何卒、よろしくお願い申し上げます」

「上の方に報告し、指示を仰ぐ。恐らくは問題ないと思うが、ここで暫く待ってくれ」

「は。よろしくお願いいたします。ですが嵩張る荷は、一度降ろしても……? 補修の邪魔にもなりそうですから」

「任せる。手助けは必要か?」

「いえ、自分の足で歩けますので……」


 柔らかに言うユーバーだが、その内容は決して柔らかくなどはない。

 自分の足で歩けて、指示すれば動く積み荷。

 それはつまり――人間かも知れない。


 天上人(ハイランダー)による人狩りがあったり、また地上の人間の側から、同じ地上の人間を奴隷として天上人(ハイランダー)に売るような者達がいるというのは聞いた事がある。

 これはその後者。地上側の奴隷商人、かも知れない。

 それが飛空戦艦まで有しているのは驚きであるが、確かに多数を集めて運ぶにはこれ以上ない手段でもある。


 流石にカーラリアでは飛空戦艦を有した奴隷商人の話は聞いた事が無いので、別の国を根城にしている者達だろうが。アゼルスタン商会の名は覚えておいた方がよさそうだ。

 ラーアルやファルスが率いていたランバー商会よりも、遥かに悪質かもしれない。


 だが解せないのは、世の中には確かにそう言う存在があるとして、このイルミナスと取引をしている様子なのは何故だろう?


 先程海遊びをしている時に知り合った、天上人(ハイランダー)の少年マイスによると、イルミナスには地上の人間の奴隷はおらず、それは悪い事だと教えられているとの話だったはずだ。


「クリス、手を放して……!」


 ラフィニアが強い口調と力で、目を塞ぐイングリスの手を引き剥がす。


「ヴィルマさん……! それってどういうことですか……!? 積み荷って……!?」

「…………」


 ヴィルマはラフィニアを、少々困ったような顔で見ている。


「ヴィルマさん……!」

「それよりも、その子をどうした? 何故住民の子がここにいる……?」


 ヴィルマはマイスの方を見て、ラフィニアに問う。


「それは、その……海で遊んでいる時に、街に出て来たっていうこの子と会ったんです。途中で船と魔石獣が来たから、成り行きで一緒に……」

「そうか。悪戯っ子を保護してくれたのだな。ならば来た所から返してやってくれないか? この子の両親も心配しているだろう」

「待って下さい、話は……!」

「下手をすると、お前達を子供を誘拐した犯人だと見做さねばならなくなる。そんな事はさせないでくれ」

「でも……!」


 なおも退こうとしないラフィニアを止めたのは、マイスだった。


「ら、ラフィニアさん……僕、ラフィニアさん達に迷惑はかけたくないから、帰るね? 確かに父さんや母さんが探しに出て来て、大騒ぎになってるかも。送ってくれるんでしょ? さあ行こうよ」


 マイスからそう言ってくれて助かる。


 ラフィニアがヴィルマと喧嘩をするのはよろしくないが、イングリスとしてはラフィニアが力づくでも船の積み荷を改めろと言うなら、そうするだろう。

 とは言え中に心躍るような強者がいるわけもないだろうし、あまり気乗りはしないのが正直な所ではある。


 力づくで踏み込んだとして、ヴィルマがそれを止めるために、機竜を超えるような秘密兵器を繰り出してくれる可能性には期待できるかもしれないが。


「マイスくん……うん、分かった」


 マイスに促されるとラフィニアもそちらを優先せざるを得ず、皆で星のお姫様(スター・プリンセス)号に乗り込んだ。


 飛び立ったところで、マイスが真剣な顔つきでラフィニアに言う。


「ラフィニアさん、僕を送ったら急いであそこに戻ってね? 今の騎士様は、何か隠してる……僕を言い訳にしたけど、僕がいなければ言い逃れは出来ないよ。足を引っ張っちゃってごめん」


 どうやらマイスの方が冷静に、ヴィルマを問い詰めようとしているらしい。


「マイスくん……ううん、いいのよ! きっちりヴィルマさんを問い詰めて来るから!」

「うん、よろしく! 何があるのか結果を教えてね? また聞きに来るから!」

「あ~、それってまた抜け出して来るって事じゃない。ダメでしょ~?」


 マイスをつんつんと指先で突っつくラフィニア。


「早く技公様の調子が良くなって、イルミナスが空に戻ってくれたら、そうしなくて済むんだけどね?」


 笑い合うラフィニアとマイスは、すっかり仲良くなっている様子で微笑ましい。

 こうして誰とでも仲良くなれるのが、ラフィニアの魅力だ。


 イングリスとしては、可愛い孫娘のようなラフィニアが、そういう姿勢を持ち合わせている事が誇らしいと思う。

 子育ての成功、というやつである。


 無論育てたのはビルフォード侯爵と伯母イリーナなのだが、ラフィニアの人生において最も長くの時間を共有した、という点においては、イングリスも負けてはいないはずだ。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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