第403話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》12
「でさでさ~、ここからが面白い所なんだけどさ~。エリス君って今振り返ってみると適性レベルがさ~」
「リーゼロッテと同じSSレベルとかですか? エリスさんなんだから当然よね、あたし達の天恵武姫だもん……!」
ラフィニアが鼻息を荒くする。
「いやいや違うんだよね~。真逆だよ真逆」
「「「真逆?」」」
ラフィニア達が声を揃えて聞き返す。
「そう! 適性レベルF! 成功率で言えば十万分の一以下だよ~……! こんなのほぼ確実に死んじゃうから~、今なら絶対にやらないよ~勿体ないからね。適性がないなら他の事に使った方がいいに決まってるよ~。当時は分からなかったのかも知れないけど~、こんな適性で天恵武姫化を強行するなんて、尋常じゃないね~。まるでエリス君を殺すのが目的だったようにも見えるよ~」
にこにこと嬉しそうに言うヴィルキン第一博士。
人の事を言えた義理ではないかも知れないが、中々の不謹慎さである。
「エリスさん……」
ラフィニアが気遣わしげにエリスの名を呼ぶ。
「……それで、私の元々の適性が低いから修復は出来ないと?」
エリスはまるで揺らがず、そう問い返す。
そして、ラフィニアの肩をぽんと叩く。
「大丈夫よ、あの時の私にはそれしか選択肢は無かった。結果的に成功して今ここにいるのだもの。確率がどうこうは、もう意味のない話だわ。気にしないで」
「は、はい……」
ラフィニアがほっとしたような表情をする。
「そうだね~何だかんだ成功しちゃえば勝ちってところではあるだろうけど~。エリス君元々適性が低いからか、各種体組織の密度がスカスカでさ~。ホント無理やり天恵武姫にしましたって感じ~。これじゃ同格の存在と打ち合った場合、強度的には見劣りする事が避けられないかな~って」
「……! そう、あの戦いで足を引っ張ったのは私という事ね……」
揺らがなかったエリスの表情が、少々悔しそうに歪む。
武公ジルドグリーヴァとのお見合いもとい手合わせで、武器化したエリスが傷ついてしまった時のことが思い出されるのだろう。
「まあスカスカだけに割と簡単に修復は出来るよね~」
「それは、どのくらいですか?」
「一月くらいあれば~、かな?」
少々長いが、十分現実的な期間である。
となるとエリスへの処置を待ってカーラリアに帰るか、一度戻ってまた出直すかは考え所である。
と、にわかにヴィルキン第一博士が目を輝かせ始める。
「でもさでもさ……! そこを一、二年に延長して、新機能を試してみない……!?」
「新機能……!?」
「そう……! エリス君、確かに無理やり作った天恵武姫で~中身スカスカで~過去の根性論の遺物って感じだけど~。そのスカスカさ、逆に活かせると思うんだよね~。災い転じて福となすって感じ~? 今となったら逆に貴重だよ~、こんな状態の天恵武姫って~」
「……褒められているのか、けなされているのか、分からないわね」
エリスはふうとため息を吐く。
「褒めてるよ~。結果的にこれまでの天恵武姫にない存在になれるかも知れないよ~。僕の研究者魂が疼くんだよね~。エリス君を見てるとさ~どうする~?」
年単位となると、かなり長い気はするが、非現実的な数字と言うわけでもない。
イングリス達は、一度騎士アカデミーに戻る事にはなるだろうが。
いずれにせよ、エリスの意思次第だろうか。
イングリスとしては、エリスやリップル達天恵武姫の武器化に頼った戦い方は本来の自分自身の力ではなく、人の手を借りているという感覚であるため、絶対に新機能を選んで欲しいとは思わない。
むしろ自分自身の力を伸ばして、武器化した天恵武姫を振るう自分を超えて行きたいと思う。
目指すべき目標が高くなることは、悪い事ではないが。
「……どう思う?」
エリスはイングリスに向かって尋ねて来る。
「……人の姿のエリスさんの強さも、今以上になるのでしょうか?」
「そこを気にするの……?」
「より強くなるには、より強度の高い訓練が何より重要ですので……! どうでしょうか、博士?」
「どうかなあ……? そっちも強化される可能性はあるけど、絶対ではないね~。あくまで武器化形態時の新機能だよ~」
「では、やはりエリスさんの意志が一番重要かと思いますが」
「……武器化した私の性能向上は、あなたが強くなるのと同じ意味ではないのかしら? どちらにせよ、あなた以外に私達の使い手はいないのだから」
「確かに、わたしが適任という事に異論はありませんが……」
天恵武姫最大の罠とも言うべき、使い手の生命力を削り命を奪ってしまう欠陥を回避出来るのだから。
特級印を持つ聖騎士にとって、天恵武姫は命と引き換えに強大な虹の王を討つ最終兵器である。
が、イングリスにとっては特に何の副作用も無い最強の武器という体感である。
ただし、天恵武姫は意志を持ち普段は妙齢の女性と何ら変わらないため、人の手を借りているようにしか思えない。
天恵武姫を携えて戦いに臨む時、イングリスとしては一対一ではなく二対一で戦っていると感じるのだ。
他に手段が無ければ仕方が無いが、出来れば避けたい事態である。
己自身の武を極めたいというイングリスの信念とは違うから。
やはり戦いの華は正々堂々の一対一である。
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