第411話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》20
「ええええええぇぇぇぇぇぇっ!?」
マイスが悲鳴のような歓声を上げる。
「天上領でも直接上陸されたら、壊滅するって言われてる化け物なのに……!? す、凄いや……! あ、じゃあもしかして、今虹の王が現れたら、イングリスちゃんが虹の王を倒す所を見られるって事……!?」
「虹の王さえ呼んでくれれば、喜んで」
にっこりと笑みを浮かべて、イングリスは答える。
今すぐに現れるとなると、エリスはいないため天恵武姫抜きの戦いになるが、それはそれ。
今度こそ、本当の自分の力が試される戦いになる。
それはそれで、悪くないだろう。
自分もいつまでも、今までの自分ではない。新しく生み出した竜魔術もある。
いずれは、完全独力での虹の王撃破を達成しなければならない。
「わああぁぁ……! 来ないかなぁ……!? 来たら大変だけど、見てみたいなぁ……!」
「そうだね、わたしも来て欲しいな……!」
うんうんと頷き合うイングリスとマイス。
「ははは……あたしはそれはイヤだけど……」
「もう、皆さんで物騒な事を願わないで下さいませ……! あながち冗談では済まなくなるかも知れませんのよ?」
と、リーゼロッテが困った顔をして、そんな事を言い出す。
「え? どういう事、リーゼロッテ?」
「ひょっとして虹の王に心当たりがあるの……!?」
ラフィニアとレオーネが、少々緊張した顔をする。
「おおおぉぉ……! やった……! ねえどんな話? どこにいるの? どうしたら会えるの?」
「だから喜ばないで下さいと……! まあ、今さらイングリスさんに言っても無駄なのは重々承知してはいますが……」
リーゼロッテは深くため息を吐いた後、それでもちゃんと教えてくれる。
「ここは我がシアロトから海に出た、シャケル外海で御座いましょう? この海域には昔から海の悪魔が現れて行き来する船を沈める……という逸話がございます。実際、我がアールシア家に残されている記録では……シャケル外海を渡る探査船を何度か送り出しているのですが、その殆どは帰らず、一度だけ帰還した船の乗組員が海の悪魔を見たと……それは、虹色の鱗に包まれた巨大魚だったそうですわ」
「虹色の鱗……それって、つまり……」
「虹の王ね……」
ラフィニアとレオーネの表情が引きしまる。
「ええ……この海は広大です。そんなに簡単にここが見つかるとは思いませんが、可能性が完全に無いわけではありません。用心するに越したことはありませんわ」
「……となると、早くこのイルミナスに空に戻って貰わないと困るわね」
「レオーネの言う通りね。修理ってまだ時間がかかるのかなあ? ねえマイスくん、こういう事って結構起こるの?」
「いや、こんなのはじめてだよ……! 少なくとも僕が知ってる限りでは一度も……」
マイスはそう言って首を振る。
「あ、何か来るよ」
イングリスは海の方向を指差してそう言った。
巨大な水飛沫を立てながら、何かがこちらに迫っているのが見えるのだ。
水飛沫に隠されて、遠目からはハッキリと分からない。
もう少し近づいてこないと、だ。
「「「えええぇぇっ!?」」」
ラフィニア達の声を上げたのは、嫌な予感がしたからだ。
「ほ、ホントだ! 何あれ……!?」
「ひょ、ひょっとして海の悪魔……!?」
「ま、まさかそんなに都合よく! こちらはエリス様もいらっしゃいませんのに……!」
ちょうど今話していた内容。
海の悪魔と言われる、この海域に潜む虹の王。
噂をすれば影、という言葉もある。
「やった……! さすが虹の王は話が分かるね!」
一方イングリスは、期待に胸を膨らませていた。
戦いたいときに丁度よく現れてくれる強敵。
これ程ありがたい存在はないだろう。
「もう……! 大きくても小さくてもクリスはいつも通りクリスなんだから! でも、もし虹の王なら、あたし達がここにいる時で良かったわ。せっかく仲良くできそうな天上人の人達なんだもの。セイリーン様や、セオドア特使と同じ……! だから必ず守るのよ、クリス……!」
「うん、結果的にはそうして見せるよ……!」
「今はエリス様もリップル様もいないけど、私達で何とか……!」
「もし今ここでわたくし達が虹の王を倒すことが出来るのなら、シャケル外海を安全に航海できるようになりますわ……! それはシアロトの街のためにも、カーラリアの国のためにもなります……!」
皆虹の王が現れたのならば戦う、という事に異論はないようだった。
ならば――
「じゃあ早速、見に行ってくるね!」
先を越されてはならない。
自分は一対一で虹の王と戦って倒したいのだ。
それに、前に氷漬けの巨鳥の虹の王と戦った時は、天上人ではない地上の人間すら魔石獣化してしまう力を発揮していた。
あれは恐らく、巨鳥の虹の王が更に進化した半人半鳥の強化型ゆえに起きた現象であり、その海の悪魔の虹の王はそうではないだろうとは思う。
そして、その近くでもラフィニアは問題なかったため、恐らく大丈夫だろう。
同じ上級印のリーゼロッテも、更に上の特級印を得たレオーネも同じく、だ。
――が、それでも可愛い孫娘のようなラフィニアには、万が一の危険も近づけたくはない。それが親心ならぬ祖父心である。
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