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第409話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》18

「あれ? レオーネ、リンちゃんは?」

「え? あれ……? いないわ、どこに行ったのかしら?」

「さ、さあ? わたくしにも……」

「あ、あそこ」


 イングリスは後ろを指差す。

 レオーネの胸元からいつの間にか抜け出していたリンちゃんは、近くの小屋の物陰に滑り込んで行こうとしていた。


「リンちゃん……! どこ行くの……?」


 ラフィニアがそう呼びかけた直後――


「うわわわっ……!? な、なんだこいつ……っ!?」


 驚いたような少年の声が、響いて来た。


「……!? 誰かいるの……!?」


 イングリス達がそちらに向かうと、額に聖痕を持つ人の姿があった。


「……天上人(ハイランダー)の男の子……?」


 ラフィニアの言う通りだった。


 外見の年齢はアリーナと同じくらい。

 十歳ほどだろうか? 今のイングリスよりは年上のように見える。

 栗色の髪の、利発そうな顔つきの少年だった。


「こ、こんにちは……」


 敵意はないようで、向こうから挨拶をしてきてくれた。

 少々警戒気味なのは、止むを得ない所だろう。


 そんな相手を、愛想のいいラフィニアが歓迎しないはずがなかった。


「こんにちは! あたしはラフィニアよ! これ、食べる?」


 満面の笑みで、魚の串を差し出す。


「……ラニ、それもう骨だけで身が残ってないよ?」

「ああっ!? しまった……! ええと、じゃあこっち……!」

「それも骨だけだよ……? っていうか全部骨だけだよ?」


 だからレオーネにお代わりを要求したばかりではないか。


「ああん、もう……! ちょっと待っててね、ええと……お名前は? 何くん?」

「ま、マイス……です」


 マイス少年は少々気圧され気味にだが、ラフィニアの笑顔に笑顔で返事をした。


 そして、暫く経って――


「美味しい……!」


 顔を輝かせるマイスの手元には、再びレオーネに取って貰った魚の串が握られていた。


「うんうん、美味しいわよね~♪ やっぱ獲れたてが一番よ、お魚は!」

「それに、魚って本当にこんな美しい姿をしてるんだね。絵や本の知識でしか知らなかったけれど……」

「え? お魚食べた事ないの?」


 マイスの感想にきょとんとするラフィニア。


「食べた事はあるけれど、天上領(ハイランド)で僕達が目にするのは、料理された後のものだから……」

「そういえば、何回か食べさせて貰ったけど、出て来るお魚は全部切り身だったね? 骨も取ってあったよ」


 と、イングリスは天上領(ハイランド)での食事の事を思い出す。


「うん、そうなんだ……! だから、知識では魚はこの姿だけど、本当は切り身が海を泳いでるんじゃないかって、ちょっと疑ってて……でも違った、本物はとっても綺麗で美味しいよ!」


 魚を食べて緊張がほぐれて来たのか、マイスは屈託のない笑みを浮かべる。


「うんうん、そうよね! いっぱい食べていっぱい大きくなるのよ、マイスくん!」

「はいどうぞマイス君、おかわりだよ?」


 言いながら、イングリスとラフィニアはマイスの数倍の速度で魚を骨にして行く。


「ははは……二人みたいには無理だけど……知らなかったなあ、地上の人って物凄くたくさん食べるんだね……」


 イングリスからおかわりの串を手渡されつつ、マイスは引き攣った笑みを浮かべる。


「いやそれは誤解だから! この二人が特別なのよ?」

「そ、そうですわ……! そこはお間違えなきように……!」

「そ、そうなんだね。地上の人に会ったのは初めてだから、これが普通なのかと……」

「……私達も一緒で良かったわね」

「ええ、認識が歪んでしまう所でしたわね……」


 レオーネとリーゼロッテはほっと胸を撫で下ろすのだが、マイスは少し残念そうだ。


「そうかあ、本でも学校でも教えて貰ってない発見だって思ったんだけど、違うのかあ」

「ほひょろれみゃいろひゅぬ、りょろしゅれほほへにゃるろろ?(ところでマイスくん、どうしてここにいたの?)」


 口をもぐもぐさせながら、ラフィニアがマイスに尋ねる。

 少々お行儀が悪いかも知れない。年上のお姉さんとしてはどうなのだろう。


「え、ええと……?」

「ラニは、ところでマイスくん、どうしてここにいたの? って言ってます」

「すごい……! 地上の人は口いっぱいに物を頬張りながらでも話が出来るんだ……!」

「いやそれも誤解だから……! そんなのこの二人だけだから!」

「もう、お二人ともちゃんとなさって……! マイスさんに悪影響ですわよ」


 リーゼロッテからお小言が飛ぶ。


「ひゃい……! ん~……んっく。ごめんごめん、つい美味しくって」

「……わたしは別に悪いことしてないのに」


 まとめて注意された。


「まあまあ、あたしとクリスの仲だから、いいじゃない」


 頭をぽんぽんと撫でられて誤魔化された。


「うん、そうだね。ラニ」


 イングリスとしては、自分はラフィニアの保護者でもある。

 ラフィニアの行動に関する諸々の事は、甘んじて受け入れるのである。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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