第410話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》19
「で、そこんとこどうなの、マイスくん?」
「天上人の住民の人達は、みんな地下に避難してるって話だったわね?」
「ええ、レオーネの言う通りですわ。虹の雨の予知や防御が出来ないから危険だと……ひょっとして、勝手に出て来たのですか?」
「う、うん実は……いつか地上をこの目で見てみたかったから……! イルミナスが海に落ちただけだから、純粋な地上の国とは違うけど、それでもどうしても見てみたくて……! でも同じイルミナスの街なのに、普段と全然見え方も匂いも違う……! 世界って広いんだね……!」
知的好奇心が満たされて、とても興奮気味のマイスだった。
「ははは……楽しそうなのはいいけど、勝手に出て来ちゃったのはまずいんじゃないかなあ?」
ラフィニアの指摘に、マイスは少々目を伏せる。
「そうだね、後で怒られると思う。けど、どうせ怒られるのならもう少しだけ見逃して下さい……! もう少ししたら必ず帰るから……!」
「仕方ないなあ、もう少しだけよ? あと、あんまりあたし達から離れないでね?」
「ありがとう、ラフィニアさん!」
マイスはぱっと顔を輝かせる。
「ラフィニア、そんな簡単に……他の天上人達が避難しているのは、それだけの必要があるからだと思うけど……?」
「そうですわ、何かがあってからでは……」
「だから、よ。あたし達がついていてあげた方が安全でしょ? 一番危ないのは虹の雨だろうけど、あたし達は浴びても平気だから守ってあげられるわ。いざとなったら体を張って、覆い被さってあげればいいんだから」
まあそこまでせずとも、例えばレオーネの黒い大剣の魔印武具を大きくして傘にしたり、色々手はあるだろう。
問題はそれをする側が虹の雨を浴びかねないという事だが、自分達なら浴びても平気だ。
「それに、天上人の子ともう少し話してみたいと思わない? せっかくマイスくんも、もっとあたし達といたいって言ってくれてるんだし」
「いや、マイス君はそうは言ってないと思うよ、ラニ」
「もちろん、一緒にいていいならいるよ! 地上の人と話せるなんてすごく貴重だよ。ねえ、地上の女の人って、みんなラフィニアさんやレオーネさんやリーゼロッテさんみたいに綺麗なの?」
屈託ないマイスの問いかけには、特に裏のようなものは見受けられない。
「え? やだ~マイスくんったら、お世辞が上手なんだから~♪」
ばしばしマイスの背中を叩くものだから、少々むせてしまっている。
「……まあ、そうね。もう少しだけなら」
「そうですわね……異なる文化の方とお話をするのは、確かに良い経験ですわ」
レオーネとリーゼロッテも、実はそんなに悪い気はしていなさそうである。
ラフィニアに賛成する方向に傾いている。
「っていうかマイス君って、地上の人見た事ないんだ? ここにはいないの?」
天上領には、地上から連れて来られて奴隷にされる人達がいると聞くのだが、マイスはそれらの人間を見た事が無いのだろうか?
ヴィルキン第一博士のいた中央研究所には、確かに地上の人間はいなかった。
そこは天上人達の中でも特に優秀な研究者が集まる特別な場所だから、と考えると合点は行くが、一般の場所にもいないのだろうか。
「昔はいたって聞くよ。だけどそれは良くない事だから、会った事が無くて良かったんだと思う……」
マイスの表情が、少し沈んだような雰囲気になる。
「どういう事、マイスくん?」
「それは……」
「奴隷として、酷い扱いだったから……だよね?」
言い辛そうなマイスの代わりに、イングリスが先を言う。
「「「……!」」」
ラフィニア達が息を呑む。
「うん……そうなんだ。でもそれは事はいけない事だったんだよ。だからイルミナスでは技公様の下でどんどん色々なものを便利にして、そんな事しなくて済むようにしているんだ。僕はそれでいいと思う。自分が楽するために人に酷いことしていいわけがないし、そんな事を自分の両親や友達がしていたら、きっと嫌になるから……」
「そっか……いい所なんだね、このイルミナスって」
ラフィニアは、マイスの背中を優しく撫でる。
それで気が楽になったのか、マイスが再び笑顔を見せる。
「うん、そうだよ! 地上の人に酷い事をしない代わりに、仲良くなる機会も無いのはちょっと物足りないけど、ね。色々な事を聞いてみたいから」
「よぉし、じゃあどんどんあたしに聞きなさい、何でも教えてあげるから……!」
ラフィニアがどんと胸を叩く。
「ありがとう! じゃあ、地上では街を一歩外に出たら、魔石獣がウヨウヨしてるって本当……!?」
「いや、ウヨウヨて程じゃあないわよ? 確かに虹の雨が降るといっぱい出て来ちゃうし、虹の王なんかは、自分の力で弱い魔石獣を生みだしたりしてるみたいよね」
「虹の王……! 最強の魔石獣だよね? それがいるから、僕達は地上では暮らせないって……ラフィニアさん、見た事があるの?」
「見たどころか、この間戦ってきたわよ?」
ラフィニアが得意げに、力こぶの仕草をする。
「へえええ~~~凄い……!」
マイスが尊敬の眼差しでラフィニアを見る。
「で、この子が虹の王と戦って倒しちゃいました~♪」
イングリスを捕まえて、ひょいと抱っこする。
さっきのラフィニアを真似して、力こぶの仕草でもしておこうか。
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