第407話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》16
それから数日――
イングリス達は絶海の孤島と化した天上領、イルミナスの端っこの海岸に来ていた。
海岸と言っても、普段は遥か天空の彼方を移動している天上領にとっては、そうなってしまっているのは不本意極まりないだろうが。
着水した端っこのほうの飛空戦艦の発着場が、ちょうど海の桟橋のようになっていて、海遊びには持って来いなのである。
「よーし! 行け~! レオーネ!」
「頑張って下さい、レオーネ!」
「や、やってみるわね……!」
と言い合っているラフィニア達は、三人とも水着姿である。
当然、ここに来る前はこんな自体は想定していなかった。
海遊びをしようと言い出したラフィニアが、全員分の水着を作ったのだ。
イングリスも勿論、子供用の水着を作って貰っていた。
水面に映る自分の姿は、まるで天使のように可愛らしい。
思わず暫く水面とにらめっこしてしまったが、こうも思ってしまうのだ。
普段の大人の姿での水着姿も見てみたかった、と。
さぞかし華やかで艶めかしく、瑞々しい果実のような肢体は、とても見応えがあっただろう。
せっかくの海ならば、大人の身体の大人の魅力を、自分自身で楽しみたいではないか。
その点は、残念であると言わざるを得ない。
一応、いつ大人の身体に戻ってもいいように、大人用の水着も用意して貰ったが。
「ほらほら、クリスもレオーネを応援してあげてよ!」
そう言うラフィニアの腕の中に、リンちゃんがいた。
リンちゃんを元に戻せるか、所見を貰って来て欲しいとのセオドア特使の指令だったが、技公のシステムから独立した天恵武姫の対応とは違い、現状では詳しく調査が出来ないため何とも出来ないと言われてしまったのだ。
エリスだけの事なら、年単位で時間がかかるとの事なので、一旦イングリス達は騎士アカデミーに戻るところだろう。
イングリス達が天上領に出発した直後にアルカードに向かったはずの封魔騎士団の動向も気になる。必要ならば合流する事も考えねばならない。
だが、リンちゃんの事があるため、現在のイルミナスの不具合が解消され正常に戻るのを待ち、改めてヴィルキン第一博士の所見を得る事にしたのだ。
ゆえにこうして海遊びをしたりしながら、待機をしている。
一応、魔石獣が現れた時に迎撃に手を貸すという約束で、暫くの滞在を認めて貰った。
技公が沈黙中のイルミナスでは、予備の動力で凌いでいるらしい。
が、その影響で虹の雨に対する降雨予報や、防御結界が機能しない状態になっており、しかも移動が出来ない。
かなり防御力の低下した危険な状態であり、イングリス達の協力は助かるとヴィルマも言っていた。
それはそうと、レオーネである。
水着姿でイングリス以上に豊かな胸元を惜しげもなく晒したレオーネは、健康的な魅力に満ち溢れているが、今はそれが重要なのではない。
右手にいつもの黒い大剣の魔印武具。
左手にはラフィニアの魔印武具である光の雨。
そして背にリーゼロッテの斧槍の魔印武具。
三人分の魔印武具を携えているのだった。
「大丈夫。今のレオーネなら全部使えるはずだよ。頑張ってね?」
ヴィルキン第一博士の手によって、刻み直してもらった特級印。
虹色の輝きは、今もレオーネの右手の甲で淡く輝いている。
特級印を持つ者は武器化した天恵武姫を振るう事だけでなく、その他全ての魔印武具を扱うことが出来る。
三人の魔印武具を全て使う事も出来るはずだ。
海水浴のついでに、それを実験しようという事である。
「ええ……やってみるわ……!」
凛と表情を引き締めるレオーネ。
そんな顔をするような恰好ではないが。
「……翼よっ!」
レオーネの背に、純白の翼が現れる。
それが力強く羽ばたいて、レオーネの姿を宙に運んだ。
「きゃ……っ!?」
初めて使う奇蹟ゆえか、少々空中でバランスを崩しているが、大きな問題はないだろう。
「こう……? こうね……!?」
すぐに慣れて、飛行の機動が安定する。
そこでレオーネはぴたりと静止し、今度は光の雨を引き絞る。
「光の矢……! ラフィニアみたいに細かくは狙えないけど……! とにかく乱れ撃てば……!」
レオーネは高い空中から水面に向け、弓を強く引き絞る。
手の中に生まれた矢はどんどん大きさと太さを増し、膨れ上がって行く。
そして大きな太い光の矢を放った直後い、高らかに叫ぶ。
「弾けてっ!」
その号令で、光の矢が細かく分裂して、尾を引く無数の光になる。
ラフィニアの魔印武具の扱いを、結構再現できているように見える。
ラフィニアの場合は更に分裂した矢の軌道を操り、牽制や陽動など変則的な動きにも対応させる制御力を持っているが。
レオーネが放って拡散した光が、海面に突き刺さって無数の水飛沫を立てる。
けたたましく響く水音が収まって、数秒。
水面にぷかぷかと、何かが浮き上がって来た。
それはかなりの数の魚である。
レオーネは空中から水中の魚影を探し、光の雨の光の矢を雨霰と打ち込んだのである。
特級印の訓練兼、食糧確保である。
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