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第405話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》14

 翌日、イングリス達はヴィルキン第一博士に案内されて、中央研究所の地下階層に案内されていた。

 そこに、天恵武姫(ハイラル・メナス)を生み出す施設があるらしい。

 これからエリスがそこに入り処置が開始されるので、見送りに来させてもらったのだ。


 一度処置が始まれば、一、二年は会えなくなるとの事なので、かなり名残惜しくはある。ここの施設を使用してセオドア特使に連絡を取った所、やはりエリスの希望通りヴィルキン第一博士の言う新機能を組み込む事になったのだ。


 それに、ある意味天上領(ハイランド)の中核技術の一つとも言える天恵武姫(ハイラル・メナス)を生む施設がどんなものであるか、見ておきたいというのもある。


「ほら~あれだよ~。あれが天恵武姫(ハイラル・メナス)製造施設さ~」


 広大な、自然の岩石が剥き出しの地下空間。

 このイルミナス本島がどこの大地から切り取られて来たものかは知らないが、その頃からの名残のものだろうか。


 そしてそこには、たった一つだけの構造物がある。


「な、何あれ……!?」

「凄く大きな、石の箱……?」

「まるで石棺のようでもありますわね……」


 見上げる程に巨大な、石の棺。

 言葉で表せば、そのようなものになるだろうか。

 この広大な地下空間の中にも、かなりの存在感を以て鎮座している。


「不思議な光ね……ゆらゆらしてて」


 石棺の表面には、レオーネの言う通り淡く不安定な輝きが漂っている。


「でも何か落ち着くって言うか、懐かしいような気もするわね~」

「儚げで、美しいですわ」

「…………」


 イングリスは黙って、ラフィニア達の言葉を聞いていた。

 黙るだけの理由があった。

 見覚えがあったからだ。前世のイングリス王の記憶として。


「あれは『グレイフリールの石棺』って言ってね~。エリス君にはあの中に入って貰って、修復と改造を行う事になるよ~」

「また、あれに入る事になるとはね。もう見たくないはずだったけれど……」


 エリスはふうとため息を吐く。

 普段はあまりしない、肩にかかった髪をかき上げる仕草。

 少々緊張しているのが見て取れる。


「……いや――」


 違う。

 グレイフリールというのが人名なのか何を指すのかは分からない。

 が、本来のあれは天恵武姫(ハイラル・メナス)を作るものではない。


(あれは『狭間の岩戸』……! まさかここで目にするとは……!)


 驚きを禁じ得ない。

 あれは、古い神が造り出した訓練場だ。

 女神アリスティアは、狭間の岩戸と呼んでいた。

 前世のイングリス王が、シルヴェール王国を建国する前、女神アリスティアの加護を与えられ神騎士(ディバインナイト)になったばかりの頃、そこを訪れた事がある。


 神騎士(ディバインナイト)になったからとて、すぐに霊素(エーテル)を自由自在に操れるわけではない。

 霊素弾(エーテルストライク)霊素殻(エーテルシェル)を身に着けるだけでも、何年もの修行が必要だった。


 だが当時は乱世。人同士が争い、魔物や魔神が跋扈し、ひどい有様だった。

 神騎士(ディバインナイト)になったイングリス青年が、何年も悠長に修行をしていられる情勢ではなかったのである。

 そこで女神アリスティアは、イングリス青年を狭間の岩戸に導いた。


 狭間の岩戸は世界において不安定な存在で、その位置も安定せず転移を繰り返し、内部においては時間の流れが外部と隔絶されている。


 外から見ると完全に密封されて、出入り口の無い岩の箱だが、神やそれに準じる神騎士(ディバインナイト)ならば入り口を開くことが出来た。

 そして一度中に入って出入り口を閉じると、中から開く事は不可能。

 外から出口を開いて貰って、脱出するしかないという代物だ。


 イングリス青年はここに籠り、霊素(エーテル)を操れるようになるべく修練をした。基本的な霊素(エーテル)の戦技を体感数年でようやく身に着け、その後女神アリスティアの手によって外から開けて貰うと、外の世界では数日しか経っていなかった。


 若き青年の日の頃の思い出である。

 イングリス王も是非もう一度訪れてみたいとは思っていたが、自身の立場と世界の情勢がそれを許さず、亡くなるまでその機会には恵まれなかった。


 今となっては、自分の体感時間としては中に入っていても別に変わらず、その分歳は取ってしまうため、必ずしもイングリスにとって必須の施設ではないが。


 これは目の前に巨大な危機が迫っており、こちら側としては短い時間で一気に強くなりたいという場合や、忙しい時間の僅かな隙間でも充実した修行をしたい、というように、時間が無い人間向けの修行場である。


 立場を身軽にしたイングリス・ユークスにとっての優先度は高くない。


「不思議な輝きでしょ~? あれ何で光ってるか分からないんだよね~?」

天上領(ハイランド)の技術でも……ですか」

「凄いですわね……」


 レオーネとリーゼロッテがヴィルキン第一博士に応じる。

 魔素(マナ)の界面で分析すれば、確かにそうだろう。


 巨大な石棺を包むあの仄かな光は、霊素(エーテル)の輝きだ。

 あの石自体が、ただの石ではなく神が生み出した神器のようなものだ。


 それを不安定な位相から切り離して固定し、今ここに。

 どうやって? 何が起きてこうなって、天恵武姫(ハイラル・メナス)の生産施設として転用されているのか?


 だが神竜フフェイルベインと言い、この狭間の岩戸と言い、イングリス王が見聞したものをよく目にするものだ。


「クリス……? どうしたの?」

「い、いや何でもないよ……!」

「……また何か良からぬ事を企んでたんじゃないでしょうね?」

「いや、大丈夫だよ、何も企んでないよ……あっ」


 ふと一つ、思いついた事がある。

 結構いい思い付きだ。イングリス達の今の状況を改善するような――


「何? どうしたの?」

「いや……ちょっと中、入ってみたいなぁって」

「ちょっと! やっぱり良からぬ事企んでるじゃない……!」


 それが聞こえていたのか、ヴィルキン第一博士が苦笑する。


「いや~、流石にそれは許可できないな~。入るのはエリス君だけにしてくれないと~。異物混入して中で何かあったら~次代の天恵武姫(ハイラル・メナス)も作れなくなるかも知れなくて~世界のピンチ! ってなるかもだからね~?」

「はい、ごめんなさい……! ちゃーんと掴まえておきますから!」


 ラフィニアがイングリスを持ち上げてぎゅっと抱きしめる。

 イングリスは母猫に持ち運ばれる子猫のような姿勢で連れて行かれる。


「よろしくたのむよ~?」


 ヴィルキン第一博士がにっこりと微笑んでいる。


 まあ流石に、内部の立ち入りは許可されないだろうとは思った。

 無理に強行してこちらの天上領(ハイランド)と敵対するのもよろしくない。

 今のイングリス達の行動は、地上のカーラリアという国の行動と見做されてしまう。


 いずれ機会があれば、と言った所だ。

 機会が来る頃には、そもそも内部に入る事が不要になっている可能性もあるが。


 と、話している間に、イングリス達は巨大な石棺のすぐ手前にやって来た。

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