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第412話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》21

 イングリスは自分の身体を指先でなぞりつつ、竜魔術を発動する。


 グオオオォォォ……ッ!


 竜魔術、竜氷の鎧。

 竜の意匠の蒼い鎧は、具現化すると大きく咆哮を上げた。


 そして更にそこに――


「はああぁぁっ!」


 霊素殻(エーテルシェル)


 竜氷の鎧は微弱な霊素殻(エーテルシェル)とも言うべき防御効果、身体能力の向上の効果がある。

 微弱と言ってもそれは比較対象が悪過ぎるからであって、その効果は十分。

 そして何より、霊素殻(エーテルシェル)との併用が出来る。


 現状のイングリスの能力では、同時に発動可能な力は霊素(エーテル)の戦技、竜理力(ドラゴン・ロア)、魔術の三種類がそれぞれ一つずつ。


 竜氷の鎧は竜理力(ドラゴン・ロア)と魔術を合わせた竜魔術。

 そして霊素殻(エーテルシェル)霊素(エーテル)の戦技。


 つまり全能力を駆使した、総動員の状態だ。


「あ、ちょっと待ってクリス……!」


 ラフィニアが止める間もなく、イングリスは海上に向かって走り出していた。

 いや、正確には恐らく走り出したはず――だ。

 何せ走る姿は視認できないのだから。


 とにかく早過ぎる。

 あっという間に海上の彼方まで、海水が凍り付いた轍が伸びて行くのだけが見える。


「な……! え、えええぇぇぇっ……!? き、消えて――いやあの海に向かって伸びてる跡がイングリスちゃんの……!?」

「マイスくん。クリスが戦う所、好きなだけ見ていいわよ……見えたら、だけどね」

「う、うん。がんばる……!」

「とにかく、私達も追いましょう!」

「わたくしも一足先に参りますわ! 皆さんは機甲鳥(フライギア)で!」


 ラフィニア達も、イングリスを追いかけて動き始める。


 その時、既にイングリスは海上をやって来る何かの正体を視認していた。


「……! 虹の王(プリズマー)じゃない……!?」


 むしろ、魔石獣ですらなかった。


「飛空戦艦……!?」


 ヴィルマが指揮していたイルミナスの飛空戦艦より格段に古そうで、カーラリアにある二隻の戦艦よりも古いかも知れない。武装らしきものも少ない印象だ。

 恐らく旧式のものなのだろう。


 それが船体後方から煙を噴き上げつつ、水面近くを跳ねながら何とか前進している状態だ。

 おそらく放っておけば完全に推力を失い、海に沈んでしまうだろう。

 そしてその船体を追い立てるように、鳥型の魔石獣の群れが追跡して来ている。

 水面近くには、沈んだ後に餌にありつくつもりであろう、魚型の魔石獣の姿もある。


「これは……魔石獣に襲われて……!?」


 イルミナスに向かって来るはずの飛空戦艦が、魔石獣の襲撃に遭い沈みかけている。

 これはそういう状況だろう。


「……ならば!」


 イングリスは船体の間近まで迫ると、進行方向を転換して並走を始める。

 霊素殻(エーテルシェル)は解除。

 霊素穿(エーテルピアス)で、手近な魔石獣を何体か撃ち落として行く。


 だが、これはあくまでついでだ。

 ここは流石に、魔石獣との戦いは後回しにするしかない。

 後続でラフィニア達がやって来るので、そちらに任せるとして、自分はこの沈みそうな飛空戦艦を何とかした方がいい。

 これは、恐らくイングリスにしかできない事だ。


 バシャアアアアァァッ!


 飛空戦艦が何とか身じろぎするように、水面を跳ねて少しだけ浮かぶ。

 先程から何度か繰り返していた動き。この瞬間が狙い目だ。


「そこだっ!」


 霊素殻(エーテルシェル)を再び発動。

 浮いた船体の真下に回り込むと、そのまま足元を蹴って船底に手を着く。

 そのまま身を捻りながら力を込めて――


「はああああああぁぁぁっ!」


 思い切り、飛空戦艦の船体を投げ飛ばす!

 イングリスの加えた力によって、飛空戦艦の飛ぶ軌道は明確に高く遠くなり、勢いも増した。

 だが、これだけではイルミナスの陸地までは届かない。

 沈没を少し早めただけになってしまう。続く手が必要だ。


「まだまだっ!」


 イングリスは着地をすると、投げ飛ばした飛空戦艦より速い速度で海面を駆け抜け、再びその船底の真下に回り込む。

 先程と同じように、空中の戦艦に飛びついて、身を捻って力を込める。


「もう一つッ!」


 再び軌道をぐんと高く遠くに持ち上げられる飛空戦艦。

 浮いているうちに、もう一度力を加え続けるのがコツである。

 水面に足を着いた状態だと、受け止めようとしても足元は氷が浮いているだけ。

 重みで沈んでしまうからだ。


 必要なのは飛空戦艦が飛ぶより速く海面を走る事と、飛空戦艦を投げ飛ばせるくらいに強い力だ。

 流石に霊素殻(エーテルシェル)と竜氷の鎧の二重発動状態でも、腕にかなりの重みを感じる。これはこれで、いい訓練だ。


 ――このままこれを繰り返して、安全圏、即ちイルミナスに上陸するまで運ぶ。

 再びイングリスが飛空戦艦の船底に回り込んだ時、向こうからやって来るラフィニア達とすれ違った。


「クリスーーーー! いいわよ、そのまま運んで!」

「うん、分かった! ラニ達は追って来る魔石獣の方をお願い!」

「おっけー! 任せといて!」


 すれ違った後も、イングリスはイルミナスへと向けて飛空戦艦を投げ飛ばし、軌道に先回りして更に投げ続ける。

 その途中で、イルミナスから飛び立った機竜達ともすれ違った。

 こちらが一足早かったが、魔石獣の迎撃に出て来たようだ。


「機竜……! こちらに何もして来ないという事は……!」


 機竜は飛空戦艦自体やイングリスに対しては何もして来ず、素通しである。

 これはつまり、この行動を容認するという事だ。

 ならばこのまま行く!


「もう一つッ! もう一つッ! もう一つッ!」


 だんだんとイルミナス本島が、陸地が近づいてくる。


「最後っ! はあああぁぁっ!」


 最後の一投がそれまでと違うのは、それが陸地に飛んで行くという事だ。

 つまり、先回りした先で受け止める必要がある。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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